表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉が結婚するので家を出ます。  作者: 如月雨水
caelum 《空》
39/41

1

この章でラストです。

残り2話、お付き合いください。

この世界には魔法がある。

神秘の代名詞であり、この世界を守護する慈母神より与えられた奇跡の業。それは日常生活にも大変活躍し、魔力がない者でも魔石があれば――例えば光の魔石で暗闇を明るく灯したり、水の魔石で清純な水を出したりすることが出来る、欠かせない代物。

そんな便利な魔法があるからか、お決まりか、魔獣も存在していたりする。

そうすれは当然、最強最古と呼ばれるドラゴンだって存在する。

となれば、精霊だって存在する。

神秘の存在なんだから当然ですね!・・・常識だと、誰かが冷たくツッコんだような。

・・・ごほん。けれど神秘と関係のない魔獣は?存在はしている。けど、どうして存在しているのか、誰も知らない。神秘の存在じゃないのに。

とある学者は言う。――魔獣とは、世界に漂う魔力が形になって生まれた存在なのではないか。

でもそれが真実かどうか、誰も知らない。当たり前だ。殺せば霞か霧のように姿を消す魔獣のことを、どうやって調べられる。誰も知らないからこそ、判らないからこそ、憶測をたてたソレが事実かいまだに謎のまま。私の予想では、前の世界(・・・・・)の名残じゃないかな?と、思っている。当たってるかはさておいて。

ちなみに魔王は存在しない。

魔族だって存在しない。

存在するのは娯楽小説の中でだけ。勇者だってその中でしか存在できない架空の人物だ。勇者を救う聖女も、伝説の武器とかも存在しない。けれど神に愛される存在はいる。

神に愛される存在は何かしらの能力に秀でて、魔法とは異なる能力を持っているためにそう呼ばれている。ちなみに女なら乙女、男ならば賢者と呼ぶ。例えば、月の乙女ならば薬学と回復能力を持っている。と言う感じに。

これは憶測だけれど、神に愛された者は一種類の魔法に特化し、ありとあらゆる現象を奇跡のように操ることが出来るのだと思う。――かつての七聖女のような現人神(あらびとがみ)とはまた違う、存在なのだと。

・・・まぁ、なんだ。

何が言いたいのかと言うと私には現在(ここ)ではない、(まえ)の記憶があるんですよ。これが。



――物語上にしか登場しないはずの、勇者や魔王、聖女がいたと言う記憶が鮮明に。



まぁ、リィン=アウラディオだった頃の記憶があるんだから当然と言えば、当然なんだけど。出来れば後者の記憶は忘れていたかった。聖女とか、黒歴史。

あ、ちなみに今も同じ名前で、リィン・アウラディオです。ついでに言えば父親は男爵、母親は土地だけ広い子爵令嬢だった。アウラディオ家は、歴史はあるけれど権力も地位もない、所謂、名だけの貴族だったりする。ついでに言えば父親の名前はオルフェウス。母親の名前は・・・残念、シビルではなくシェルリ。一文字しか齧っていない金髪碧眼の女性でした。どうやらシビルは輪廻しなかったようです。魂を消滅したから、そうなんだろうけど。

さらに付け足すとすれば・・・・・・姉がいます。

ええ、姉がいます。

輝く金髪に透き通るような碧眼。神が造った!と言わんばかりの美しさを持った、私にとって苦い思い出しかない姉のフィン・アウラディオが。・・・意地悪な姉としています。あ、私は銀髪碧眼でした。オルフさんと同じ色か・・・と、何だか複雑な気持ちになったり。

えっと・・・なんだっけ。

ああ、そうそう。なんで意地悪かと言うと、理由は解らない。まったくもって謎です。私の足を引っかけて転ばせたくせに、さも自分が正しいことをしたのにと正当化して訴えたり。私が水を回避して床を濡らせば、自分が怒らせてしまったのだと憂いた顔をしたり。

面倒くさい。

心底、この姉は前の姉よりも面倒くさい。

例えで上げたけど、これ以上の嫌がらせもされている訳だから面倒くさい。そしてそれにころりと騙される周りも面倒くさい。

何分――見目麗しく、可憐で儚い印象を与える姉は私以外には猫を被り、外面の良いまさに令嬢の鏡のような振る舞いをするのだから両親も使用人も、幼馴染も果ては知り合いも騙される訳なんで。本当、見た目がいいと得ですね。けッ。

彼らの私に対する印象は出来の悪い子、もしくは姉を虐める妹でしかない。前者は認めるが、後者は声を大にして違うと否定したい。無理だけど。腹が立つけど。

まぁもっとも、所謂前世の記憶を思い出す7歳まではそこそこの仲だったと思う。主に虐めら度だけど。あの頃はまだ可愛いモノだったと思う。人のお菓子を勝手に食べるとか、持ち物を勝手に自分の物にするとかだけだったし。

7歳を過ぎてからは酷い、酷い。

これはもはや虐めではなく虐待だ!と叫びたいほどに酷かった。まぁ、前世の記憶によって抑えたけど。だって、何をしても私が悪者になるなら、悪者だと信じて疑わないなら、何を言っても無駄だし。ある意味、前世の姉の所業で悟りを開いた気がする。そこだけはありがとう、と前世の姉に言っておこう。

今の姉には死んでも言いたくない。むしろ罰が当たれ。

しかし――――本当に7歳で記憶が戻るとは思わなかったです。

疑ってすいません、地母神様基白銀の乙女。

ところでなんで名前が変わるんですか?白銀の光だったり白銀の乙女だったり地母神だったり。どれか1つに統一してくれません?・・・あ、神々の王の仕業だったり。

いや、まさかそんな・・・。

「・・・はぁ」

鏡の前で溜息を吐き出し、必要最低限の物しかない簡素と言うか質素と言うか、物がなさすぎる自室で私は項垂れた。ちらりともう一度、鏡を見ても腰まであった髪は肩につくかどうかの長さだ。

・・・別に髪を切られたことを恨んではいない。

いないけど、いないけどさぁ。周りを使って私を虐めるの、本当にやめてくれないかな?知り合いの騎士に言って訴えて勝つよ?その知り合い、前世からの猫友だから仲が良いし、家の状況を知ってるし、私に全面的に味方だし、証拠も集めてくれたし、猫友の嫁が法務関係に勤めてるから勝つよ?

あと、前世の時に良くしてくれた老夫婦とも今世でも仲良くなり、何かと便宜を図ってくれてるから勝てるよ。だって老夫婦――先代王の腹違いの弟で、当代王の叔父らしいから。

あれ?私の味方って何気に敵に回したら怖い人ばかりじゃない?

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・いや、前の味方の方が敵に回すと怖い方々だ。

「とりあえず、髪の毛整えよ」

姉のせいで、私に親切にしてくれる侍女はおらず、身の回りの世話はほぼ・・・いや、全部私がしている。せいぜい、外に出る時ぐらいかな?侍女が傍にいるのって。

あ、ハサミあったっけ?

棚と言う棚からハサミを探そうと、部屋をうろうろする。

姉と違い、そんなに広くないしむしろ物置か!と言うような狭さだからそんなにうろつくことはないんだけど・・・あ、あった。元の位置に戻って髪を切る。

う、後ろ髪が切りにくい・・・っ!

ぷるぷると手を震わせていたら、窓の外から賑やかな声が聞こえた。どうせ姉と姉の友人と、取り巻きと、両親だろう。あと、使用人。

のけ者にされることに慣れているため、別になんの感情も覚えず手を震わせながら髪を切る。うっかり首をかすめそうになった。ぞっとする。

「しっかし・・・幼馴染と結婚って。何がそんなに嬉しんだろう?」

あ、幼馴染はエニマではなく、前世で勇者であったグレンシードです。

侯爵家の長男で、何でもオルディア王国騎士団第五師団に見習いながらも所属しているらしい。第五師団って、確か補給・衛生な後方支援部隊だったような。つまり、裏方。華々しい活躍はないけれど、命の危険性もない。安全ではあるが、裏を返せば戦場で使えない人間が行く師団。・・・まぁ、怪我や病気が理由で第五師団に行く方もいるけれど。

それでも第五師団にいる大半は碌に剣を持って戦えない貴族だなんだと、くだらないプライドだけが高い奴が送られ、性格とか根性とかその他諸々を矯正させられる所だ――と、猫友が言っていた。

いやー、あの時の猫友の顔は悪かった。

何かしらの理由がある騎士はともかく、理由がなく、その師団に意味も理解せずに喚くだけの騎士は鬱陶しいと笑っていた。怪我や病気で前線離脱した騎士は騎士ではない。早々にこの場から立ち去るか、その場で死ねばいい。なんて言った輩に笑っていた。・・・どちらも怒りながら、である。

でも、そう言う輩は何かしらの罰が当たるのが世の末。

・・・何があったか詳しくは知らないけれど、騎士恐怖症になったらしい。なんだ、騎士恐怖症って。騎士に恐怖する騎士って・・・いらねぇ。

あ、そうそう。前世の幼馴染であるエニマは今世、まともになってました。いや、前もまともと言えばまもとだけど・・・姉に対して恋愛感情のれの字のない。と言う意味でのまとも?です。

第一師団の見習い魔法使いとして頑張ってます。

私に優しく、姉を軽蔑の眼で見てます。違和感半端ないっ。

そして恋人がいます。

恋人の名は・・・・・・ルナディア。聞き間違いかと思ったけど、ルナディアらしい。そして魔法使いとしての上司がヴェルク・・・オネェさん。どうしてだかオネェさんと仲良くなり、近衛兵のことを教えてくれました。ええ、本当、どうしてだか知らないけど。

そこにはルシルフルの名前や、ユフィーリアさんの名前もあった。

と、すれば・・・オルデゥアやオズは役職持ちの可能性が高い。

あ、ツヴァインさんは宰相らしく、日曜学校で教えられた時には思わず叫びかけた。本当、咄嗟に口を塞いだ私・・・ぐっじょぶ!

「・・・妥協で幼馴染と結婚って言うのも酷い話なのに、それを知らない幼馴染って。いや、アレも女癖が悪くて色々と問題を起こしてるらしいってこと、姉さん知らないみたいだから同列?酷い(マイナス)酷い(マイナス)を足したら良い(プラス)話になるみたいな?・・・阿呆か、いや馬鹿か」

姉は幼馴染と許嫁だった訳ではない。

好きだった訳でもない。

王太子殿下と、その弟君である王子が好きだったんですよ。両方かよ!とメイド達の話を影でこっそり聞いた時、声を出してツッコみたかった。我慢したけど。

まぁ、両方から相手にされず――されるはずもなく、王妃になると言う野望を抱いていた姉の夢は崩れ去った。分不相応だよ。見た目は確かに王妃に相応しいけど、中身がねぇ。

王太子殿下は月の乙女の姉と婚約し、来月の頭に結婚するらしい。

ちなみに、月の乙女はエステルではない。

もう一度言おう。

月の乙女はエステルではない。――ルキだった。

兎と薬のマークで〈月兎の薬局〉と読む、薬学の知識に優れ、癒し手と呼ばれる回復のスペシャリストでした。嘘だろ、おい!と声に出して叫ばなかった私は偉い。誰か褒めて。

あ・・・姉はフレンヴァルでした。

まさかの色欲の魔王が王妃。・・・財政難で国、傾かないかが心配です。

「・・・ふぅ」

さてはて、長々と脳内で状況確認とか諸々している間に髪も整った。

窓からちらり、と外を眺めれば私以外の人間がそこにいる。この分だと、使用人も全て外にいるだろうね。料理人以外は。

これはチャンスではないですか――――!

ベッドの下に隠した、猫のワッペンが施された大きめのショルダーバックを引っ張り出し、頑張って貯めた全財産がちゃんとちゃんと財布ごとあるのを確認する。・・・今世はお金を稼ぐのも一苦労でしたよ。けっ。

「あとは」

再びベッドの下から、ちゃんとした旅道具一式を取り出す。

ああ、懐かしい。ライさんと出逢った時のことが、モノクロだけど思い出せる。・・・逢いたいなぁ。逢えるかな?

心が寂しくて泣きだす前に、逢えたらいいな。

旅道具一式をショルダーバックに入れ、右肩にかけてもう一度、確認のために窓の外を伺う。・・・人数は、減っていない。よし。

気合をいれるために頬を叩き、息を吐き出した。

「さよなら、二度と帰ってきませんよ」

音を立てないように慎重に扉を開き、部屋から出る。

16年、この部屋で過ごした部屋にも、家にも、家族にも未練はない。



姉が結婚するので家を出ます。



自由を求め、ライさんを探しに、私は今、不自由な――――監獄から脱走した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ