探偵と挑戦
探偵というのは、時々挑まれるものだ。
それは、例えどんなに理不尽と感じようとも、必然であるのかもしれない。
事件の解決をしようと望むなら、自分が、謎に挑むのであれば、挑むことがあるのならば、挑まれることが無いなどとは言えない。
捕まるのを恐れもせず、飽く事を嫌うかのように、予告状、挑戦状の類を出してくる。
己が優秀であることを、証明せんがため、ギリギリのスリルを味わうため、理由は、さまざまであろうが、根底としては、正しさにあるのだろう。
正しさと言うには、少々間違えているかもしれないが、大筋では間違えていないと思う。
例えばの話、有名すぎて、もはや、暗号の意味すらなさない、タヌキの暗号の予告状が来て、警察がそれを解けずに、犯行を実行されたとすれば、犯人を責めることより、警察へ批判がいくことだろう。
正しければ、許される。
免罪符の様なものなのかもしれないし、他の理由をあげるとするならば、自分の罪を自分なりに向き合うという正しさ。
止めて欲しいという正しさ。
間違えているのであれば、失敗するだろうが、失敗しないのであれば、それは自分が、正しいと言うことと考えているのかもしれない。
一枚の用紙と睨めっこして、半日もたつが、結局のところ、この用紙に書いてあることがわからなければ、探偵として、挑まれた僕が、探偵として此処にいる正しさの幾分かを失うということである。
一行目に、『いろはにほへと』2行目には、『あいうえお』の文字が書かれた文字、3行目には、大きなバツが書かれてある紙を、和歌子お嬢様から渡されたのは、半日も前で、この暗号の解読の手掛かりすら、掴めていない。
和歌子お嬢様のお姉さんが、到着するまでに、探偵ならば解けるでしょと言われたそうだ。
「立川さんの探偵としての仕事の一貫として、その暗号の推理を私に聞かせてくださいね」
「所長が解けなければどうなるんですか?」
「私の事件解いて貰うために、探偵でいてもらいますよ、私の事件を解決するのは、立川さんですから」
まぁ、明らかに、嬉しそうに、この用紙を渡した事で、暗号が、解かれるのを、楽しみにしているのだろう。
解けなくても良いと言っているが、探偵として、お嬢様の前で、推理をする事を仕事として、依頼しているのだから。
探偵度を上げるために、解決を試みて見ようと取り組んでは見たものの、探偵度は上げるどころか、そもそもの話、探偵度ってなんだろうと、僕自身にツッコミを入れるぐらいには、行き詰まり、探偵としての幾分かの正しささえ、失いそうである。
ぼさっとしている髪を、カリカリといじくるぐらいに、集中出来ない。
「所長解けましたか」
「解けているように、見えるの」
「遊んでいるように見えますね」
真剣に考えているのだが、ロボ和歌子初号機には、遊んでいるように見えると言うのも、理不尽ではあるが、髪をいじる様な情況では、それも致し方なしと言うことだろう。
「まぁ、何一つわからない」
「所長、3行目だけ文字ではないのですから、バツと言うことは何かを消すと言う事では?」
確かに、記号のバツで何かを消すと言う事なんだろうが、何の文字を消せと言うのだろう。
タヌキの暗号の様に、その消す文字を指定している訳でもないのだ。
「1行目と2行目で共通するのは、いの文字だけ、消しても『ろはにほへと』と『あうえお』だよ」
「所長、気づきました」
「えっ分かったの」
さすが、ロボ和歌子初号機、ロボットと言うのは、頼りになるものなんだと思い知らされる。
「あほとえろ、つまり所長の事ですね」
「いや、作れるけどね」
作れるけどね、作ったところでどうしようもない、いや、そもそもそれだと、いの文字を消した意味が無いし、ろうやハエという単語も出来る。
「えっその2つも、所長を表しているんですか」
「表していないけど」
「まぁ、解読のルールがわからない以上、どうしようも無いと言う事ですね」
「コンピューターって暗号に強いんじゃないの、そういうイメージがあるんだけど」
「強いか弱いかと言われれば、強いでしょうが、結局のところ総当たりですよ、例えば4桁の数字のパスワードがあったとして、それに付随する暗号が、あったとしてもコンピューターとしては、0000〜9999を総当たりでやるスピードのほうが、早いと言うことです、いつかは何かがヒットするということですね」
「そうなんだ」
「ただ、それは答えが、数字という条件があった場合です、逆を言えば、ルールがわからない限り、この暗号は答えが、複数あると言うことです」
つまりは、現状を言えば、ロボ和歌子初号機も、お手上げ状態であると言うことである。
まぁ僕を馬鹿にする様な答えを見つけて来るのは、さすがですねとしか言いようがない。
複数あるという暗号の答えの中に、探偵として、僕自身も、見つけねばならないだろう。
少なくとも、挑まれた以上、探偵の正しさというものを少しでも示さねばならない。
とはいえ、全くもって、それを果たせる気がしないのは、まだまだ僕は、探偵度が、低いのだろう。
頭を掻きながら、幾分か見飽きた、暗号の紙にまた目を通して、何かの答えを探す作業へと戻った。




