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探偵と暴力

 人間とは考える葦のようなものだという言葉が名言として残されるように、考える事は人間にとって大きな武器である。

 しかし、大きな武器であるにも関わらず、人間はそれを放棄することがある。

 何しろこの武器は、装備したところで攻撃力があがるわけでもなく、防御力があがるわけでもない。

 結局のところわかりづらいものよりも、単純明快な力が求められる。


 無理を通せば道理が引っ込む様に、力は問題を解決する原始的にして、単純な解決方法である。


 あのギリシャの神話の英雄ヘラクレスの活躍を支えたのも力であるし、神話の時代から脈々と受け継がれているこの力による解決方法は、探偵としてはどうなのだろうか。


 犯人を追い詰める探偵の拳。

 謎には見向きもせず、感じるままに、殴っていく探偵。


 事件解決以前の問題として、ただの無法者であることだろうし、殴り殴って解決する、拳で語り合うどころか拳で解決する事件など、実際のところは、そうそうないだろう。


 無論、この広い世界には拳で解決するひと昔の青春のような事件に遭遇する可能性もあるが、その際には探偵ではなく、力自慢の格闘家や軍事さんにでも、頼んで頂きたいと思うし、お嬢様の依頼してきた事件が、もし力を使って解決するのであれば、今からでも遅くないので、僕なんかよりも、緑川さんの方が、余程向いているといったら、緑川さんに失礼ではあるが、それ程までに僕には自信がない。


 まぁお嬢様が力自慢の名探偵を求めるのであれば、僕ではなくそれ相応の人物を求めるであろう。


 そう考えるとお嬢様から依頼された事件は、力という解決方法が使えないという事でもあるのかもしれない。

 いや、もとよりお嬢様がその解決方法を望んでいないと言う事だろう。



 探偵に自分の殺人事件を解決してほしい。


 力ではなく、考える事、すなわち推理での解決方法を望むという依頼人からのルール決めといえば、いいのだろうか。


 まぁ確かに、お殿様が屏風絵から夜な夜な出て暴れる虎を退治しろと言う無理難題を一休さんが、とんちではなく、例えば屏風絵毎もやすという力技にでたり、ヘラクレスのように虎を絞め殺すほどの腕力で解決して見せますよと言ってしまえば、とんちを期待していたのに、そんな力技で来られても、殿様としては興ざめもいい所であろう。


 いやはやなんというか期待に応えて、無理難題にもこたえる一休さんは、ある意味でも凄い偉人である。


 僕なんか、お嬢様の無理難題を解決してほしいと言われても出る言葉は、無理としか言いようがなく、かと言ってこのにっちもさっちもいかない様な、無理難題に対して、壊せるような力もない。


 むしろこの無理難題を解決できる力と言うのは、ヘラクレスでさえ無理だと個人的には、思ってしまうのだ。


 力で解決できない以上、考える事でしか対処出来ないという事になる。

 つまり、人間としてもっとも大きな武器を使うしかないが、考えれば考えるほどに、進みようもなく、そして、今となっては戻りようもない。


 何せお嬢様が探偵である僕がこの事件を解けると道理のような無理をいい、僕は無理だと思いながらも、その道理をゆくには、探偵として考えていくしかない。


 この夜もいく度目かわからない結論じみた考えを僕自身に言い聞かせながら眠ろうとすると、部屋を数度ノックする音が聞こえた後、メイドの川中さんが、返事もまたず入ってきた。


「お嬢様からの伝言です」

「部屋へいった方がいいですか」

「何を堂々と寝ぼけているんですか」

「寝ぼけてはいないんですが」

「寝ぼけていないのなら、夜中にお嬢様の部屋へ行って、襲う気ですか、セクハラですよ」

「そんなつもりもないんですが」


 何かついぞ嬉しい事でもあったのか、いつもより、ご機嫌にたしなめてくる川中さん。


「お嬢様の姉の鞠様が貴方を査定に数日中には来るとの事です、相応しいか見定めるとの事です」


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