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「やったね、自由!――――とか、喜ぶ暇がないっ」
遠くに岩とか木とかしかない見渡す限りの草原で、私は今絶賛、王冠を被った大きなカエルから逃げ回っています。ナニコレ、すんごくデジャブ!
足元にある季節花ではない、たんぽぽと名付けられた花。クローバーが草原に敷き詰められ、シロツメクサが咲いている。こんな状況じゃなければ、花冠とか作ってのんびりできたのにっ・・・!
おっと、あの遠くに見える神殿は前と変わらないみたい。とすればあそこにまさか・・・いや、いるはずないか。魔族は存在しないんだし。こんな非常事態じゃなければ、ちょっと立ち寄りたかったっ!
畜生、私が何をした!
これで2度目ですよ?!
城外から出たら魔物に襲われるなんて、前世と合わせて2度目ですけど!何、何か私に恨みでもあるんですか!!!・・・ただ、運が悪いだけだったらへこむ。
「・・・っ」
ひぃ、カエルが、カエルがぶにょんぶにょんと音を立てて迫ってくるぅぅぅううぅぅぅぅ!!
ふ・・・ふふ、思い出すなぁ、前の生でカエルに殺されかけた時のことを。あの時、ライさんがいなかったら私、カエルに殺されて人生終了だったなぁ。・・・ふ、だが今の私はあの頃とは違う!違うんですよ!
まず1つ!
逃げながらも敵を観察する余裕がある!・・・幼児向けの絵本に出てくるような、王子の服を着たカエルって気色悪いですよね!顔・・・らしき部分が赤く紅潮し、二枚舌がべろんべろんと口に収まらず出てるのが余計にきもい!生理的に受け付けられないわ!!
「う・・・ひゃぁ!?」
二枚舌が迫ってきたので、回避しつつ速度をあげる。
「岩を貫いた?え、溶けた!!なにあの舌?!」
ひぃ、ナニコレ怖い!
だが、だがしかし!これで怯える私ではない!そう、今の私には前の時とは絶対的に違うモノがあーる!!
「今世で手に入れた魔法の力、初披露!」
よもや、エニマから魔法を教わる日が来るとは思わなかった。
新しい人生だけど、何があるか判らないものですね!
カエルに人差し指を向け、息を大きく吸い込む。――さぁ、やってやりましょうか!
「風よ、切り裂け!」
前の時代と違い、精霊の詩とか旋律とかそんなもの関係なく、どんな力を発するのか想像し、言葉に魔力を込めて放つだけって素晴らしく簡単でいいよね!
私、これ好きです。
人差し指から渦を巻いた風の槍が1つ現れ、カエルに向かって突進!・・・突進でいいのかな?とにかく攻撃を放った。うわぁい、初の魔法!初の攻撃!・・・やばい、感動して涙が。
「でも避けられると切ない!」
さっと、さっと顔らしき部分を傾けて魔法を回避しやがった。畜しょ、う・・・わぁ?!
何かに躓いてこけた。
こけてしまった。
うつ伏せに倒れた。
ああ・・・地面が痛いですね。――――とか、現実逃避をし始めた思考を引き留め、火事場の馬鹿力で稀に見る俊敏さを発揮した。・・・あしくびひねった。いたい。
「っは!」
地面が揺れる音が、近づいてくる。
これは振り返らなくても解る。判ってしまうっ。――振り返ったそこには、ヤツがいる!
「か、風よ!吹き飛ばせ!」
両手に魔力を込めて・・・・・・あれ。
「魔力が切れた」
私の魔力って、こんなになかったんだ。
絶望した!
私は絶望しました!
魔法が使える、やったー!な状況を喜ぶばかりに、魔力がどれだけあるのかまったく把握してなかった自分に絶望したっ!
正直、魔法が使えるってだけで有頂天になってました!
「ゲラゲラゲラ」
ああ、変な笑い声が死へのカウントダウンに聞こえてしまう。
「ゲラゲラゲラゲラヘ」
「ゲラへって何!」
振り返ってツッコみいれた直後、左に何か重いモノが落ちるような音がした。と、思えば今度は右。かと思えば顔面すれすれ。・・・遊ばれてる。
間違いなく、遊ばれているっ。
「こ・・・この」
低級であろう魔獣に遊ばれている状況、非常に、ひっじょぉぉぉぉに、腹立たしいっ!
ぼこすかと私の周囲に出来る穴、穴、穴、穴。
ゲラゲラゲラへの、ゲラへで地面に穴を開けるあの舌を掴み、引っ張ったら抜けないだろうか。舌が抜けて死なないだろうか。真面目に考えてしまうほどにイラついた。
何か、そう何かないだろうか。
この腹立たしいカエルを黙らせる、何かが――――!
悔しさに眼を閉じたその瞬間、風が通り抜けた。
次いで聞こえたのは耳障りな雑音。いや、悲鳴?とにかくそれで、何だと眼を開ければ赤が舞っていた。何気なく上を見る。
くるくる、くるくると舞うカエルの頭。
あれ、何だかデジャブ。・・・まさか!まさかライさんが前のように助けてくれた?辺りを見渡し、ライさんの姿を探して―――――。
「絶望した」
「はは、面白いお嬢ちゃんだな」
「・・・・・・あ、助かりました。ありがとうございます」
「そんながっかりした顔で言われてもなぁ」
「・・・すいません」
右手に長剣を持つ、紺色の軍服を着た筋肉粒々・・・だけど、どこか悪っぽい中年に落胆を隠さないまま礼を述べた。いや、失礼だと解っているけど、解っているんだけど。ライさんじゃなかった・・・。黒髪だけど、ライさんじゃない。ショックだ。
・・・地味にショックだ。
右腕に王国騎士団の証である腕章をつけている所を見るに、巡回の一環としてここにいるんだろう。もしくはさぼりで。いや、さぼりだな。だってどこを見ても部下とか上司とか、とにかく仲間がいない。欠伸をしながら長剣を鞘に収める姿はなんとも・・・騎士らしくない。
懐から煙草を取り出し、手慣れた様子で火をつける姿。やっぱり騎士らしくない。
騎士より冒険者っぽく見える。でも腕章と軍服から騎士であることに疑いを向けられない。・・・こんな人に税金を払っているのと思うと、なんとも複雑です。
けれどもその、さぼりの騎士に助けられた。それが何だかおかしい。
「なんだ?死にかけておかしくなったか?」
「憐れんだ眼を向けるのやめてください。いたって正常です!ただ」
「ただ?」
「・・・・・・・・・期待した人ではなかったことに、ショックを覚えただけです」
しぶりつつも、正直に話したら笑われた。
それはもう、声を大にして笑われた。ひどい。
「私の心は傷つきました。騎士団に訴えて、慰謝料を請求します」
「それはやめて。俺、今月の給料がないと生きてけねぇ」
真面目な顔で言われた。
「んで?なんでこんなところにお嬢ちゃんみたいなのがいるんだ?自殺志願か?」
「違います。違いますから、無言で飴を渡そうとしないでくれませんか?いりませんよ、何歳だと思ってるんですか」
「自殺を思い立つほど、苦労したんだな・・・アウラディオ家は没落するから安心しろ」
「だから自殺じゃ・・・・・・ん?」
「猫かぶりな姉のせいで大変だったんだろう?オルディが猫友の姉がって、よく酒の席で愚痴ってたからなぁ。お嬢ちゃん、リィン・アウラディオだろう?アイツが言ってた容姿そのまんまで、判り易いな」
「オルディと知り合い?」
「そ、同期」
お酒を飲むほどの仲、と言う事は・・・・・・ん?
もしかして、それなりに騎士団で地位のある人?疑問を解消すべく、腕章を注視した。穴が開くほどに凝視して・・・思わず中年の顔と腕章を見比べてしまった。
「第三師団・・・副団長?」
腕章に描かれている双頭の獅子の国章。その下に刻まれた3の数字。それらが銀色の糸で刺繍されている。・・・銀色の糸で刺繍された紋章を持つ者は、師団の中では副師団のみ。団長は金色の刺繍。ついでに言えば総長は銀と金、両方を合わせた糸を使っていたり。
わぁ、オルディと同じ腕章だぁ。・・・・・・嘘だろう。
「そう言えば、副団長の癖にさぼってばかりの同期がいるって言ってたような」
これがそうなのか。・・・そうなんだ。
「さぼりじゃない。ちょっとこの先にある湖に用があるだけだ」
「なら私の眼を見て言ってくれません?」
「あ、俺の名前はオズ。オズ・イレディ・レコー」
・・・もう、どう反応していいのか解らない。とりあえず・・・これがあのオズとは思えない!前の時と違いすぎじゃないですか!てか、違いだらけで共通点が見えたらないっ。
「時間もそうないし、話しながらアウラディオ家の没落理由を説明するわ」
と、言われて了承してないのに背中を押されて歩く羽目になった。私、足首怪我してるんですけど。と文句を言ったら治してくれた。・・・拒否権は?
えー・・・アウラディオ家が没落する理由は至極簡単で、もはや明確すぎるだろう――借金のせいです。
何に使った?姉ですよ、姉。全て姉に使ってました。馬鹿じゃねぇの!どれだけ姉に金使ったんだよ!と叫ばなかった私を誰か褒めて。いや、褒めることでもないか・・・。
オズ曰く、裏金と不正金にほぼ使用していたとかなんとか。
あとは服とか化粧品とか・・・食費とか。
他にも色々とあるらしいけど、私の耳はもう聞くことを拒否してスルー機能が発動しました。何も聞こえません。アウラディオ家関係のことは何も聞こえません。
とかやっていたらつきました。
見覚えのある湖に・・・ここは、変わってないみたい。オズと違って。
けれどやっぱりと言うか、何と言うか・・・いなかった。まぁ、当然と言えば当然なんだろうけど。それでも確認して湖を覗き込んだ私は、諦めが悪いのかもしれない。いや、悪いんだろうなぁ。
「・・・そう言えば、用があるとか言ってましたけど何かするんですか!?」
上半身裸のオズが隣にいて、私を一瞥したと思ったら躊躇いもなく湖に飛び込んだ。え、何?え?私に自殺志願とか言っておきながら、自分が自殺志願者?駄目だ、ネジが飛んで行ってまともに思考できない。
とりあえず・・・タオルを装備して待ってればいいかな?と、タオルを取り出して待機してたら、噴水があがった。違う。オズが飛び出て来た。飛沫が飛んで冷たいっ!・・・私がタオルを使おう。
「――――これでよし」
湖から出て来たオズは、憎らしいことに美しい筋肉を晒していた。水滴1つない姿で。――――ん?
「もしかして、水の賢者?」
「もしかしなくても水の賢者。本業は騎士だけど」
「はぁ、それじゃあ水の浄化でもしてたんですか?」
尋ねれば肯定された。なるほどなぁ・・・確かに、水の賢者は医療の知識に優れた、浄化のスペシャリストだった。なんか、月の乙女とかぶるな。薬学と医療。浄化と回復。
「あ」
「あ?」
ぼんやりと思考を巡らせていたら、オズが声を出した。視線が上を向いていたので、なんとなくそちらに向けて・・・・・・正直、見なきゃよかったと後悔した。
だって、龍の大軍ですよ?
飛竜の群れですよ?あれ、確実に、飛竜による空挺部隊である第三師団ですよ。うわぁ、降りて来てる。でかい。でかいよ、飛竜。顔が怖いよ、飛竜。
「んあ゛?なんで・・・いるんだ?」
「誰がですか」
「誰って・・・団長・・・や、王弟君?」
「・・・あ、眩暈が」
「しっかりしろー」
出来たら苦労はしない。
ああ・・・どんどん飛竜が近づいてくる。1匹ならまだいい、いや、よくないけど。それでも10匹、20匹は・・・・・・全部隊総出?何で?副団長を探しに?それにしても多くねぇ?うひぃ、吠えた!火が出た!
飛竜は火竜でもあったんですか!?
逃げ、どこかに逃げなければ・・・水?水の中なら安心かな?安心だね!よし!
「何やってんだ、お嬢ちゃん」
「ぐえ!?」
襟首をつかまないで!
「まぁまぁ、いい機会なんだから王弟君でも見ろよ。滅多に人前に出ないお方だから、貴重だぜ?」
「無理・・・無理無理無理無理無理無理無理無理無理!そんな人に逢うとか、心臓が口から出るくらい無理!」
「緊張で?」
「緊張と場違いさに!」
だから服を放して、私をどこかへ逃がして!後生ですからっ。
じたばたと暴れてみるけど、首を絞めるだけで意味がない。苦しいからすぐに諦めて、けれど逃げることを諦めずに隙を伺う。・・・・・・隙なんてわかんなかった。
ああ、飛竜が近づいてきた。
風圧が、翼を羽ばたかせるたびに風圧が・・・。風で髪とか服とかが大変なことに。
顔、想像より大きいですね。瞳が輝いてつぶらに見えるよ。
ふと、誰かが飛竜から飛び降りた。
飛び降りた・・・?地上までまだ、だいぶ遠いのに?え?・・・ぅあ!と、飛び降りてた!城の天辺よりも遠い位置から!?信じられない!眼の錯覚でも幻覚でもなかったっ。
1人が飛び降りれば、別の人も飛び降りて・・・実は第三師団って自殺志願者の集いなんじゃないだろうか。・・・真面目に考えてしまうぐらい、ありえない。何?何で飛び降りたの?死にたいの?怪我したいの?骨折したいの?――意味が解らない。
軽やかに着地した集団は、オズと同じ軍服を身に纏っている。その中の1人――そう、1人だけ衣装が違う。
違うと言っても軍服が黒とか、あと・・・飾緒があることとか黒い手袋をはめているとか、それから官帽を被っているとか帯刀しているとかだけなんだけど。・・・あれ、結構違う。
「あれが・・・・・・王弟君」
眼深に被った帽子で表情は見えないが、黒髪の美丈夫だ。雰囲気がそう言っている。
しかし・・・黒と言ってもあそこまで闇、という表現が似合う黒髪はないなぁ・・・ん?
「これはこれは、ごきげん麗しく。師団長がわざわざ師団総出でいかがしました?」
畏まった喋り方が嘘くさい。
う~む・・・顔は見えないけど姉と比べると出来に差がありすぎる、神様が創り上げた人形のような長身痩躯の男性だなぁ。王太子である兄が今年で25歳だったから、5歳の年齢差がある王弟の年齢は20歳。若いなぁ。顔、見たことないし、見れてないけど。
・・・なんか、見られてるような。
「お前はついでだ」
「ついで・・・?」
深くかぶった帽子のつばを上げ、王弟の顔がはっきりと見えた。
「――――また逢えたな、リィン」
鮮やかな血の色の瞳が私を映し出す。
「アウラディオ家が執拗にお前のことを隠すから、探すのに苦労した」
怠惰の感情が宿った双眸に、私は捕らえられて逃げられない。
ああ、この赤は。
血の色に見える紅玉の瞳を持つ男は――――。
「けど――――こうしてまた、逢えた」
ゆったりとした動作で近づき、私の頬を両手で触れるこの男の顔を見間違えるはずがない。声を聴き間違うはずがない。
前とは違い、ぞっとするほどではない冷たい手。
頬に触れるその手に手を重ね、私は笑った。いや、もしかしたら泣いているのかもしれない。視界が滲んで、よく・・・解らないや。
「俺のこと、覚えてるよな」
「覚えてますよ」
「そっか。まぁ、覚えてなくてもリィンを見つけたら傍に置くことは決定してたけど」
「私の拒否権は?!」
思わず叫べば、きょとりとした顔で首を傾げた。
「嫌なのか?」
「・・・・・・ずるいですよ、本当」
「嫌なのか?」
意地悪く笑い、私の額に額を重ねる。
「・・・嫌じゃ、ないです。ずっと、逢いたかった。傍にいたいです、今度はちゃんと」
世界が終わるまでじゃなくて、死ぬまで・・・一緒にいたい。
「・・・あの、師団長?」
――――っは!?
突如、と言うか、意識から消していたオズの声に状況を思い出した。こ、こんな・・・こんな恥ずかしい場面を人がいる前でしてしまったっ!しかも大勢!
ちらりと視線を動かせば、唖然としたようにこちらを見る第三師団の皆様方。
そうですよね。
唖然としますよね、吃驚しますよね。
血液が沸騰したような錯覚を覚え、顔が熱くなった。おそらく、頭から湯気がでていると思う。恥ずかしい。穴があったら入って埋まりたいレベルで恥ずかしい。
こ、ここの状況から逃げなければ!その一心で離れようとするけど・・・逆に抱きしめられて逃げられない。あれー?
視界一杯に黒い軍服がひろがるぅ。
「彼女はリィン。この俺――ラインハルト・ガルム・ガルド・オーフェの女だ。それ以外の説明は必要か?」
そう言えば、我が国の王の苗字って・・・ガルム・ガルド・オーフェだったわ。
今更過ぎることを思い出し、焦がれていた相手が今世で王子と言う事実に何だか泣きたくなった。身分差・・・。まだ魔王の方が・・・いや、それもどうだろう。
と、嘆いているのは私だけらしく、どうしてだか第三師団の方々が歓喜に沸いていた。何故!?「これで人探ししなくてすむ!」とか、「冷気の被害が減る!」とか、「想い人を見つけたら仕事をちゃんとするって、約束でしたからね!」とか聞こえるんですけど。え?
なんとか視線を動かしてみれば、オズが「そう言えば、身分関係なく結婚するとか王に宣言してたような」とか言っている。何それ、初耳。てか、え?え?・・・え?!どいうこと?
「悪いけど、放す気はねぇよ」
ライさんが不敵に笑う。
「惚れた女を手放すのは、ごめんだ」
前の世界で放したじゃないですか。そう反論する前に、唇を塞がれた。
・・・どうやら、私に拒否権はないようです。まぁ、嫌じゃないので問題ないんですけど。




