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探偵と動物

 嗅ぎまわる事犬の如し。

 チョロチョロと動き回ること鼠の如し。

 好奇心で首を突っ込むこと猫の如し。

 厄介きわまりない性質なれど、唯一つ褒めるところあれば、夜の闇をものともせず、飛びたてる梟であることだ。

 その職業は探偵なり。


 僕が読んだことのある探偵もの、マイナー過ぎて、作品名や作者も覚えておらず、ついでに言えば、犯人が誰かさえも覚えてはいない作品の一文だ。


 探偵を小馬鹿にしているとも思える文ではあるが、つまりは探偵とは人ではないと、名も忘れてしまった作者は言いたいのかもしれないし、そこまでは言っていないのかもしれない。


 この一文だけでもこれだけの動物のイメージがつく職業というのは、探偵ぐらいなものではないだろうか。


 この一文に照らし合わせても、なお探偵らしさに紐づかない僕自身は、探偵らしさというものから外れているという事実だろう。


 いやはや、そう考えるとお嬢様と言うイメージを体現している僕の雇い主である折神和歌子お嬢様の素晴らしさやたるや、言わずとも察することができるというものだ。


 街中でも、埋もれることがなく場違いにも思えるほどに、初対面でもあぁこの人は、お嬢様であると確定してしまうほどに、世間一般のイメージ通りの美しいお嬢様とほとんど相違というものがなく、まさにお嬢様として生まれてきたようなものだ。


 しかし、ほとんど相違ないと言っても、やはり現実とは違うのだと気付いたのは、お金持ちのお嬢様であるが故に殺されるというような発言と、僕を探偵として雇うような経緯だけど、それすらもお金持ちは変わっているという、貧乏人がひがんだかのような、とってつけたイメージからだからそう考えると、お金持ちのお嬢様としてのイメージと言うのは崩れてはいないのかもしれない。


 迂闊に歩き回れないと精神に訴えるほどに広い屋敷に、そして数多くの高級な家具に囲まれた部屋、美術作品が並んでいるという状況の何処にお嬢様ではない要素を見出したら良いのだろうかという謎の敗北感さえもわきあがってきそうだ。


 だけど、これだけ広い屋敷に犬や猫といったペットの代表的なものはおろか、オウムや熱帯魚や鯉のような中堅どころも、大蛇に鷹、虎とかみたいな、一般からかけ離れたような動物をこの屋敷で見たことが無い。


 勿論剥製や絨毯になっているのは、確認ずみではあるけども、お金持ちの和歌子お嬢様が、そういったペットを飼っていないのが、意外のように思えた。


「私がペットを飼っていない理由ですか」

「まぁこれだけ広い屋敷にいないというのも不自然といえば不自然のように思えたので」


 日曜日の昼下がりに、お茶にしましょうとお嬢様から誘われて、していない仕事を理由に断ることも出来ず、こんな時に限って、ロボ和歌子初号機はメンテナンスのためにいないし、緑川さんは私用でおらず、川中さんは洗い物や、夕飯の支度のためにいない。

 二人きりの不安感というか、へんな緊張感が僕を離さない。


 最もお茶ぐらいで狼狽えるなと思うのだが、ティーカップに注がれた紅茶に薄っすらと浮かぶ、ボサボサの髪をしたうだつの上がりようにない僕自身の姿とその対極にいるお嬢様と考えるとため息も出ようと言うものだ。


 そのため息が捜査の進捗状況が思わしくないので、出たのではないのかと心配そうに尋ねてきたので、話を変えるためにペットを飼っていない理由を尋ねた。


「小さい頃ペットは不良の子が飼っているイメージですから、私自身ペットを飼う事を思いもしませんでしたから、それでですね」


 いやまぁ、確かにそういう不良っぽい子が、孤独とか誤解を誤魔化すために、飼っていそうではあるし、雨の日に拾ってきてしまった子猫をベットで抱きしめていそうなイメージがあるし、僕もお嬢様に言われてすぐに緑川さんが子猫を幸せそうに抱きしめていたり、お前もひとりかいとか言っている想像が容易に思い浮かんだ。

 凶暴な緑川さんが、可愛いい。


 いやまぁ、それでもお嬢様が、ペットを飼わない理由としては、思っていたよりは普通のようだ。


「そういう理由だったんですか」

「まぁ、その理由は半分ですけど、しかし立川さんはますます探偵らしいですね」


 それはお嬢様の勘違いというものだと思ったが、結局それはお嬢様の探偵のイメージなのだろうし、お嬢様が僕を探偵でなく、ただの駄目な人間ということに気付いてほしい。


「そうですか?」

「えぇ、被害者の事を知ろうと努力していますし、その調子だときっと私を殺した犯人を見つけてくれます」


 あの昔読んだ本になぞらえるならば、もしその時がきても僕は梟のように首を傾げるだけで、いっこうに飛びたてやしないだろう。



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