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探偵と嗜好品

 探偵のイメージとして最もポピュラーなものはタバコだろうか、考えごとをしながらお気に入りの銘柄での一服というのは、傍目ながらも格好良いものに映るし、さらに拘りの酒を飲むなら、その格好良さはさらに跳ね上がり、探偵という異質な格好良さをさらに高めるだろう。


 そんなタバコや酒も情報収集の場面など多く登場しているが、これが漫画やライトノベルと段々と探偵が高校生などの未成年へと移り変わるにつれて、その描写は見なくなるだろう。

 その代わりに、ネット依存やジャンクフード、マイナーなゆるキャラなどをこよなく愛したりしている。


 探偵たちは、いやこだわりの嗜好品というものをもつ、もちろん探偵たちだって、人間である以上それは普通でもある。

 誰にでも、そういったもののひとつや二つあるのだが、探偵たちはそれに輪をかけて、フィルターをかけられて、言うなれば偏見や奇異の目で見られる。


 もっとも探偵たちは、そういった目で見られることに慣れていることだろう、拘りをもつという事は、理解されないという事を少なからず含まれているのにもかかわらず、いやそれだけじゃないするどい棘が何時でも突き刺さる痛みがあるはずなのに、それでもなお進み続けるということだからだ。


 痛みに耐えて進み続けることに意味があるのだろうか。


 いや探偵たちは、答をだしているのだろう。

 こだわりという道を通るのも、探偵としての道を通るのも似たようなものなのかもしれない。


 どちらも異質というものには変わらないだろうから。


 それにしたって、こだわりというものがあるのは羨ましいと思う。

 それは自分というものを紛れもなくもっているのだから。


 もっとも羨ましいというのは、自分勝手な言葉である。

 こだわると言うことをうらやんでいたのに、それすらも放りだしたい気分になるのだ。



「酒もタバコもやらないとは、何が楽しくて生きているのですかとよく言われませんか?」


 なにやら居酒屋にいそうなおじさんの言葉を、まさか人生とは程遠く、酒もタバコもやらないであろうロボ和歌子初号機に投げられた。


 せめて格好だけでも探偵に近付けようという、提案ではあるのだろうが酒もタバコもやらない。

 いや、酒だけはたまに買うことはあるが、好んでかうというほどでもない、そもそも人付き合いがほとんど無い僕には、無縁ということだ。


 しかし何が楽しいという問にたいして、酒が楽しいという人生もそれはそれでどうかと思ってしまうのは、少しばかりの負け惜しみかもしれないので何も言えず黙ってしまうことは、多分悪いことでは無いだろう。


「まぁお酒を飲めたなら探偵にお酒はつき物ですとか言われて、バーを用意しそうですね、あのお嬢様は」

「まさか」


 まさかの三文字で済ましたいところではあるが、その可能性も出てきそうなので、迂闊にもそのような話題をお嬢様の前ですることは控えたいものである。


「じゃあ残りは女ですね、人生の楽しみは」

「楽しみが世俗的すぎる」


 世俗的と言うよりは、安易すぎるというのだろうか、酒、タバコ、女性という少しばかり古いのか、それとも普遍的ともいえるのだろうか、これに博打が加われば完全に駄目な人間では無いだろうか。


「畳の下にエロ本隠したり、大量の書籍の中からそれっぽい本を忍ばせたりしたほうがいいんでしょうか、探偵の助手として」

「いや助手の仕事じゃない」

「むしろ、買ってきたほうがいいですか探偵の助手として」

「いや、だから助手の仕事でもない」


 探偵の助手がなぜ、エロ本を買ったり隠したりするのだろうか。


「隠された謎を解き明かしたいんじゃないんですか、袋とじとかにきづきたいとか」

「隠されたエロ本を見つけるのはお母さんの役割で探偵じゃないし、後半はただのワクワク感だと思う」


 わざわざエロ本を買ってきて、どこに隠されたのか探すような真似をするという、どうにも理解できない性癖でも持っているとでも考えたのだろうか。


「そうですか、じゃあ無駄になりますねえ折角隠したのですがエロ本」


 ロボ和歌子お嬢様がとんでもない発言を、いつもどおりしてくれた。


「なんでそんなことしたの」

「スイマセン、所長の拘りというものがわからないので、適当にスク水とかのコスプレものからアイドルっぽいものまで数冊持ってきたんですが」

「いや、そんな拘りないから」

「何でもいけるということですか、それはそれでどうなんでしょうかね」


 そういう意味でいったのではないのだが、いまはそんな言葉を訂正するほどに余裕がなかった。

 早く見つけて、処分しなければならない。


「どこに隠したの」

「そんなに興奮しないで下さいよ」

「するよ、もし誰かに見られたらどうするの」


 メイドの川中さんに見つかろうものなら、考えるだけでも罵詈雑言、肉体的苦痛をともなう説教というものが待っているだろう。

 そして、その見つかる可能性が高いということを僕は理解していた。


 畳をひっくり返したり、本棚を目を皿のようにしながら確認してみるが、エロ本らしきものは見つからない。


「何をしているんですか」

「所長とエロ本を探していました」

「あんなもの捨てましたよ」


 部屋の室温をさげるためなのか、それとも僕自身を震わせるためなのか、厳しい声色ではき捨てるように言われた。

 悪いところはないはずだが、やましいところもないはずだが、それはそれで震えてしまうのが、どうにもかなしい。


「まぁ貴方も男性ですし、むしろあぁいった物で懸想するしかない最底辺よりの男性と言うことを理解しています、理解した上でドン引きというものをしているのです、貴方がどんなこだわりを持って、あのエロ本を集めているのかは知りませんし、知りたくもありませんが、今度やったら包丁で刺そうとか考えてしまうっていますので、気をつけてくださいね」


 包丁より先にみぞおちに刺さっている拳の威力に、コクコクと頷く首は大変に素直だと思う。



 タバコや酒にこだわりをもつ探偵たちや、ジャンクフードやゆるきゃらといった拘りをもつ探偵たちにくらべ、エロ本を集めることに拘りをもつ探偵とならぬよう、いやそもそもそんなこだわりを持ってなどいない


「エロ本集めている名探偵というのは、さすがにどうなんだろう、いやでもそれで推理がさえるなら大量に購入するつもりですが、なにか拘りはあるのですか」


 後日お嬢様にそういわれて、魂がぬけそうな声で


「拘りなどありません」


 それをお嬢様がどううけとったのかは、知りたくない。

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