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姉が結婚するので家を出ます。  作者: 如月雨水
Fortuna 《運命》
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腰を痛め、注射と痛み止めとシップとコルセットのフルコース!を体験しました。初日に比べれば痛みも軽く、動ける、歩ける、座れる、寝返り打てる!この状況。腰って大事ですね。それでも、まだ痛み止めが手放せない。

とかなんとか思ったちょっと前の自分を殴りたい。

私は死んだふりをしたまま、生きていることに内心どころか声を出して「生きてました!」と言いたいのをぐっと我慢し、私の頬にそっと触れる冷たい手の主をこっそりと見た。

あの・・・もしもしライさん。

血が出たけど私、生きてますよ?てか、この血って何?血のり?いや、一番の疑問は、どうして私を刺したんですか?別に怒ってないので、詳しく教えてくれません?目線で訴えて見たら、私の身体を抱く腕とは逆の手で眼を閉じられた。え゛・・・?

「悪いな」

また言われた台詞ですけど、あの・・・これ、どう言う状況?

口を動かそうとしたら唇を塞がれ、喋るなと言うことは理解した。理解したけど・・・やめて、ここには姉と元彼がいるんですよ?恥ずかしくて死ねるし、そう言うことする雰囲気でも、していい場所でもないんですよ!?

ここ、一応ですけど戦場!

そしてここ、死体が一杯!

ああでも・・・ぎゅっと抱きしめられるの、嫌じゃないです。例え胸に剣がまだ刺さった状態であっても。まぁ、痛くもないから別にいいんだけど。

刺された時も痛みとかなかったし。

「リィンから放れて!放れなさいよ、この悪魔っ」

え、やです。

姉の声がライさんの背後から聞こえたので、放さないで欲しいことを伝えるためにそっと、こっそり、バレない程度にライさんの服を握った。こ、これなら別に大丈夫ですよね?

ライさんが苦笑した声が聞こえたので、たぶん、問題はないはず。

「・・・どう言うつもり?」

「どう、って?」

「リィンを殺して、何をするつもりなのって聞いてるのよ、アタシが!」

見えないけれどたぶん、胸を張っているのであろうルキの姿が容易に想像できる。

ごめん、ルキ。私、死んでない。死んだふりしてるだけで、生きてます。

「それが我が答えよう」

おっと、ここで漸くオルフさんの説明が入るのか。


「シビルのためだ」

説明じゃないから、それ。


呆れの溜息が聞こえたけど、たぶん・・・ルキだよね。そして姉さん。いい加減、喚くのやめてくれない?「私のリィンが男に汚された」とか「リィンに触れていいのは私だけ」とか、なんか深読みしたら・・・いや、ただ純粋に姉として妹を心配してるだけ!

まさか姉が同性愛者とか、妹に恋愛感情とか・・・あるはずがないからね!

「時の三神の魂を喰らってその力を手に入れる。それが世界の破滅に繋がる可能性も高いから、七聖女と七罪の魂も喰らって我が世界を安定させるつもりだ」

「――っは!神にでもなるつもり?」

「神にはならない」

はっきりと断言した。

「シビルが我の傍で生き、我と共に生きられる世界を維持するだけだ」

いや、それって結局は神になるってことですよね?

世界の維持なんて、神じゃなければ出来ませんよ。阿保ですか?

「だがシビルの魂が持ちそうになかった。だから――――愛し子を利用させてもらった」

は?

「愛し子の魂にシビルの魂を寄り添わせ、生命力を糧に死にかけた魂を回復させることにした。ああ・・・!喜んでくれるかい、愛し子!愛し子のおかげでシビルは、愛し子の母は生きることが出来る事実にっ」

「喜ぶはずないだろう・・・!」

まったくもって、その通りです。怒鳴ったグレンシードの表情は判らないが、その台詞には激しく同意する。

ライさんが上半身を動かしたのか、体勢が不安定になる。慌てて服にしがみつこうとしたけど、今の私が動く訳にもいかず。・・・ライさんに負担がかからないよう、頑張ってバランスをとってます。きつい。

「他の人間でも試してみたが、どうにも上手くいかない。魂を寄り添わせた途端、精神か肉体が崩壊してしまう。まったく・・・使えない存在だ。だが愛し子はそうでもなかった。肉体がアレな分心配だったが、杞憂だったしな」

「ねぇ、さっきから何?愛し子ってリィンのことじゃないわよね・・・?」

「その通りだが、何か」

「何かじゃないわ!あの子は私の愛すべき唯一無二の妹よ!私だけの愛しい妹なの!勝手にリィンを愛し子なんて呼ばないで!汚らわしいっ!!」

わぁ、魔族で元とは言え、魔王陛下に対して怒鳴り散らすなんて勇気があるね。でも絶対、幼馴染が背後でわたわたと慌て、制止の声を出してるんだろうな。

どんまい。

そんな姉に惚れた君が悪い。

「おいおい、本気でそう思ってんのかよ・・・!」

「シビルに対する執着とか依存とか、シビル限定の諸々が病気の域で本気なんでしょうね!天才のアタシでも手に負えないわ!」

「ならいっそ、殺せばいい話だ!」

「あら、天才と同意見なんて生意気ね!でもいいわ、アタシも協力してあげる!」

ぅん?あれ、なんか胸から違和感がなくなった。剣を抜いたのかな?ちょっと見るだけ・・・あ、駄目ですか。チラ見したライさんが笑顔で圧をかけてくるので、素直に従います。はい。

「と言う訳でそこの勇者!一時休戦でこの阿呆を倒すわよ!」

「断る!」

「・・・・・・一時休戦で、この阿呆を倒すわよ」

「断ると言っただろうが!」

「ねぇ、先にこの馬鹿を殺さない?むしろ殺しましょう。どっちみち殺すことに変わりないなら、最初に殺した方がいいわよねぇ!」

「互いに殺し合ってくれるのかい?我の手間を省いてくれるとは、なんと優しいことか」

「まったく、これっぽっちもそう思ってない癖によく言うわよ!」

うひゃい?!

え?え?え・・・?なんか、身体が宙に浮いてるような、てか、浮いてる?!ぅえ!?もしかしなくても抱き上げられた!姫抱っこか!?恥ずかしいっ。

まって、本当に待って!

この状態で死んだふりとかきついんですけどぉぉおぉぉぉっ!


「なぁ、俺との約束――覚えてるよな?」

「耄碌しているように見えるか?」

「そうか。なら、安心だ」


・・・もしかしなくても、私を刺したのはオルフさんとの約束のせい?

その約束っていったい何?

なんで約束なんてしたの?

聞きたいことは一杯あるのに、死んだことになっているせいで何も聞けない。・・・もどかしくてイラついてきた。いっそ、本気で「生きてますから!」と叫んでやろうか。

「愛し子の魂を喰わない代わりに肉体をやる。その条件として愛し子を殺せ――そう言ったのは我だからなぁ」

何が愉しいのか、くつくつと喉を鳴らしてオルフさんが笑う。

「いやいや、実によくやったと、誉めてやろうかい?――命令通りによくやった、哀れな人形」

「・・・ねぇ、まさかとは思うけど」

「気づいたか。流石は天才と自称するだけはある」

「自称じゃなく、事実よ!」

吠えるルキを無視し、オルフさんは話を続ける。・・・いや、無視と言うか聞いてないだけか。

「そこにいるラインハルトは我の魂から作り、生み出した人造兵器。つまりは作られた魔族だ。だから他の魔族よりも能力が高く、力も我並みにある。何せ我の分身のようなものだからな」

「・・・っふん、仲が悪いように見せたのは演技。ってこと」

「いや、仲は悪い。命じてない部分では逆らっていい設定にしてあるからな。とは言え――命じられたから最愛の女を殺すとはな」

逆らえないように設定しておいて、何を言うんだ。

ふつふつと怒りが沸き上がるが、ここで感情を見せたら生きてることがバレる。バレたらライさんに迷惑をかけてしまう。落ち着け、落ち着くんだ私。・・・あとでぶん殴れば問題ない。

「俺の役目は終わった」

ぅひょい!くるって回らないでっ!!落ちるかと思った・・・。

「あとは自由にしていいだろう?面倒ごとは――嫌いだ」

私の身体を抱え直し、言うだけ言うとその場から立ち去ろうと歩くライさん。え、いいの?このままにしていいの?放置?空気を読まないで行くの?え、怒られない?オルデゥアから。

とかなんとか思ったけど、面倒なことが嫌いなライさんならそれも当然かもしれない。と、考え直した。いや、だってライさんだし。


「役目を終えた?」

あれ、声が低い。

「我の眼を欺くつもりかい?」


あ、これバレてる。

生きてるってこと、バレてますね。・・・どこからバレてた!

「シビルの魂をまだ、我に渡していないだろう?さぁ、早く愛し子からシビルの魂を取り出せ」

よかった、よかった・・・!生きてることがバレた訳じゃなかった。

なんだ、変に緊張させないでよ。吃驚したんじゃないですかもう!心臓が飛び出すぐらい吃驚しましたよ。いやー・・・変な汗かいた。

「ああ、そう言えばそうだったな」

ふぅ、と心の中で安堵する私と違い、最初から冷静なライさんが思い出した。とばかりに呟く。それも命令にはいってたんですかね。

てか・・・魂を取り出すってどうやって?

私の身体を裂く・・・スプラッタ的なことをして取り出す、とかじゃないですよね?ねぇ?

「リィンの身体にあるシビルの魂を取り出せ――そう言う命令もされていたな」

「ちょっと!リィンに何をするつもりよ!返して、返しなさいよ!私のリィンを返してっ!!!」

「ふぃ、フィン・・・!」

「邪魔よ、放して!その汚い手を放して!」

・・・幼馴染に言う台詞じゃねぇ。百年の恋も冷めるわ、てか冷めないならエニマはMの性癖を持っていることになる。

うわー、引くわ。

「俺の愛する者(リィン)にそれ以上、何かしてみろ。・・・楽に死ねると思うな」

ぞっとした。なんか解んないけど、ぞっとした。

「・・・リィンを裏切っておいて、よく言えるな」

「裏切ってない!」

呆れた声のライさんが、どんな顔で勇者を見ているのか知らない。知らないけど・・・雰囲気的に嘲笑している気がする。

たぶん!

「それはそうと。・・・魂だったか」

あからさまに興味を失ったライさんが、話を元に戻した。

後ろでグレンシードが騒いでるけど、ガン無視ですか。流石です。

「それは――――これのことか?」

これって何?

興味を持ったので薄っすらと、それはもうバレないように細心の注意を払って眼を開けて見た。・・・なんだアレ?

ライさんの眼前に浮く、鈍い光を放つ掌サイズの四角形。くるり、くるりと緩慢に動くソレはお世辞にも魂には見えない。ただのキューブ、もしくはサイコロ。いやいや、魂なんて見たことないし、判らないからもしかしたらアレが本当に魂なのかもしれない。

・・・とは、言い切れない自分がいる。

「なんだそれは」

あ、どうやらオルフさんも魂に見えないみたい。よかった、よかった。――――いや、よくないだろう。

だって魂に見えないってことは・・・つまり、その。

「我を謀るとは、いい度胸だ」

ですよねー。

「今すぐに愛し子を殺せ。いや・・・こちらに渡せ、人形」

うわぁ、殺気が痛い。生きてることがバレて、これ程に怒られるって理不尽だ。酷い。それでも一応、父親か!・・・認めてないけど。

てか、生きてることがバレたならもう、死んだふりしなくていいよね?眼、開けていいよね。開けちゃえ。・・・うん、後悔した!

いやだって・・・。竜虎が見えるんだもん。おどろおどろい黒い背景の中に、雷と炎を纏った竜虎が。しかも背中に宿してるの、オルフさんと姉だよ?なんで姉?!と驚いて二度見した後、見なきゃよかったって後悔したから。・・・本当、なんで姉さんが?

・・・っは!私を殺したいオルフさんと、それを阻止したい姉の図か!

いや、それでもありえない構図だよ。これ、マジで。

「残念なお知らせだ」

それすら無視し、話しだすライさん。

「シビルの魂はすでに消滅していた。俺はリィンの中にあった残滓を殺したにすぎない」

「戯言を・・・」

「嘘だと思うなら、白銀の乙女にでも聞いてみればいい。・・・ちなみに、俺が攻撃してもリィンが死ななかったのは白銀の乙女のおかげだ。まぁ、契約だから当然なんだけど」

ぽつりとなんか、大切なこと言いませんでした?

「もっとも」

何故に、抱きしめる腕の力を強めた?

嫌じゃないけど、嫌じゃないけども・・・っ。

「聞く前に死ぬのが先だがな」

うっひゃーい!炎が地面から大噴火ぁぁぁぁああぁぁぁっ?!え、ナニコレ、地獄がここに顕現した!ここは地獄になりました!?ここが地獄でした?!自分が何言ってるのかまったく解らないくらい混乱してます!

ひぃぃ、一面が真っ赤な灼熱地獄だぁ。空まで赤い。真っ赤を通り越して紅だぁぁぁ・・・!


「これで我を殺せると?」

馬鹿にするように鼻で笑いやがった。

「人形は人形らしく、素直に命令を聞いていればいいものを・・・」


いや、その前に気づくことがあるでしょう?

ねぇ、気づいてないの?ねぇねぇ・・・マジで?

「おい・・・何で命令されたことに普通に逆らってんだよ!」

オルデゥアの言う通り!

「どうせ、白銀の乙女が何かしたんでしょう!天才のアタシにだってすぐに解ったわよ!それも契約範囲内なんでしょうね!」

「・・・いったいどうやって、白銀の乙女に遭ったんだ」

「意外と普通に遭えるわよ?」

「は?」

激しくオルデゥアに同調する。

神様が気軽に、普通に、遭えるはずないですよ。私の時だってオルフさんの案内で逢ったのが初めてなんですよ?それ以降、まったく逢ってませんけど?

あ、とりあえず下ろしてください。地面が赤く燃えてるけど、地面が恋しいです。あと、体勢的に不安定で怖い。別にライさんが落としそうで怖い、とか思ってないんで・・・その、にこやかな顔でこっち見ないで。

ごめんなさい!落とさないで、腕の力を緩めないでっ!!

「まぁ、それはそうとして。残念だったわねぇ、初代魔王陛下!」

びしりとオルフさんに指を指すルキは・・・小物臭い感じがした。

なんと言うかこう、虎の威を借る狐?

「勇者共々、アタシ達が殺してあげるわ!」

「いや、その前に世界が滅ぶから無意味だって」

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

時が、止まったように思えたのは私だけだろうか?今、爆弾を投下されたような・・・え?

「残念ながら――時の三神が色々とやらかしたせいでこの世界はすでに、限界を迎えていた」

・・・え?

「つまり。時の三神を殺しても、何をして全てが無意味。あとは散って終わるだけ」

え゛?

「あ、ついでに言えば時の三神の残りの1人は刈り取る者がすでに殺したらしい」

え゛・・・?

「まぁ、面倒くさいし無意味ではあるけれど」

にたりとライさんが笑う。

それはもう、心の底から嬉しそうな笑みで。

「契約だし、恨みがあるし、なんか腹立つし、嫌いだから――――殺すわ」

良い笑顔で言う事じゃない。


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