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女騎士と奴隷と悪役令嬢

 う~ん、何だろう。

 この男は本当に人間なんだろうか?


「ツバキ様、如何されました?

 眉をしかめられて」



 私の前に立つ黒髪の男。


 1年前に野盗の住みかで見つけた少年奴隷、たった1年で私の背を抜いて肩幅も胸板も逞しく成長した。


 うす汚れていた黒髪も今は艶のある漆黒に変わり、痩せこけた頬も今や精悍な引き締まった顔になっている。


 私の周りの女達がこの男の事を『影の貴公子』と秘かに呼んでいるくらいだ。


「たった1年で変わりすぎだろう」


 つい声に出てしまうくらい、彼は外見だけでなく中身も成長している。


 彼が手に持っているキイは今弓矢でササが狩った。


 キイは速く飛ぶ鳥でなかなか撃ち落とせない獲物なのだが、そのキイを簡単に射落とす狩りの腕に、この男はもしかして人間ではなくて別の生き物なのではと思ってしまった。



「申し訳ありません。ツバキ様に良い所をお見せしたくてハリキリ過ぎてしまいました」


「あ~別に責めたわけではない。気にするなササ」



 ササという名は私の親友ローズが彼に付けたが、名前の意味は分からない。


 ただ、ササという音を私は気に入り、ササと付けられた男が嫌がらなかったからこの名前にした。


 私の奴隷なのだから私が名前を付けるのが良いのだろうが、私にはセンスが無いから仕方がない。



「今日は十分に狩りを楽しんだし、そろそろ家へ戻るとしよう」


「畏まりました。ツバキ様」



 ササはこの1年で剣術が騎士の上位の者に匹敵するぐらいの腕前になり、弓を射らせればほぼ100発100中で獲物を狩る。馬もなんなく乗りこなし私の後ろを苦もなく駆けて付いてくる。



 ササを奴隷だと知らなければ彼は完璧な貴公子に見える。



 そして彼は生い立ちが不幸なせいか立派な体躯に成長した今も愁いを帯び、女性の目を引く妖しげな雰囲気を持っているのだ。


 恋愛ごとに疎く異性に対して興味のない私でもササを『影の貴公子』と呼ぶ気持ちが分かるほど、ササは美しく立派な若者だと思う。


 ササは私に忠誠を誓う奴隷だが、このところササに見つめられると何だか落ち着かない気持ちになる。



 私は女だが騎士だ。

 幼い頃から兄2人の背中を見て育ち、思春期に騎士となってからは周囲は男しかいないような環境で育った。


 今まで男性を意識した事などなかったのにササに対しては男を感じてしまう。


 ササは今は奴隷の立場ではなく私の従士として仕事をしていて、彼が望めば嫁も取れる。

 女にもてるササに何時彼にとって特別な女性が出来るのか考えると胸が痛くなってくる。


 はあ、これはもうササへの想いをどう考えたらよいのか分からない。


 ……先日、兄の婚約者になったローズに相談してみるか。


 私は馬で駆けながらローズへササへの恋心を打ち明ける自分を想像して口角を上げた。

 私の話を聞いたローズはきっと、あの大きな瞳を落とすかのように見開いて驚いてくれるだろう。





 ▽▽▽




 これから数日後、カメリア領内にミモザという名の美少女の姿をした魔物が現れた。


「この世界は私の世界じゃない!!」


 と意味不明な言葉を叫びながら、凶暴な魔力を操りカメリア領内を暴れ回る。



 七日七晩の過酷な戦いの中、ツバキと従士ササや攻略対象者たちの活躍によりミモザは倒された。




 この戦いの中、ツバキとササはお互いの気持ちを知り結ばれた。


 ツバキは美人な女騎士で友人には異性が沢山いるが、恋愛関係に発展する男はいなかった。


 ツバキの親である領主夫婦はツバキの結婚相手を諦めるほど、領内や近隣の若人たちからツバキの横に並ぶのは尻込みされていたからだ。


 男達は言う。


 ツバキは黙っていれば美人でスタイルも良いが強すぎる。親は権力者だしツバキと結婚したら自分に立つ背は無しだと。


 だから、ミモザ討伐の後ササと結婚したいとツバキが両親に報告した時、領主夫妻はツバキが一生独身よりはササとくっ付いた方が良いだろうと判断した。


 こうして、ササはずっと好きだったツバキと結婚して至福の時間を過ごすことになった。




 ローズ令嬢はバッドエンドを迎える事は無く、婚約者でツバキの兄の次期領主モクレンと無事に結婚して優雅な奥様生活を送っている。


 ローズ嬢の結婚相手モクレンはゲームではメイン攻略対象者で、頭が良くて人目を惹く美貌にカメリア領一の剣士であり人望の高い美丈夫。


 政略結婚に見えて実はモクレンが初対面の10歳のローズに一目ぼれし、彼女との婚約を領主に望んで結婚した。


 モクレンはローズに惚れているため彼女をとても大切にしてくれている。


 ローズは『ミモザの庭』の中には推しキャラはいなかったのだが、現実のモクレンに接して彼を好きになっていた。だからローズもモクレンと結婚出来て幸せを感じている。


 ローズ嬢は日増しに膨らむお腹をさすりながら思った。


 ローズのバッドエンド回避の為に、主人公ミモザがゲーム内で起こすイベントを全部先取りで、悪役令嬢(わたし)が実践してしまったから、この世界におけるミモザの存在意義が無くなってしまったのかも知れないと。


 主人公(ミモザ)には悪い事をしてしまった。

 もしも、お腹の赤ちゃんが女の子だったならミモザと名付けて大切に育てよう。


 ローズは生まれてくる赤ん坊を想像しながら、黄色の毛糸で小さな靴下を編んでいる。


 穏やかな木漏れ日の中、ツバキもササもローズもカメリア領で平和な時を過ごしていく。






凄く書きたかった乙女ゲームが書けてとても嬉しいです。

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。

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