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「試合開始!」
「『焔』」
「さっきの魔法か……」
試合が始まった瞬間に、僕は素早く先ほどのように上昇気流を作り出して、空中に漂った。理由としては場所に対して、人の数が多い。だから上空に出て少しでも自由に動くことができる。それにもう一つ、空から試合の様子を眺めることで冷静に判断をすることができる。
「さて、と」
ここで僕が取れる選択肢は二つ。一つ目は『焔』でなんとなしに攻撃し続けること。そしてもう一つは『不知火』を撃って勝負を終わらせること。どっちでも構わないのだけど……さっき目だったし別に何も変わらないか。それに、長いあいだ浮遊することはキツイし。
「『不知火』」
「え?」
「ぎゃああああああ」
試合会場を埋め尽くすように僕は焔を燃やしていく。面倒なことは気にしないでさっさと終わらせた方がいいしね。それに油断はしないけど全力を出さないで窮地に陥りたくないからね。
「『焔』」
「うわあああああ」
そして『不知火』で倒したところで『焔』を使って倒れている人たちを全部拭きとばす。さっきの魔法で意識を失っているなら簡単にステージから出すことができる。これで大体8割がたの人間が失格になった。残っているのはあと……僕含め5人。あ、さっきの筋肉隆々の人は残ってる。
「お前、やばい魔法を使うんだな……敵をほとんど倒してくれて助かったぜ。次は、お前だ『風剣』」
「!」
あの人は風使いだったんだな。風で作られた剣が僕に向かって飛んでくる。数はそこまで多くない……だから体をひねったりして避ける。避けたのはいいけど、避けた先の地面がぬかるんでいて、足が取られてしまう。
「お前強かったんだな」
「君は……誰?」
僕に話しかけてきたのは美希のクラスメイトの男の子。でも、互いに自己紹介をしていなかったので名前がわからない。ただ、顔見知りが残っているのは少し意外だったな。さすがは美希のクラスメイトか。……そんな言われ方しても絶対に嬉しくないだろうけど。
「お前ら阿藤さんのなんなんだ」
「え? あー、戦友?」
親友か迷ったけどどちらかといえば戦友の方が近い気がしたのでそう答える。なんていうか、特別な存在なんだよね。もちろん恋愛的な感情は全くないけど。僕のその答えを聞いてそのクラスメイトは少しだけ不機嫌そうに続きを話す。
「それだけか? なら、どうしてあれから阿藤さんは暗い表情をしているんだよ」
「なんだぁ、お前ら女の取り合いか? 悪いが今は……試合中なんだよ!『風』」
「うわっ」
「……『焔』」
全くもってその通りだよな。あの男性の言っていることは間違っていない。というかむしろ攻撃する直前に声をかけてくれるだけ優しい。何も言わないで裏から攻撃されたとして文句を言う権利なんて僕たちには存在しないから。ただ、今の感じからすると、この男性、なかなか強い気がする。
「『焔』」
「!、近寄れない」
焔を自分を囲うように展開していく。男性もクラスメイトも巻き込まれないように慌てて距離を取る。さっきの感じを見るにあのクラスメイトは……、
「火なら……消せばいい『水』」
うん、だよね。地面がぬかるんでいたのもあいつが地面を濡らしていたからだよな。僕に向かって水を放ってくる。でも、その程度の水では僕の焔を消すことはできないよ。
「水で消せないだと」
「へえ、属性の不利を覆すぐらいの実力差があるのか、坊主、相手が悪かったな『風剣』」
「うぐっ」
「あの水属性のガキから倒すか」
「……倒しやすいやつから倒すのは鉄則よね」
残っていた他の二人もあのクラスメイトに向かって攻撃をしかけている。数を減らしておけばその分不意打ちを受ける可能性が減るからね。
「くそっ、『水』」
「その程度の魔法で俺の攻撃が防げるか! 『風』」
「そっちのガキも油断してるなよ『火』」
「油断なんてするはずがないよ」
残っていたのは男性と女性が一人ずつ。女性はクラスメイトの方を狙っているみたいだけど、男性は僕に向かって魔法を放ってきた。攻撃対象になっていないと思い込んで油断して相手の動きを見ていないと思っているのか。
「俺の魔法を吸収した?」
「僕の方が実力が高いみたいだね『焔』」
「ぎゃあああああ」
でも、残念。相手の魔法を吸収してそのまま『焔』を発動してそのまま燃やした。これで残りは4人。クラスメイトの方はどうなっているのかな。
「『風剣』」
「うそっ」
「油断したな嬢ちゃん」
あの筋肉隆々の男性が女性を倒したみたいだ。気絶しているのか、動く気配がない。さすがに戦っているところで倒れられているのは危険だな。
「お前、なかなか器用だな」
「火で人を運んだ? それも火傷させることなく」
「慣れたらできるようになるよ」
「へえ、それまでにどれだけ鍛えたんだろうな! 『風剣』」
「『焔』」
「うぐっ」
「自由自在かよ」
僕のところに向かってくる風の剣は全て焔で打ち払う。そしてそのまま二人に向けて焔を放っていく。男性の方は後ろに下がって避けた。クラスメイトの方はかなり全力で魔法を使ったのか少しだけ息切れしている。
「属性は有利なはずなのに」
「まあ、経験の差ということで」
「経験で相性は覆るか」
「『焔』」
自分の体に焔を纏わせて二人に攻撃する。防ごうとした風も、水も全部貫いて、相手の体に当てる。筋肉の方は倒すことに成功したが、クラスメイトの方はさすがに耐えられちゃったか。
「あとは、君だけだね」
「ほんと、なんなんだよ」
「遠距離系というか、やっぱり直接殴った方がいいかもな」
「は?」
足に焔を集めてそのまま一気に距離を縮める。そのまま拳に切り替えてクラスメイトの体を思いっきり殴る。直接殴ることは予想外だったのか、虚をつくことに成功して、クラスメイトの体は思いっきり吹き飛ぶ。
「そこまで!」
「ふぅ」
クラスメイトが倒れたと同時に試合終了の合図がかかる。僕の勝ちだ。試合を見ていた人たちからの声援を受けながら、僕はユナちゃんたちがいるところに戻っていく。
「さすがです、ケイ様」
「お前が『不知火』を使うのって珍しいな」
「面倒だったからね。ユナちゃん、ありがとう」
『ふーん、ねえ、美希。あの子って美希の知り合いよね?』
「そうだけど」
『相性有利とはいえけーの焔を防ぐなんてやるわね』
「さすがに相性の問題でしょ」
正直意外だったのは事実だけど相性はどうしようもないからね。それよりも、僕の試合が終わったということは、
「水希、出番じゃない?」
「あ、そうか。それじゃ行ってくる」
「頑張りなさいね」
水希が戦いに行くのを見送る。そして、僕は美希に向き直って気になったことを質問する。
「そういえば美希はクラスメイトのところに行かなくてもいいのか?」
「平気よ。中途半端と言われてもしっかりと悩みたいから」
「そっか。それで、他に参加者は?」
「私も参加してるよ? それから圭たちが会ったあの子達」
「なるほどね」
美希もいるのなら、間違いなく『叢雨』は手に入るだろうな。そんなことを思いながら、僕は水希の戦いを見物した。




