探偵と理不尽
和歌子お嬢様のお姉さんが、やって来るという。
他人事みたいにしていれば、本当に他人事になるんじゃないかと思いたいのだが、そんな事には、ならないと理解はしている。
頭で理解をしては、いるけれども何かが追いついていないのは、和歌子お嬢様から告げられた言葉のせいだろう。
「鞠姉さんが、査定に来るとの事は、昨夜聞いているでしょうが、鞠姉さんに、何を言われても、立川さんは気にせず、容疑者が増えたぐらいに気軽に考えていてください」
安心させるためなのか、なんら変わりのない優雅な日常のようで、言われたこちら側が、不安感と混乱が程よく混ざっていき、一瞬安心しかけたのもあるが、やはりよくよく考えてみたら、容疑者って増えれば、安心するようなものだろうか。
確かに、ドラマや漫画などでは、容疑者がゼロと言う時に浮上してきた容疑者に、色めきたち、安堵しているような場面はあるといえばあるが、僕には、容疑者が増える事で、安心が得られるような神経は、まだまだ探偵として備わってなどいないと言うのが、現状である。
容疑者というが、そもそも和歌子お嬢様は、まだ生きているので、容疑者と言っていいのだろうか、考えてみるとそもそも親しい川中さんや、緑川さんと訳もなく、容疑者扱いをしているような和歌子お嬢様の、内面というか、神経を疑うのが、筋であろうけれど、こうも優雅な態度を取られていると、こちらが間違っているような気もしてはくるのだが、その川中さんや、遊びに来ていた緑川さんが、呆れたような、諦めかけているような表情でいるという事は、少なくとも僕が、割と正常な思考をしていると思っても、間違いではないはずだ。
「お嬢様、鞠様は、お嬢様を心配してらっしゃるのです」
「鞠姉さんが、心配しなくても、立川さんが探偵として立派に私の殺人事件を解決してくれますよ」
「そのような悪癖じみた妄想とか、その他諸々も含めて、鞠様は心配されているのです」
「そうだぜ、鞠さんはこいつと違って仕事で凄く忙しいだろうに、わざわざこいつを査定に来るという、無駄な事をしに来るんだから」
「そうですよ、わざわざクビを宣告しに来るんですから」
「所長、お元気でいてくださいね」
確かに、和歌子お嬢様のお姉さんが、ここに査定に来るまでもなく、僕がダメという、判定を毎日もらっているといっても良いぐらいだ。
それなのに、仕事で忙しいのに、僕をわざわざ査定に来ると言うのは、妹である和歌子お嬢様を心配しているのであろうが、和歌子お嬢様は、気にもとめていないのだろう。
「確かに、立川さんが探偵であることは、私が決めた事ですから、鞠姉さんが来るのは、無駄ですね、姉とはどうしてこう理不尽なのでしょうか、よくわからないですね」
しみじみと問いかけられても、うまく答えることなど出来ないのだが、違和感というものがあるならば、いや理不尽さというものがあるならば、やはり和歌子お嬢様だろう。
お姉さんの心配など、何一つ気に留めることをせずに、お茶を入れて来るように、川中さんに伝えると、話は終わりとでもいうように、また変わることもない優雅さだけ際立つ様な静かな雰囲気では、和歌子お嬢様に何を問うたら、答えたらいいのかすらわからずに、お茶を入れに、台所へと向かう川中さん然り、はぁーと深いため息で、何かを納得させた緑川さん然りだ。
「所長、お嬢様によくわからないのは、貴女も一緒ですと言わないんですか」
静かな雰囲気に、ロボ和歌子初号機の声がしたが、それもまた何処かへと消えていった。




