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姉が結婚するので家を出ます。  作者: 如月雨水
Latus ad latus 《隣り合わせ》
29/41

6

やばい。自分で設定変えたこと忘れて、しかも設定の方で書き直さないで前の設定文を見ながら書いてたから変なことに気づいてしまった。

訂正文

火の聖女 → 煌の聖女

水の聖女 → 命の聖女

申し訳ありませんでした。うっかり。

「ちょっと用事が出来たから行くわね!」

一頻り私をからかって遊んで満足したのか、艶々した表情で図書館を後にしたルキ。・・・なんの用事かは考えない。予想がつくし、想像できるから考えない!

息を吐き出し、床に散らばったままの本を棚に戻していく。

っく、身長が足りなくて届かない!

台・・・何か台になりそうな物はない?きょろきょろと辺りを見渡してみるけど、それらしい物がない。・・・魔族って、そう言えば背が高いし飛べる種族もいたっけ。台なんていらないか。――人間のことも考えて!

はぁ、どうしよう。

途方に暮れていると扉が開く音が聞こえた。今度はエステルかな?それともツヴァインさんに連行されたライさんが逃げて来た?あ、ライさんだったら私も逃げないと。・・・人間の姿に戻ってるけど、身体能力は獣人のままかな?いや、人間の時と同じでも火事場の馬鹿力でなんとか・・・なんとかしてみよう!

ぐっと拳を握りしめ、ゆっくりと開かれる扉を凝視する。

「あれ・・・?」

現れたのはユフィーリアさんと一緒にいる所をよく目撃する――――名も知らぬメイドAさん。

細見で色白の肌は儚く消えてしまいそうな印象を見る者に与える。雪を溶かしたような髪はまるで星が散らばっているように綺麗で、同色の瞳と相まって神秘的に感じさせた。来ている服はユフィーリアさんと同じなのに、気高く高貴な感じがするのはどうしてだろう?一度、近くで見た時に荒れていない手を見たからかな?身綺麗にしているルキだって多少は荒れているのに、どうして・・・?荒れにくい体質なのかな?

「えっと」

ライさん曰く、雪女であるらしいこのメイドAさんは果たして、何をしに来たんだろう?

「リィン様ですね」

「あ、はい。そう・・・ですけど?」

雪女だからか、言葉が冷たく感じる。

ついでに言えば、喋るたびに吐き出された息が氷の結晶になっている。どういう仕組み?

ふわり、ふわりと宙に浮く氷の結晶についつい眼が行ってしまう。ううん、溶ける様も綺麗だなぁ。

「同僚が失礼いたしました」

「同僚・・・?」

「ゴーストの同僚は魔王陛下に思慕しており、リィン様との仲を分不相応にも嫉妬して・・・この部屋で事を起こしたと先程」

あー、さっきの大量の本雪崩事件の犯人か。

そっか。誰の姿も見えなかったと思ったらゴーストの仕業か。そっか、ゴーストの。

「魔族って何でもありか」

「は?」

「いえ、なんでも。それでどうしてあー・・・貴方が?謝罪なら当人がするのが筋だと」

「セーリアでございます。ルキ様が来られ直々に」

「あ、最後まで言わなくていいです」

ルキ、と言う名前だけで把握しました。

ご愁傷様。名も知らぬゴーストメイドBさん。

「えっと、セーリアさんは代わりに謝罪に来なくてもよかったんじゃないですか?」

さっきも言ったけど、当人が謝るべきで他人であるセーリアさんが謝るのは間違っている。それともライさんの・・・せ、正妃に決定されちゃった私になんてことを!と思って単独で謝りに?なら他の同僚も来るべきじゃ・・・?

「メイドの大半が似たようなことをしておりまして、ユフィーリア様方と共にしつ・・・調・・・メイドとしての心得を再教育し直しているところです」

「不穏な単語が聞こえた気がするんですけど」

「それでわたくしめが代償し、先に謝罪に来た次第で」

静々と頭を下げるセーリアさんに、私は頬を引きつらせた。

メイドの大半がライさんに思慕を寄せていた・・・と。女騎士の方々も何人か想いを寄せているんじゃないだろうか。ルナディアとかルナディアとかルナディア筆頭に。

わぁー、これ、私大丈夫かな?

貞操の危機より命の危機を感じた方がいいかもしれない。・・・異性にモテすぎるライさんが悪いんだ。怠惰の王の癖にっ、怠惰の王の癖に!

同族からも畏怖されてるはずなのに、異性に好かれてるライさんが悪いんだぁ!

魔族だもん、絶対に美人だよ!美女だよ!美少女だよ!胸とか私より大きくて、私なんかと比べ物にならないほどに色白で、私が惨めになるくらいライさんとお似合いなんだ。

うぅ・・・・・・・・・・・・、モヤモヤする。

「――――リィン様、こちらへ」

「へ?」

「リィン様のお心を慰めるよう、ユフィーリア様に申しつけられておりますので」

慰め・・・?

何を慰め?私の心?別に、傷ついてもないですけど。ただモヤモヤして嫌だなーって思うだけで、グレンや姉の時に比べたら別に――――や、あの時より不愉快だ。

ううん、これが傷心なんだろうか?

「慰めるって、何をするつもりですか?」

「魔王城の裏庭に咲く花が丁度、見ごろでございます。花を愛で、花に触れれば、お心も慰められるでしょう」

花なんて裏庭に咲いてたんだ。行ったことがないから知らなかったよ。

断るのも悪いし、興味もあったからセーリアさんに案内してもらった。花かぁ・・・どんな花が咲いてるのかなぁ。ちょっとワクワクする。

あ、モヤモヤでむしらないように気をつけよう。前の時みたいなのは避けよう。

もう随分と昔に思える、ライさんと出会う前にしていた行為を思い出して反省する。自然は大切に、だよね。うん、悪いことをしました。すいません。

でもむしゃくしゃしてやった、後悔はしてます!

後悔するくらいならするなって話だよねー。


「こちらです」

思考の海に落ちていた意識が浮上し、セーリアさんに向けていた視線が前を向く。


首を傾げた。

「花・・・ないですよ?」

あるのは裏庭に広がる大きな泉だけ。水底に咲いているのか?と思って覗いてみるけど、澄んだ水を赤と緑の鯉が泳いでいるだけ。あれが花に見えるの?

「もっと下をよくご覧ください」

・・・?あの薄く光っている紫色の何かが花なの?

「時間になればわかりますよ」

朝や夜だけに咲く花みたいに、決まった時間にならないと咲かない花なのか!おお、それは珍しい花なんだなぁ。どんな花を咲かせるんだろう、あの紫色の何か。

泉に落ちないぎりぎりの距離でぐっと身を乗り出し、水底を覗き込む。

あそこにあるなら、前の時の二の前にはならないぞー!


「あ、そんなに身を乗り出しては――」

大丈夫ですよ、そう言おうと口を開こうとして私は絶句した。

「簡単に殺さるじゃないですか」

水面に映るセーリアさんの顔は、醜悪に歪み憎悪の笑みを浮かべていた。


「!?」

冷ややかな空気を背後で感じ、転がるように横に身体を動かす。即座に身体を起こし、愕然とセーリアさんを見る。

白魚のような手に、冷気を纏う水の塊が集まっていた。

セーリアさんがにこりと哂う、嗤う。

「貴女さえいなければ」

「何を・・・」

「貴女さえいなければ・・・っ!」

憎しみの眼が私を射貫く。

私がいなければ?何を言っているのか理解できない。私がいなければ何だと言うのか。あ、ライさんがこんな小娘に惚れることもなかったってことですか!それはライさんに言ってくれないかな!!

次々と放たれる氷の・・・なんだ?刃みたいに切り裂く魔法を必死に避ければ、切られた箇所が空間事凍っている。これはどんな魔法だと舌打ちをしたくなった。ああもうっ!どうせ使えないんだっていじけて、魔法の勉強を放棄しなければよかったよ!

「っぁ・・・ぅ、ぎゃ!」

左足につぶてがかすって、鋭い痛みがはしった。

体勢を崩したところに容赦なく氷刃ひょうじんが襲い掛かり、逃げようと身を捻ったら足が滑った。こんなところで・・・!?なんと言う間抜けな!傾く身体で力が入らず、視界にはセーリアさ・・・ええい、もう呼び捨てだ!セーリアから放たれたばかりの氷刃が映る。

あ、これはやばい。

冷静な思考が死亡フラグを告げるけど、そんなことより火事場の馬鹿力で回避しろ!心の中で叱咤し、地面に手をついてなんとか避ける。・・・手首捻った。

「ってうそぉ!?」

避けたと思ったら目の前に氷刃が1つ、2つ、3つ・・・10と、目の前だけじゃなくて四方八方から迫ってきている。――――あ、つんだ。

せめて死ぬなら楽にっ!ぎゅっと眼を閉じ、来るであろう痛みに覚悟を決めた。なんか、人喰いガエルの時のことを思い出してしまった。次々と脳内に流れる光景は、過去、私が体験したことばかり。走馬燈が流れ、いやそんなのいいよ!と閉じていた眼を開けてしまった。

・・・あ、首ちょんぱコースだ。コレ。

首元を狙ってきた第一撃を、ただ眺めていることしか出来なかった。


「大丈夫か、リィン」

私の周りから氷刃が全て消える。

「こうなる前に、なんで俺の名前を呼ばない」

不機嫌な声で、不満そうな顔を私に向けるライさんにどうしようもない安堵を抱いた。


ぎゅっと背中から覆いかぶさるように身体を抱きしめるライさんの両腕に手を添え、頭に顎を預けるライさんに抗議するように腕を叩いた。顎がぐりぐりして痛いですってば!

「で、これはどういう状況だ?」

「えっと・・・ライさんに恋する乙女の嫉妬、による嫌がらせ?」

「嫌がらせは生きてなきゃ意味ねぇよ」

まぁ、確かにそうですね。殺したらやりすぎですし、嫌がらせの度をこしてるし。

「リィンが何も言わないから放っておいたけど・・・早々に排除しておけばよかったな」

あ、これは単独行動中に無視されるとか、足を引っかけられるとか、こそこそ嫌味を言われるとか――小さい嫌がらせのことバレてる。やべぇ。

ライさんから離れた僅かな時間にされていたことは、別に話す程のことでもないしかつて受けたモノだから気にもしてなかったんだけど。うわ、見上げたライさんの顔が笑顔。でも眼が笑ってない。確実にバレてる。何をされたのかも、言われたのかもバレてるよ・・・。

「魔王が住む城で俺に隠し事が出来ると思うなよ・・・?」

つまりプライバシーがない、と言うことですね!ひぃぃぃぃっ。

「普段は見てないし、聞いてもないから安心しろ」

普段は、って所が逆に怖いんですよ!

顔色を青くさせた私から視線を外し、ライさんが前を見据える。

「俺に恋・・・ねぇ」

興味なさそうに呟いて、私を抱く腕に力を込めた。

「それはねぇな」

「即答・・・!」

ライさんが登場すると同時に何かしたのか、地面に這いつくばったままのセーリアがより一層鋭い憎悪の眼を向けてきた。うう、殺気が突き刺さる。

ぶるりと身震いしたけれど、もう死の恐怖を感じていない。だってライさんが傍にいれば、私は死なない。ライさんが守ってくれると言ったし、何より空の聖女の力を暴走させずに使うことだって出来る・・・!

1人の時は暴走させたら、と言う恐怖で使えないんだい!だからさっきは逃げるしかなくて・・・嘲笑するセーリアに何度、暴走した力を放ってやろうとおもったことか。理性が必死に止めたからやらなかったけど。

「その通りです」

「ユフィーリアさん・・・?」

ライさんの後ろから現れたユフィーリアさんはゆっくりと歩き、セーリアに近づいて起き上がろうともがくその背中を踏みつけた。――女王様。そんな文字が脳裏に浮かんでしまった。

踵に力を入れて踏みつけているのか、ぐりぐりと足を動かして冷ややかに見下ろすユフィーリアさんの口元に僅かな笑み。足掻くように氷の何かを放とうとするセーリアの右手に魔力が集まると同時に、ライさんに耳を塞がれた。何事だと瞠目すれば、視界に映る赤い色。

セーリアの右手を貫通し、地面に縫い付けた小さなナイフが3つ。確かアレは――医療器具のナイフだと、ユフィーリアさんが恍惚とした表情で話してたやつだ。臨時手当が貰えて欲しかったオペシリーズの最新作を買ったんだと、早く使いたいと言っていた代物だ。

「リィン様に嫉妬した、と言う事実はともかくとして、コレが魔王陛下に想いを寄せるとは思えません。コレは他の魔王より魔王陛下へ下賜された魔族ですので、わたくし達のような忠誠心なぞ小指の爪ほどありませんので。ちなみに言えば、リィン様に嫌がらせをした者は分不相応に魔王陛下の寵愛を狙っていた愚か者です。権力と財にしか興味のない、娼婦よりも性質の悪い女共のなので記憶から抹消することをお勧めいたします」

きっぱりと断言された上に、酷いこと言ってる。

え、じゃあなんで私は襲われたんですか?「貴女さえいなければ」と言われた理由も解らないんですけど・・・。

「嫉妬の魔王、フレンヴァル様至上主義の同性愛者でございます」

・・・空耳、だよね?

「同性に性的に虐められることで快楽を覚える、真性の変態ですので魔王陛下に恋・・・などと言う事は絶対にありません。断言できます」

変な単語が聞こえた。

「じ・・・じゃあなんで私を襲って?」

「答えなさい」

骨が折れる音がここまで聞こえたんだけど・・・!

背骨折れたんじゃない?折れたよね絶対。肺に刺さってないといいけど・・・。

「我が君はあの時以来、麗しい顔を曇らせ悲観に涙を流しているのです。ただ魔王陛下に魔王らしく勇者を、勇者の仲間を殺すよう進言しただけなのに反逆者呼ばわりされたと嘆き、愛する魔王陛下から嫌われたと悲しまれておりました。それだけではない!魔王陛下はそこの人間に・・・、初代魔王陛下と空の聖女の子供だと謀る人間に惚れ、正妃にするとおっしゃった!我が君がどれだけ心を痛めたと・・・っ。貴女のせいで、貴女のせいで・・・っ!」

それ、完全なる八つ当たりじゃな?

呆れて声が出ない。

「ですからわたくしめは謹慎を命じられた我が君の代わりにと・・・っ」

頭が痛い。「全ては愛する我が君のため」とか「我が君が望む願いは全て叶えるのが下僕の務め」とか「我が君こそ魔王陛下に相応しい伴侶でございます」とか・・・この状況下でよく言えるよね。あ、この状況だから言えるのか。あはは、凄いやー。

――とりあえず、ぶちのめしたい。

空の聖女の力を使わず、拳だけであのお綺麗な顔をぼこぼこにしたい。普段では考えもしない凶暴すぎる願望に、自分でも驚いてしまった。ううん、ストレス溜まってるなぁ。溜息を吐いて、なんとか欲求を支配する。

「我が君に全てが劣る人間の女なぞ、魔王陛下には相応しくありません!!」

・・・・・・やっぱり殴りたい。

「フレンヴァルが俺に相応しいと、誰が決めた」

ライさんが嘲笑う声が鼓膜を震わす。

「俺に畏怖し、恐れる奴をどうしてそう思う?アレはリィンのように俺と接しない。そんな奴が何故、魔王陛下に相応しいと言える?」

頬にすり寄り、楽し気に語るライさんの顔は絶対、悪人面だ。

「七罪の1人だから、とか言うなよ?フレンヴァルは正統候補が偶然・・遭遇した先々代の勇者と戦闘になり、殺され、他の候補者が運悪く(・・・)災害や七聖女である時の聖女と(こう)の聖女の暴走に巻き込まれて死んだからInvidiaインウィディアの地位を得ただけの、分不相応な地位を与えられた魔族だ。俺達のように選ばれたわけじゃない。他にいないから、仕方なくその名を与えられただけの存在だ」

その言葉にセーリアが「違います」と叫ぶ。

「我が君は選ばれたのです!他の候補者がいたことの方が間違いで、我が君こそ嫉妬の名を持つ魔王に相応しいお方なのです!分不相応でも、仕方なくでもありません!!」

「確かに嫉妬の名は相応しいだろう。自分より優れた候補者を妬み、嫉み、先々代の勇者を誘惑し、傀儡のように操って正統候補者を殺させ、順位の高い他の候補者を事故に見せかけて、時の聖女と煌の聖女を無理矢理に覚醒させて力を暴走させた。・・・嫉妬で同族を殺せるんだ、Invidiaの名は確かに相応しい」

「でしたら!」

「だからこそ相応しくない」

ライさんが私から腕を放し、一歩、前に出た。

遠ざかる背中を静かに眺め、これは私が聞いていい話なのかと困惑する。耳でも塞ぐべきだろうか?おろおろと視線を動かして、どうしようかと悩む。いっそこの場から逃げ出そうかな・・・?

「そこから動くなよ、リィン」

ですよねー。

後ろを振り返ることなくそう告げられ、乾いた笑みがこぼれる。あはは・・・大人しくしてます。はい。

それでも一歩ぐらい、と後退する。

「・・・?」

水音がした。

おかしい。誰も、何もしていないのにどうして水の音が聞こえる?泉で泳ぐ鯉が空気を読まずに跳ねたのかな?

・・・あれ?

「ライさん・・・?」

名を呼んだのに、返事をしてくれない。どうして?

驚愕に眼を見開いてユフィーリアさんを見れば、口元が動いているのに声が聞こえない。え?え?え・・・?どういう事?魔法?

私の声がライさん達に届かなくて、ライさん達の声が私には届かないってどんな魔法!

誰か、今すぐに、私に馬鹿でも解る属性魔法の効果、とか言う本をくださいっ。ないなら作って!

「ぅぎょあ?!」

ひぃ!泉から出てきた水に縛られたされたっ!!

なにこれ、なにこれ!水の縄って・・・そんなの喜ぶのユフィーリアさんぐらいですよ!ユフィーリアさんを縛ればいいっ!!

けど、幸いにも縛られたのは両腕と手首、それから腹部。足に力入れて頑張れば、泉に引きずりこまれることはない!・・・はず!踏ん張れ私ぃぃぃぃぃいぃぃぃいぃぃっ!!

「ぅぅ・・・っぐぐぐぅ・・・・・・、ふん、ぬぅぅぅぅうぅぅ・・・!」

水の癖に、水の縄の癖に引っ張る力が強すぎないかこれ。卑怯だ、反則だ!実は水に見せた触手だ、そうに決まってる!!・・・やっぱり触手はなしで。気持ち悪い。

「ぅ、わぁ!?」

ちょっ、ここで足が滑る!?何もないのになんで?!

眼を見開きながら地面を見れば、セーリアが放った氷刃で作られた――――水溜まり。おのれぇセーリアぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

うわ、これ・・・無理!泉に落ちるっ!!


「?――――リィン!」

「ライさん・・・っ」


ああっ、声が、ライさんの声が聞こえる。

「これはっ」

驚愕しながらも私に一瞬で近づき、肩を掴んで泉へ落下するのを阻止してくれた。ありがとう、ありがとうございます!この水の縄のせいで溺死するかと・・・っ。うう、やっぱりライさんは私の命の恩人だぁ。泣きそう。

潤む眼で、けれど涙を流さずライさんを見上げる。

私を拘束する水の縄を力任せに千切っていた。・・・千切れるモノなんだ。

「――――――陛下っ!!」

遠くからツヴァインさんが走ってきた。

酷く焦ったようなその表情に、何かあったことは明白だ。

「命の聖女が勇者一行に協力しているようで!」

「知ってる。コレは水の聖女の力だ」

水のコレが、水の聖女の力・・・?おう、何と言うことでしょう。私、同じ七聖女の1人に泉に落とされ、あわや溺死か!の危機に陥っていたと?

ルキやエステルと違って、友好的じゃないんですね。

「勇者に手を貸したか・・・」

「ライさん?」

「俺を敵に回す覚悟があるようだな、命の聖女は」

水で濡れた私の身体を抱きしめ、ライさんが舌打ちをした。

魔王陛下とは言え、流石に七聖女である水の聖女を敵に回したくなかったんだろうなぁ。力の暴走も、勇者であるグレンがいるから抑えられるし。でも、ルキもエステルも、私もいるんだから力の差ではライさんが上だと思うんだけど?

「魔王陛下」

ユフィーリアさんの静かな声がして、視線をそちらに向けた。ユフィーリアさんを映すはずの瞳が闇を映し出す。・・・ライさん?

「自害しました」

誰が、と聞くような愚かなことはしない。ライさんが私の視界を隠したのは、つまりはそう言うことで。

でも、どうやってセーリアを殺したの?

「フレンヴァルの契約の力だろう」

「契約?」

「配下と契約をすることで、下位の魔族の潜在能力を上げることが出来る。代償として魔王の命令は絶対に逆らえない。どんな場所にいても、何をしていても、魔王がそう命じればそれに従うしかない。・・・フレンヴァルは自害を命じたようだな」

つまり、雪女であるセーリアは下位の魔族だったと・・・。そんな情報は今、どうでもいいのですぐに忘れよう。

それよりも――――。

双眸を覆うライさんの手を掴み、力任せにはがそうとするけど・・・無理だった。

「ツヴァイン翁、すぐにフレンヴァルを呼べ。どうやらアレは・・・俺達魔族を裏切って勇者についたようだ」

「っそれは!」

「何に嫉妬したか知らないが、たかだか偽りの魔王の分際で俺を敵に回すとはなぁ」

にたりと、ライさんが嗤った。

「それに――どうやら勇者は何としてでもリィンを取り戻したいようだ」

「私を?」

「命の聖女の力を使ってリィンの居場所を探し、強制的に転移させようとした。命の聖女は水に関する力があるから、それをつかって水のある場所ならば、どこでも転移できるしなぁ」

「いや、だから・・・」

「俺からリィンを奪うなんて、いい度胸をしている」

低く、唸る獣に似た声。

隠し切れない怒りに、空気が震える。

抑えきれない魔力が空間をゆがませた。

ああ、ライさんが本気で怒ってる。その怒りの原因が私であることに、胸が締め付けられた。苦しいんじゃなくて、喜びによって。・・・私、変だ。


「そっちがその気なら、戦争をしようじゃないか――――勇者」



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