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姉が結婚するので家を出ます。  作者: 如月雨水
Stella miira 《不思議な星》
21/41

5

怪しい人物こと、オズが自己紹介した瞬間――世界が夜に染まった。

比喩でもなんでもなく、本当に夜になった。さっきまで太陽が昇って、青空が広がっていたのにどういう事だと私は恐怖で戦慄した。いやほんとう、なにこれこわい。

明かり1つない森の中、恐る恐ると空を仰ぐ。

見上げた空は黒に染まっていて、散りばめられたように輝く銀色が眼に優しくて涙が出そうだった。――恐怖からもう泣いているけど。

「お・・・おる、おるおるるるるるるオルフさん、こ、ここここここれって?」

「そこの暴食の魔王と名乗った若造が、闇属性の空間魔法を使って仮想空間を創り出したんだろう。確かこの魔法名は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「忘れたんだ」

「長く生きていると、どうでもいいことはすぐに忘れてしまうものだよ。愛し子」

気まずそうに視線をそらしながら言われても。

とりあえず魔法を使ったことだけは判明したけど、これ・・・どうにかならない?暗闇って本能的に恐怖を呼び起こすから嫌いなんですけど。あと、普通に怖いから嫌い。

「いげんあるしゃべりかたってやっぱりやだなぁ、にあわないし」

がらりと変わる空気に、魔王と言うのはそう言う者ばかりなのかと恐怖も忘れて頭が痛くなった。・・・いや、バルバゼスは見た目があれだけど魔王っぽかった。

見た目はあれだけど。

そうするとライさんとオズがおかしいのかもしれない。

きっと、他の魔王はもっとこう、見た目からして魔王!って感じだと思う。むしろそうであって欲しい。1人ぐらい、物語に出てくる魔王らしい魔王がいてくれないかな。切実に。

・・・元魔王のオルフさんの人間バージョンがあれだから、期待するだけ駄目なのかもしれないけど。あれは魔王じゃない。相反する天使だ、天使。もしくは神。

白銀の乙女と遜色ないほど、神々しい魔王がいてたまるか。あ・・・、眼の前にいたわ。

「愛し子、何か今・・・我を馬鹿にしたかい?」

「まさか」

何故、ばれた。

「それで、オズ・・・さんはどこに行きたいんです?道って言われても、答えられるか解らないけど」

だってここ、ほぼ森。

そして私、さっきここに来たばかり。詳しいはずがない。ので、そう言うのは森に在住?しているらしいエステルに任せよう。ルキに任せちゃ駄目だ。ルキは。

「まかいってどういくの?」

わ、なんてタイムリーな。実はそこで私達の会話でも聞いてたの?ってぐらい、タイミングばっちりなんですけど。

怖い。

そしてぐいっと、私に仮面を近づけて聞かないで欲しい。いつの間に近づいてきた!心臓に悪いからやめてください。土下座するから、本当。

バクバクと早鐘を打つ心臓を宥めつつ、私は知らないと首を横に振る。むしろ私が教えて欲しいくらいだ。私だって魔界に行きたい。

「・・・そっちのこたちは?」

「方角のことを聞いてるなら、アタシはこう答えるわね。・・・方向音痴のアタシに聞いたことが間違いよ!!」

胸を張って言う事か。

「そもそもアナタ、魔界になんの用があるわけ?・・・はっ!解ったわ、天才的なアタシの頭脳が閃いてしまったのよ!!アナタ――――現・魔王陛下を殺して下剋上をするつもりね」

「え、しないよ?らいくんとはなかよしだし、らいくんがいないとぼく・・・ねなしやどなしのほうろうしゃになっちゃうからねぇ」

「あらそうなの、ごめんなさい」

根なし、宿無し・・・ってどう言う魔王?

「でも、方向以外なら問題ないわ!何故なら――――今からアタシとエステルが魔界へ転移するつもりだったもの!!どう、凄いでしょう?!」

「わぁお、ぼく、たいみんぐよかった?」

「ええ、ええ!ナイスタイミングに現れたわ!」

「そっかー。ならこのしゅうへんににんげんのたいぐんがいるみたいだから、はやくまかいにいこうよ!ぼく、はやくまかいのごはんがたべたいなぁ!!」

「人間の大群・・・?この周辺に?」

オズの言葉にまさかと思って、オルフさんを見ればこくりと頷かれた。その頷きは何を意味して・・・ああいや、言わないで。知りたくない。聞きたくない!

「この森に近づく気配の正体が、そいつらだったんだろう。ああ・・・威嚇射撃をしていたがどうやら壊されたらしい。あちらは腕の立つ魔法使いがいるようだ」

腕の立つ・・・魔法使い?

「この空間の周囲をぐるぐると歩いているぞ、愛し子」

どうしよう。すごく嫌な予感しかしないっ。

「お・・・オズが空間魔法を発動させたのって彼らから姿を隠すため?」

「・・・そうだね!」

嘘だ。絶対に嘘だ。間がなによりもの証拠だと言いたいけど、何も考えずに発動させたであろうオズの行為が結果的に、最良となっているから何も言えない。

ああ・・・腕の立つ魔法使いと言う存在が、どうにも引っかかってならない。もしかしてアイツ?アイツなの?そんな訳ないと考えを否定するけど・・・嫌な予感がだんだんと強くなってきている。冗談抜きで、アイツがいるの?ここに・・・?勘弁して。

「今すぐに、魔界に行きましょう!そうしましょう、行けますよねルキ!?」

「ふふん!誰に言っていると思っているのかしら。この神に愛され天才と称されるアタシよ?すぐに行けるわ!さぁ、準備するわよ!そして行くわ、魔界へ!!」

「ええ、今すぐにでもっ!!」

深く考えない、単純なルキに声をかければ案の定、急かす理由を問うことも疑問に思うこともせずに同意してくれた。ふ・・・ちょろい。

「さぁ、エステルやるわよ!」

「いやちょっと待ってってば・・・・・・あーもう、仕方ないな」

ルキが張り切れば、ルキに対して諦観を抱いているエステルも行動に移すだろう。胸中に抱いた疑問とか言葉にすることなく、むしろそう言うことを考える暇もないほどに喋るルキに翻弄され、準備を始める。ふ・・・計算通り!

互いの両手を重ね、額をくっつけた状態で眼を閉じるエステルとルキ。

黙っていれば絵になりそうなほどに美しい光景だ。黙っていれば。

「・・・!」

ふわり、と足元から柔らかな光が現れた。

不可思議な、たぶん、古代語だと思われる文字が描かれた魔法陣は白銀と黒金に輝いていて、陽の聖女と夜の聖女の力が作用しているのだと教えてくれる。成程、こうなるのか。

生憎と、自分でやった時は足元どころか周りを見る余裕もなかったから解らなかったけど、周囲を漂う蛍の光に似た淡い輝きは魔力の色を示し、光沢が注がれるように2人の頭上から光の雨が降り注ぐ。うむ、こうしてみると神秘!って感じですね。

「行こう」

「行きましょう」

同じタイミングに、似た台詞を呟いた。

光が収縮する。

足元の魔法陣が範囲を広げ、私達を挟むように同じ形の魔法陣が上空に出現した。足元魔法陣が動く。まるで時計の秒針のように音を鳴らして。頭上の魔法陣が逆回転に動く。いびつな機械音が聞こえた。驚いて腰が抜けて、地面に座り込んでしまった。恥ずかしい。

「魔王が統べる場所へと」

2つの異なる声が告げた瞬間、空間魔法を貫く勢いで光が溢れた。そして闇に呑まれ――――。

――――はい、見知らぬ場所に転移しました。

まさに刹那ですね、一瞬の出来事ですね。瞬きしたら別の場所って、脳の処理速度が追い付かないよね。若干、混乱してます。とりあえずここは――魔界、なのかな?

座ったまま周囲をきょろきょろと見渡すけど・・・ここ、建物の中みたいでよく解らない。

高級そうなソファと高そうなテーブルがあるから、応接室?みたいな所かな?

窓は大きいけれど陽射しがあまり入っていないのを見るに、近くに木か建物でもあるのかもしれない。応接室にしては本棚が1つ、2つ、3つ・・・5つある。どの本棚にもぎっしりと、もう詰めると隙間がないほどに本や紙の束が入っている。みっちりだ。それを見るに、ここは応接室じゃないのかもしれない。なんて思えてしまう。

解らないけど。

見上げた天井にはペンダントタイプのライトと、壁に取り付けるブラケットタイプのライトがあった。・・・ううむ、装飾品の芸が細かい。ように見える。

「・・・あれ?」

部屋の中に扉が2つあることに気づき、もしかしてどちらかが廊下に出られる扉なんじゃないかな。とか呑気に考えて、はたと気づいてしまった。

「なんで私1人?」

エステルやルキ、オルフさんやオズはいずこ――――?

「まさか・・・・・・はぐれた?転移で?まさか」

さぁっと血の気が引く音が聞こえた。

「いやいやいや、そんな私だけ別っておかしいでしょ。そんな転移ってないでしょ」

あ、この絨毯すっごく触り心地いい。

「でもエステルが確立は高くないって言ってたし、もしかしたらそんな転移もあるのかも・・・いやでも」

調度品もこの建物の主の趣味か、派手さよりも質素で、機能面を重視してるよね。必要最低限のもの以外はいらない、って言うのが良く解る室内ですね。他は知らないけど。

「――――現実逃避してる場合じゃない。と、とにかくここから出てみないと何も解らないよね!」

よしっと意気込み、立ち上がった私の耳にキィと言う音が・・・・・・何事じゃ!?

怯えつつも臨戦態勢をとり、挙動不審に周囲を見渡す。空耳?幻聴?幽霊!?・・・・・・・・・なんだ、窓が開いた音か。驚かせないで欲しいよ、まったく。

「ん?窓が開いた?」

あれ?どうやって窓が開いたの?誰が開けたの?私、何も触ってないよ?

そしてこの部屋、私以外には誰もいない・・・よ?

「はっ!今度は明かりがついた!?」

ナニコレ、ナニコレ、ナニコレ?!

明かりがつくようなこと、何もしてませんけどぉぉぉぉおおぉぉぉぉおおぉぉぉおぉっ!!こわ、怖い、怖すぎる!誰か助けて!ライさん助けてっ!!!

「誰だ貴様は!」

「びぎゃあ?!」

立ち上がり、恐々と窓に近づいた刹那、背後から怒鳴られて変な悲鳴が出た。

「ここで何をしている・・・」

凛とした強い意志を感じる声は知らない女の声で、発せられた言葉は不信感をにじませている。と言うより、敵意を感じるのですが何故ですか?――あ、不法侵入者だからか。

これは・・・その・・・・・・ふ、不可抗力です!

「何故、ここに人間がいるっ!」

「っひ!」

吠えるように叫ばれ、空気が震えた。こ、鼓膜が痛い。

窓ガラス越しに見える姿は眼鏡をかけた、知的な印象を与える黒に赤いラインが入った軍服を着た、麗人と言う文字が似合う女性。知的な印象を裏切る声量ですね、耳がまだ痛い。

両耳を抑えながら振り返り、殺気を纏う女性を見た。

顔の右半分に茨の刺青。淡いピンク色の髪を頭の高い位置で1つに括り、凛とした知的な雰囲気と相まって出来る女、な言葉が物凄く似合う。そして美人。胸は・・・・・・慎ましやか?

「答えろ」

すいません!慎ましやかな胸、とか思ってすいませんでした!怒鳴らないで!凄まないでっ!

戦々恐々した身体が無意識に後ろに後退し、すぐに逃げ場がなくなった。これ以上、下がれないんですけど・・・っ!ああ、そんな射殺すような眼を向けないで。視線で死ねるっ。

「私は」

カツカツっと、革靴を鳴らして近づいてくる。ひぃ!!

「答えろ、と言ったんだ。その口は飾りか、人間」

ルシルフルと比べ物にならないくらい、敵意と悪意と殺意を感じます!!

「い・・・あ、の・・・わ、わた、し」

「魔王城にどうやって来た、人間!」

「魔王・・・城?今、魔王城って言いましたよね?魔王城って魔王の城ですよね?むしろそれ以外で魔王城って呼ぶ城がありますか?ありませんよね!」

「は・・・?なんだ、いきなり。当たり前だろう。ここは魔王城。魔界を統べる魔王陛下が居られる城だ」

「つまりは魔界!」

よっし!ここは人界じゃなくて魔界だ!よっし、よっし、よぉぉぉし!!ガッツポーズをつくり、狂喜する私に何を思ったのか、詰め寄っていた知的美人が1歩どころか3歩も離れて行く。

不気味な者を見る眼で私を見ないでください。腰に差した剣を抜こうとしないでください。喜びすぎたと反省してますから。

「その、えっ・・・ひぃ!?」

「陛下に害を与える可能性が高い者は、早急に始末すべきだな」

結論づけるの早い!

そして剣をいつ、抜いたの?!眼の前に剣先を突き付けないで、怖いっ。

「あ、いや、あの・・・わ、わた」

私、ライさんに害なんて与えないし、与えられるはずない存在です!無害です!と言いたいけど、眼の前の人物が口を動かすことすら許してくれない。殺気って、こんなに身体を拘束するものなんですね。知りたくなかった。

「ああ、だが殺す前にここに来た目的を吐かせなければな」

「っ!!!」

にたりと、悪人も真っ青な笑顔を綺麗に浮かべる知的美人さんは様になってました!う・・・うあぁぁぁぁ・・・わ、私、どうなるの?これからどうなるの?拷問?いやだ!

「なにやってんのよ、ルナディア?」

救いの声が!知的美人の後ろから!

2つある内の1つ、知的美人の背後にある扉から現れたのは知的美人と同じ軍服を着た、性別不明な長身痩躯の・・・・・・化粧が濃いおそらく女性。

呆れた声とは裏腹に、その表情には満面の笑みを浮かべ、背中に折りたたまれた灰色の二対二の翼を持っている。堕天使?天魔?種族は不明だけど、それに近いと私は考える。長く美しい夜明け前の空に似た髪色はウェーブしており、艶やかな光沢を放っている。手入れをしっかりしてるんだろうな。同じように綺麗に手入れされた長い爪で赤く色づいた唇に触れ、空いた手で肘を支え、女性はこてりと首を傾げる。

「魔王様方がお待ちよ。あんまり遅いと、傲慢の魔王様からお怒りを頂くわよ?」

あ、これは救いの主じゃない。

「ヴェルク・・・」

「その人間が何か知らないけど、連れて行けばいいじゃない。勝手なことをしたら、怠惰の王様に怒られて、嫌われて、存在を記憶から消されるわよ」

「っ!」

怠惰の王様・・・って、ライさんのことだよね?ここにいるの?

息を呑んだ知的美人こと、ルナディアが渋々、本当に渋々と剣を鞘に納めた。そんなに嫌か・・・私を、人間を殺したかったのか。頬がひきつった。

「ああ、そうそう。アタシ、四将軍の1人のヴェルク=バ=ソロディ。こっちは同じ四将軍のルナディア=ディアズ=デオロークよ。すぐに死ぬかもしれないけど、よろしくね」

「は・・・はぁ」

何故、ここで自己紹介?能天気なのか、楽天的なのか、はたまた別の何かなのか。とりあえず意味が解らない。

解ったのはこの2人が魔王陛下に仕える4人の将軍の内、2人ってこと。

あ、私の未来が死亡の二文字しか見えない。

「何故、こんな奴に名を教えた」

「面白いかと思って」

語尾にハートマークが付きそうな声で、ヴェルクが言う。面白い・・・面白いのかな?

襟首を掴まれ、気道が閉まるかと思った。あうあうと抵抗するけど、ルナディアは無視して私を引きずって歩く。やめて、死ぬ!

「あらあらもう、それじゃあ途中で窒息死するわよ、ルナディア」

「問題ない」

「あら、殺す気ね。でもだぁめ。ちゃんと魔王様方にお伺いを立ててからじゃないと。・・・人間好きの魔王様もいるのよ?殺したらどんなお叱りを受けるか。想像するだけで怖いわ」

「・・・っは!げほっご・・・っ!はー、はー・・・」

死ぬかと思った。

「やっぱり捕虜は首輪をつけて・・・こう、犬みたいに歩かせるのが一番よ!」

・・・前言撤回。私、死ぬ。羞恥で死ねる。

いつの間につけられたのか、首に黒い首輪をつけられ、じゃらりと音を鳴らす鎖の先をヴェルクが持っている。わぁ、ナニコレ。何プレイ?遠い眼をしてしまう。

「さぁて、行きましょうか!あ、ちなみにそれ、無理に外そうとすると電流が流れて焼け死ぬから気をつけなさいよ」

物騒!








首輪をつけ、鎖で引っ張られるまま赤い絨毯が敷かれた長い廊下を歩いた。・・・メイドらしき人と、騎士らしき存在に哀れんだような、可愛そうな者を見る眼で見られたのが痛い。同情的なのが余計に辛い。いっそ、悪意や敵意、憎悪なんかの方がよかった・・・そっちもやだ。

そっと、眼の前を歩く2人にばれないように溜息を吐き出す。もう、何度目だろう。

「さぁ、ついたわよ」

言われ、下げていた視線を上げれば大きな・・・巨人でもいるんですか?と言いたくなるほどに巨大な扉があった。扉に描かれているのは7人の女性と、7人の・・・魔族に見えるけどこれって何?もしかして七聖女と七罪?はてと首を傾げた。

意味は解らないけれど、存在感と威厳溢れる扉ですね。で、この向こうはどこと繋がっているんですか?

「この先は玉座の間。死に難くなければ口を閉ざして、息もするな」

「だからそれ、死んじゃうから駄目だってばもう。おとなしくしてるのよ?」

頷いて了承すれば舌打ちが聞こえた。誰がしたか、なんて見なくても解る。はぁ、溜息をつくと同時に扉が重い音をたてて開いた。

・・・おおう!何と言うか、これぞラストステージっと言う感じの音ですね。ちょっと感動。そして室内は・・・何で水があるんだろう。

入り口から玉座に続く道には石畳の足場があるけど、それ以外は水。左右の壁から静かに流れる水は澄んでいて、ちらりと見た水場には魚が泳いでいる。で、その壁の周囲には七罪に関係する紋章?が描かれた旗が下がっていて、鳥に虎を見るからに七罪に関するものだと確信した。となれば、狼に獅子、人魚にサソリと狐も七罪関係なんだろう。

水が流れているせいか、苔や水花と言った緑が見える。

宙に浮いた無数のランタンがぽっと淡い光を灯し、玉座までの道を標していた。

でもそれ以外じゃあ、物語に描かれたような内装だなぁ。ちょっと不謹慎だけどわくわくする。ちらりと後ろを見てみた。

扉の前に立つのは黒い甲冑姿の騎士が2人。

中央部に至る道のりまで黒に赤い紋様が描かれた家中姿の騎士がずらりと並んでいる。その中央部には、ヴェルクとルナディアと同じ軍服を身に纏った2人の男の姿がある。間違いなく、四将軍の残り2名だ。

わぁ、どうしよう。すっごく謁見ぽくてドキドキわくわくする。不謹慎だけど。

「・・・」

無言のまま歩くヴェルクに引っ張らるがまま、足を動かす。

最早、私の中に恐怖はなく、代わりに溢れんばかりの好奇心が出てきた。状況を考えろ、と叱りたくなるほどの興奮でした。黒歴史になるな、これ。

「・・・あん?」

四将軍の残り2人をよく見る前に、訝しむ声が聞こえてはて?と瞬いた。何だろう。どっかで聞いたような・・・ないような。

そろりと視線を向ける。あ・・・バルバゼスだ。

「な・・・何故」

そう言えばこの魔族、魔王だったっけ。

何やら絶句している様子のバルバゼスを綺麗に無視し、もしかしてこの中にライさんがいるんじゃないかと視線を動かそうとし――ふわりと何かに抱きしめられた。

「っ陛下!」

ふわっと香る、この匂いは・・・。

「何故、ここにいるぅ!」

押し付けられた胸板から、何とか顔を出して上を見る。

「ようやく、見つけたぞ――――リィン」

「ライさん」

「今度は、離さない」


恋愛、恋愛、恋愛・・・と呪詛のように考えながら、路線がずれた話を直し、直し、ようやく、ようやく・・・魔界に戻れた。さぁ!ここから恋愛にしていくぞ!と言う意気込み。

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