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長らくこの話に付き合っていただき、ありがとうございます。残す章もあと一つ。三話で終わる予定なので、最後までお付き合いいただければ幸いです。
駄文ですが、よろしくお願いします。
言う事じゃないんだけども・・・うん。
「・・・わぁお」
なんと言うか、結果から言えば――ライさんの圧勝だった。
ライさんの背後に見覚えのある、と言うか、私を刺した剣と知らない剣が10、宙に浮いて人差し指でオルフさんを示したら風切り音と共に向かっていき、刺した。いや、貫いた?とにかく攻撃して、流れる動作で煉獄を連想させるような炎の渦が足元から現れ、オルフさんを呑み込んだ。
シビルが死んでる発言にショックを覚えたオルフさんは、避けることも抵抗することも、ましてや反撃することもなく攻撃を受け続けていました。まぁ、ダメージはあんまり与えられてなかったみたいだけど。
そこは腐っても元・魔王――ってことかな?
で、何を思ったのかルキはオルデゥアを引きずって勇者・・・グレンシードの元へ突撃。最初の被害者は幼馴染でした。合唱。
いや、うん。
愛する女を護ろうと、魔王相手に立ちはだかったのは凄いと思うよ。攻撃姿勢を見せたのはポイント高いんじゃないかな?とは思うよ。
でもね。
その愛する女から「邪魔!」の一言で背中を蹴飛ばされ、受け身も取れずに岩に頭をぶつけての死亡。・・・哀れすぎて泣けてきたよ。もう本当、一方通行の愛って悲しいね。ルキが唖然とした顔をして、オルデゥアが「ないわ」と真顔で呟いたほどだし。
しかも死亡が魔王の攻撃、じゃなくて味方であるはずの姉が原因。しかも死亡原因が岩。
幸運Eか。最低か!・・・来世では幸運値が上がっていることを願う。
で、幼馴染の死亡原因である姉は「私のリィン!」と、ひたすらに私の名前を叫んで爆走。オルデゥアとルキをひき殺さんばかりの、そんな脚力あった?!と驚くような勢いで向かい――おわかりだろう。
オルディアの放った時属性の攻撃魔法で呆気なく死亡。
死亡フラグがたってるな~。とは思ったけど、こんなにあっけなくフラグ回収。何と言うか、今まで私を悩ませ、卑下させてきた張本人の死に何も思わない自分がいることに驚いた。いや、ころりと死んだことには驚いたけど。
うーん・・・ここまで何の感情も沸かず、心が揺さぶれることも何か思うこともないとわ。
まぁ、うん。とりあえず、四肢がありえない方向に曲がって折れてはいけない部分が折れて半分になった姉の死体に手を合わせた。来世ではまともな人生を送って欲しいです。
とかなんとかやってるうちに、正気に戻ったオルフさんの反撃が始まった。
うん。何が起きてどうなってるのかさっぱりです。ただの土煙と剣を交える音?らしきモノが聞こえるだけで何も判りません!ら、ライさん頑張ってー!と、その状況に唖然としつつも胸の中で応援しつつ、たまに振る剣先とか、魔法の余波から必死に逃げ回っていた。
死ぬわ!
安全そうな岩の影に隠れ、煩くなる動機を鎮めようと深呼吸していたら鼓膜を破るような怒声が響いた。死ぬわ!
死因が鼓膜の破裂とか恰好悪いっ。
誰の声だと周囲を見渡して、お決まりのパターンかっ!と地面を力一杯に殴った。オルデゥアの右腕が宙を舞い、地面に鈍い音をたてて落ちる。同時に、ぐらりと上半身が斜めにずれる勇者、ではなく、グレンシードの身体。
ここまで言えば誰でも解る。
いや、見れば馬鹿でも理解するはず!
隻腕となったオルデゥアが勇者を殺したのだ!
そしてあの叫びは断末魔。――煩いからもっと静かに死ね!と、仮にも元恋人に対して思うことではない。
オルデゥアは出血を魔法で止め、左足を引きずりながらルキの元へ・・・ルキの元へ?
あ、よくよく見ればルキの横っ腹に大きな風穴が。出血は止まっているが、意識があるのかどうか怪しい。い、生きてるよね?ハラハラするものの、足が竦んで駆け寄ることも出来ない私はただただ、オルデゥアが慈しむようにルキに触れる姿を見ているしか出来なかった。・・・あの2人、実はデキてた?とか思う余裕はあったのに。
と、思った罰があったったのか小石が頭に飛んできた。地味に痛い。そして連続はやめて。嫌がらせにしても酷・・・ジメンニアナガイタヨ?コイシナノニ?
壊れた人形のように小石が飛んできた方向を見て、「世界滅亡」の4文字が脳裏に浮かんだ私はおかしいのだろうか?いや、それでも、だって・・・えー。
判り易く言えば、天変地異が一気に起こった。だと思う。いや、それ以外の言葉が出てきません。言語能力がなくて悲しくなる。
激しい音を立ててるだろうに、私の耳には一切の音が入ってこない。おそらく、勇者の断末魔のせいで鼓膜がイカれたのだと思う。おのれ、勇者・・・。
視界が眩んだ。
なんだと驚けば座っていることすらままならない程に地面が揺れ、天地が逆になったと錯覚を覚える。状況を知りたくとも、双眸を焼いた閃光のせいで視界はまだ回復しない。不安しかないっ。
べしゃりと、身体が地面に倒れた。
口の中がじゃりじゃりする。掌が熱くてひりひりする。うう・・・地面に擦れて負傷とか、地味に痛いから嫌いだ。まだ眼がチカチカするし、耳鳴りはするし踏んだり蹴ったりだ。
・・・ライさんは、どうなったかな?
オルフさんに負けてはいないと思うけど、怪我、してないよね?・・・怪我、してたらどうしよう。死にそうな怪我してたらどうしよう。
見えないから、聞こえないから、何も判らないから、余計に不安で仕方がない。うう・・・不安による心臓麻痺とか嫌だ。死ぬならライさんの無事を見てからがいいっ!!
眼が治れ、耳が治れ、ついでに怪我も治れと呪文のように呟いていたら空の聖女マジック発動!眼も耳も正常に機能したよっ。・・・神の詩も神の旋律も何も紡いでいなくたって、思いがあれば以外とどうにかなるらしいことを知った。
でもそれ、ここで知ることなんだろうか?
なんか、誰かの策謀を感じる。例えば白銀の・・・いや、考えないでおこう。それがいい。
そして冒頭の台詞が出る訳だ。
地面に立っているのはライさんで、右上半身が欠如した状態のまま立っているのがオルフさん。力なく膝が折れ、地面に崩れ落ちる。
地面に広がる赤から眼をそらし、まったくの無傷・・・と、言う訳には流石にいかなかったらしいライさんの傍に駆け寄る。ひぃ!眼、眼が、右眼に傷がっ!!小さいけど傷がついてる!止血、止血するものタオルはどこだぁぁぁあぁぁぁぁぁ!
「落ち着け、リィン」
突然の、何だか久しぶりなデコピンはやめてっ。
「この程度、なんでもない」
「で、でも・・・」
「それより、怪我してないか?」
「・・・小さいコブは、出来たぐらいでルキ達に比べれば平気です」
ちらり、と視線をルキ達に向ければ互いに支え合いながらこちらに向かって歩いていた。オルデゥアとルキの傷は・・・ルキが治したのかな?出血は止まっているみたいだけど・・・、オルデゥアの腕は無理だよね。やっぱり。
「おい・・・それより本当なのか」
「どれのことだ?」
「世界が終わるって話だ!」
「ああ・・・残念ながら事実だ。俺が魔王になってから、それは覆せない決定事項らしいからな。白銀の乙女もどうにかしようとしたらしいが、あまりにも時の三神がしでかすせいで修正が利かず、苛立ちが頂点に達して神々の王に時の三神を殺す許可を得たほどらしいからな」
・・・それで殺して云々、になるのか。
「まぁ、白銀の乙女が手を下す前に旦那である刈り取る者が殺したみたいだけど」
「え、旦那!?神って結婚できるの・・・?」
「あ、違った。旦那の1人だ」
「まさかの一妻多夫?!」
「俺が魔王陛下に嫌々なった時、空の聖女を探して世界の終焉時に自分の所に来るようにして欲しい。って言われたんだよ。まぁ、その他にも色々と契約したけど」
説明放棄は酷いっ。
ってか、え?私に何か用があるの?あるならあの時に言ってくれれば・・・いや、あの時はオルフさんがいたから出来なかったのかな?
・・・オルフさんがこういう行動にでるって、解ってて言わなかった?やだ、疑心暗鬼になりそう。でも、否定できないのがなんとも。
「と、言う訳でリィン。ここでお別れだ」
「唐突ですし、嫌ですよ!」
契約云々の話を詳しく、詳しく説明してください。
なんで私が行くんですか?どうしてお別れなんですか?説明、説明をしてください。・・・ライさんの服を掴んでいた両手が、やんわりと外された。ライ、さん?
困惑に見上げれば、何故か頭をチョップされる。意味が解らない。
どうして。どうして。どうして何も言わないの?なんで説明してくれないんですか?ねぇ、ライさん。
「ちょっと、何の説明もなしに別れを告げるなんて酷いと思わないの・・・?」
「説明も何も」
ライさんが溜息を吐き出し、私から視線を外す。
「何を説明しろと?――そもそも面倒くさい」
「面倒くさがらずに説明しなさいよ!いい!その義務が、あるの!解った?!」
「・・・はぁ。俺は白銀の乙女に3つの願いを叶えてもらう代わりに、契約を交わした。1つ、空の聖女を見つけて保護すること。2つ、終焉の日まで空の聖女を護ること。3つ、終焉の日に空の聖女を白銀の乙女の所に送ること。4つ、その日まで人界に手を出さず、馬鹿共を泳がせておくこと」
ぴん、と指を立てて説明を始めたライさんにオルデゥアが尋ねる。
険しい表情はきっと、こうなることを知っていて黙っていたライさんに対する憤怒だろう。流石は憤怒の王。でも怒鳴り散らさない理性は、ある意味、この場では正しいかもしれない。
世界の終わり――。
ライさんそう言ったように、遠くの景色が闇に呑まれ、大地が崩れ始めた。空はまるでジグソーパズルのように漆黒に覆われ、ガラガラと音をたてて消えていく。
「何を願ったんだ」
「次の世界で、面倒なく楽に生きられる地位と今世の記憶」
告げたのは2つの願いごと。
残りの1つは?無言でライさんを見つめる6つの眼に、嫌そうな顔をされた。渋るほどの願いですか?
「――――白銀の乙女にでも聞け!」
「なんで?!」
奇襲まがいのデコピンをされた。解せない!文句を言おうとライさんを見上げ・・・・・・首を傾げた。
すぐそこにいたはずのライさんは、どこに消えたんだろう。
周りを見る。ルキも、オルデゥアもいない。と言うかここ、前に見たような。――あ、白銀の乙女がいる所だ。
「・・・え?」
居場所は判ったけど、状況が解らない。
ライさんはどこ?ルキは、オルデゥアは?
「理解しているのに、解らない振り?」
問いかける声は、白銀の乙女のものだ。
「・・・あえて言われると、結構、イラっとしますね」
苦笑して、白銀の乙女に向き合う。・・・枝に腰を下ろし、足をぶらぶらさせていた。まさか上にいるとは、吃驚ですよ。溜息がでる。
ここに私がいると言う事は、つまりはそう言う事なんだろう。まったく、ライさんは酷い男だ。息を吐き出し、胸元を握りしめる。そんな酷い男に惚れた私も、ある意味、同類なのかもしれないなぁ。
また溜息が出た。と言うか、溜息しか出ない。
「・・・私に何をさせるつもりですか?」
「そう難しいことじゃないよ」
くるり、回るように枝から降りた白銀の乙女が、着地音もたてずに地面に降り立つ。
「ただ、次の世界のために言祝ぎが欲しいんだ」
「それは、私じゃなくてもいいんじゃ?」
「空の聖女でなければ駄目だ」
はっきりと断言され、言葉につまる。
言祝ぎなんて、神である白銀の乙女がすればいいのに。どうして?
「――――と、神々の王がダダをこねて」
「・・・そんな理由で?」
「理不尽だろうが、そんな利用だろうが、神々の王がそうだと思ったら、そうしようと思ったら、逆らえない、抵抗できない、逃げられない。・・・諦めて」
悲壮感漂うその表情は、まるで被害者のようで・・・いやいや、そんな。
私の脳裏に不敬ではあるけれど、天下独尊且つ唯我独尊で自由奔放、我が道を行く我儘な子供のような神々の王が浮かび上がった。いやいやいや、そんな・・・そんな、えー。
「と、言う訳で言祝ぎをお願い。私は世界を再誕させるから。あ、言祝ぎって言っても難しく考えなくていいわ。ただ願えばいいの。次の世界が、どうあって欲しいかを」
願うって・・・。詳しく聞こうにも白銀の乙女は私に背を向け、何やらしだして聞ける上場ではない。願い、願い、願いかぁ。
唸って、頭を悩ませてみる。いや、よくよく考えれば深く考えることじゃないような。だって願いだし。こうなって欲しいって願いなら、確かにあるし。それを素直に言葉にすればいいだけだろうし。
「幸福であれ」
もし、もしも次にライさんと出逢えるならば――幸せになりたい。
ライさんと一緒に。
最後まで共にいられる幸福が、私は欲しい。
「はい、終わり。お疲れ様」
「え、早くないですか?!」
「壊れるのに時間はかかるけど、新しく再誕させるのは簡単だから。と言うか、慣れた。時の三神のせいで慣れた」
「わぁ、とても神とは思えない顔をして・・・。それで、私の役目は終わりなんですよね?帰るべき世界のない私は、どこに行けばいいんですか・・・?」
「どこへ?」
きょとりと、白銀の乙女が瞬いて首を傾げた。っく、流石は神クラスの美貌。ライさん達で慣れたはずなのに思わずクラっときてしまった。恐るべき、神の美・・・!
っと、思考が変な方向に行ってしまった。
これはもう、悪癖ですね。手遅れな域の悪癖。救いようがない。
「新しい世界以外で、行きたい所でもあるの?愛する男がいる世界よりも?」
「だって、いつ逢えるかわからないじゃないですか。それに、それに・・・新しい世界に行くってことは死ぬってことですよね?死んだら今の記憶がなくなって、ライさんのこと、忘れちゃうじゃないですか」
だから怖い。
忘れるぐらいなら、最初からいないとわかっている世界に行った方が。
「記憶を持ったまま、愛する男と同じ時代に生きる――って、しようと思ってたけど」
「ぅえ?!」
「まぁ、拒否権がないからするんだけど」
「なんと!?」
いや、むしろ願ったりかなったりですけど何で!?・・・あ、神々の王の我儘に付き合ったお礼?お詫び?そう言う感じですか。
遠い眼をする白銀の乙女に、詳しいことを聞かないでおこう。
「そう言う事だから、諦めて」
さっきとは違う意味合いの諦めてに、もしかしなくても苦労してるんだなぁ。と言う事だけはありありと解った。
「大丈夫。死ぬ、と言っても眠るだけだから。記憶も、7歳になったら取り戻せる」
「なんで7歳?」
「7つまでは神の子だから?」
いや、疑問符をつけられてもこっちが困る。
・・・本当に7歳で思い出すんですか?疑てしまうレベルで怪しい。いやでも、神様の言う事は――。
う、ううん。時の三神のことを考えると、どうにも信用できない。
「まぁ、その時になれば解るよ。・・・きっとね」
「いやそれって・・・・・・はぁ、そうなんですか」
納得できないけれど、頷いておいた。
だってどうあっても、私は新しい世界に行くことが決定してるんだから。なら疑っていても、希望は持とう。
次の世界でも、ライさんと逢えることだけを願って。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・姉と幼馴染と元恋人以外には逢いたいですね。うん、むしろ魔界で知り合った存在以外とは会いたくない。あ、猫友は例外で。
――――あ、そうだ。
「あの、ライさんの願いって、何だったんですか?」
「聞いてないの?」
「面倒のない地位と記憶だけは聞きましたけど、最後の1つは」
「ああ」
白銀の乙女が苦笑した。
「――――愛する女を見つけるまで、世界を継続させてほしい」
「・・・へ?」
「それが出来ないなら、協力しないって言ったんだ。最初に言った願いを叶えてくれなくても、この願いだけは叶えて欲しい。とまで言って」
肩を竦め、やれやれと息を吐き出す姿すら麗しい。
憂いた顔が同性なのにどきりとさせます。でも私はライさん一筋。・・・悪癖がでた。
「で、いざ愛する女を見つけたらその女が死なないように守って欲しいって追加の願いまで言ってきて」
願いって、追加できるものだっけ?
いや、それ以前に神相手に追加って。恐れ多いことを平然とするなんて、ある意味、命知らずじゃないですか。
なんだかおかしくなって笑ってしまった。
「・・・あ」
「時間だね」
指先が消えていく。
感覚があるのに、視界に映らないなんて奇妙な気分。
「次の世界は〈永続〉するよう願っているよ」
穏やかに微笑む白銀の乙女に、困ってしまった。
願っていても、世界がどうなるかなんて私には解らない。そもそも、私みたいなちっぽけな存在に何ができるんだろう。
結局、空の聖女の力だって満足に使えなかった。
足手まといしかならなかったなぁ。若干どころか多大に反省。折角の力も、宝の持ち腐れにしてしまった。
「そうそう、ちなみにこの世界に魔族はいないから」
足が完全に消える直前に聞いたその台詞に、ショックを覚えた。
「魔族はいないけど、魔物がいる世界。それが次の――新しい世界の形」
とすればライさんは――――。
「七聖女はいないけど、神に愛された者は創るって神々の王が言ってたから存在はするね。七聖女みたいだけど、現人神ではないそれに近い存在は、だけど」
何が気に入ったのか。呆れながらそう言う白銀の乙女の顔はやはり苦労人のソレだった。
「まぁ、そう言う訳だから」
何がどう言う訳なんだろうか。すでに肉体のほぼ全てが消えかけている私に向かい、白銀の乙女は爆弾を落とす。
「もしかしたらまた、そう言う役割を得るかもしれない。だから」
ああまって、言わないで!
その先は言わないでっ!
「――――諦めて」
そして意識はブラックアウト。
酷い言い逃げをされた気分です。




