探偵と賭け事
探偵というものは、何かしら賭け事に巻き込まれていることが多い。
探偵でなくとも、賭け事をしている、いや人生で些細な賭け事ぐらい一度や二度くらいは、賭け事をしたことのあるという経験は誰かしらあると思うが、探偵ほど常軌を逸してはいないだろう。
もし、探偵と同等かそれ以上ならば、その人は根っからのギャンブラーか、常軌を逸して後戻りすら出来ないような人なのだろう。
何せ自分の親族の名前や自分の栄誉、将来を賭けるという行為はもうこの際百歩譲って置いとくとしても、彼等探偵達が賭ける場所というのが、事件の現場であり、賭けの勝利条件というものが、大抵の場合事件の真相を解いたものが勝者というものであるのは、冷静に考えてみると、到底理解ができないものだと思う。
理解出来る部分は、結局のところ彼等探偵は自負があるのだろう。
勝算があるのだから賭けに乗る。
少なからず、もっと言えば五分五分ぐらいの割合か、それ以上で自分がこの事件というものを解決出来るという自負があるから乗るのだろう。
もしくは、ただただ単純な好奇心あるいは刺激だったりするのだろうか。
世間一般において犯罪という刺激も探偵にとっては、日常なのかもしれない。
しかし、僕としては自負もなければ、刺激も好奇心もないのだから、賭け事に積極的な参加はしないというのが、当たり前というものである。
「立川さん、明日になれば、きっと私は殺されるでしょうから、よろしくお願いしますね、ロボ和歌子初号機も、明日はよろしくお願いしますね」
パーティーの準備も佳境にはいり、いよいよ明日がパーティーの日だ。
お嬢様はあいもかわらずだが、僕だってあいもかわらず捜査という捜査も出来ていないのだから、何も変わっていないという点においては、おあいこという事になるのだろうか。
「心配せずとも、与えられた事には応えてみせますよ、心配は杞憂というものです」
「そうですか、父も母も実物を見て安心していましたよ」
「所長のどこに安心する要素があるんですかね」
「そうだね、僕もそう思うよ」
「冗談ですよ、所長にも安心する要素はありますよ」
「どんな」
「自分の娘に手を出せない、冴えない容姿を持っているとこなんか、安心する要素と言えなくもないのではないでしょうか」
ロボ和歌子初号機もきっちりと僕を貶していく所は、変わっていない。
変わっていないのに、明日になれば、事件は起こるというのだろうか。
そんな心配を読みとったのか、はたまた元々話す予定だったのか、お嬢様は語った。
「立川さん、最後にフラグを建てましょうか」
「フラグですか」
「えぇ、探偵として成長するために、ひいては私が殺されるように、フラグを建てましょう」
「どんなフラグですか?」
「私と立川さんで賭けをしましょう」
「賭けですか」
「はい、私の殺人事件の真相を立川さんの人生をかけて解決出来なければ私の勝ち、解決出来るならば、立川さんの勝ちという事で、どうでしょうか」
「賭けになっていないような気がします」
「フラグですから、それらしい事を言ってみました」
「なるほど、まぁいいですよ」
それでも、やはり探偵というものは、賭け事に巻き込まれていることが多い。
探偵としての自負に欠けており、探偵として日が浅く、実質探偵として名ばかりの僕でさえ、その渦からは逃れるということは出来ないらしい。




