09
レイモンド様と歩いている間、無言が続いて、少し気まずかった。
この状況に焦っていて気付くのが遅れてしまったが、気付いたときには、見知らぬ部屋の前にいた。
「あのー、ここは?」
「俺の部屋だ。」
「保健室に行くんじゃなかったんですか。」
「保健室に行ってどうするんだ。」
「だってさっき妊娠するとか言ってましたよね?」
「そんなの冗談に決まってるだろう!」
そんな冗談私に分かるわけないじゃん!
「アイリーンって思ったよりバカだったんだな。」
むかっ。
「そんなこと言ったら、レイモンド様こそ、初めより俺様じゃないですか!」
「あの時はちょっと格好つけていたんだ!
いいから部屋に入るぞ。」
「ちょっと待って下さいよ。」
私の言葉は見事に無視されて部屋に引っ張り込まれた。
部屋の中には背中くらいまである黒髪に赤い瞳を持つ美しい青年がいた。
「お初にお目にかかります。私、レイモンド様の執事をしております、グリードと申します。」
余りの美しさに思わずぼーっと見とれているとレイモンド様にほっぺたを引っ張られた。
はっ、いけない!
「はじめまして。私はレイモンド様の同級生でアイリーン・シュタイナーと申します。」
「グリード、強力な消毒液を持って来てくれ。」
「かしこまりました。」
再びレイモンド様と二人きりになってしまった。
何となく落ち着かなくてレイモンド様に話しかけてみることにした。
「あの、レイモンド様……」
「レイでいい。親しいものは皆そう呼んでいる。」
「なら、尚更そんなことしない方がいいんじゃないでしょうか?」
「何故?」
な、何故って、
「私とレイモンド様が親密な関係だと誤解されてしまうかもしれないからです。」
「それの何に問題がある。それともアイリーンには誤解されたら困るような相手でもいるのか?」
怖い。何に怒ってるのか分からないけど、とにかく顔が怖い!
「すまない。怖がらせるつもりはなかったんだ。ただ、アイリーンに恋人がいたらと思うと……。」
「ははは!レイモンド様ってお世辞がお上手ですね。そんなことあるわけないじゃないですか。クラスでも変人扱いで浮いてるのに。」
「そんなことは……」
「レイモンド様、アイリーン様に例の消毒液をお持ちしました。」
レイモンド様は一瞬名残惜しそうな顔をした気がしたが、グリートさんから消毒液を受けとると私に向きあった。
「アイリーン、じっとしててくれ。」
そう言うとレイモンド様は私の顔を消毒液のついたガーゼで拭き始めた。
「この消毒液はかぶれなどの心配はありませんので、ご心配なさらなくとも大丈夫です。」
グリードさん、私今そんなことは心配してませんよ。
暫く拭くと満足したのかレイモンド様は拭くのをやめて私を見た。
「さっきも言っただろ?レイモンド様じゃなくレイと呼べと。ついでに敬語もいらない。俺の方が年下だしな。グリードもそう呼んでるぞ。
そうだよな!」
「勿論でございます、レイ様。」
さっきまでレイモンド様って呼んでたじゃん。嘘つき!
心の中で罵ってから口を開いた。
「流石にそんなわけにはいきません。妥協してレイ様とは呼びますが、敬語は外せません!」
そんな爵位を無視した非常識なことできな……
「レイ様は幼き頃から大人に囲まれてお育ちになられました。そのため親しい方と言えば、母君であられる公爵夫人と、公爵様しかいらっしゃいません。学校に入ってからも年上の方々に囲まれて、いらっしゃいますのでこれといって親しい方は……」
「わ、わかりましたから!
レイ、これからクラスメイトとして仲良くしましょう!」
「クラスメイトとしてではない。婚約者としてだ。」
「あ、そうだよね。
って、え?今なんと……」
「だから婚約者と言った……」
レイの言葉を聞き終える前に気が遠くなって私は倒れた。




