いなくなってくれと願われたので
「お前の代わりなどいくらでもいる」
粗相をすれば、いつもそう言われた。
学んだこともない宮廷儀礼を完璧にこなせと、無理難題を突きつけられ続けた。血縁上の父という男は、一度も私と目を合わせてくれなかった。
「この程度の成績でいい気分になるなんて、本当に呆れたわ。あなたがしっかりしてくれないと、前妻の子が調子に乗るわ」
何年も帰ってこなかった母を名乗る女は、いきなり現れては住み慣れた我が家を『薄汚い』と吐き捨てて、馴染みのない屋敷へ無理やり連れて行かれた。
笑っていないと頬を叩かれてとても不愉快なので、ひとまず口の端を吊り上げると女は機嫌がよくなったのでそうすることにした。
「私はあなたを妹とは思いません。妾の子を屋敷に迎え入れるなんて、父上も何をお考えなのでしょう。……はあ。あなたなんて、いなくなればいいのに」
義理の姉だと名乗った娘は、私のことが嫌いらしい。なにをしても呆れた顔で嫌な言葉ばかり言う。
「お前のような庶民の血が流れる娘を婚約者にあてがわれるとは、父上は僕のことを見放したようだな」
婚約者だと紹介された青年、ルークは辛そうな顔をしていた。たくさんの兄弟はみなが才能に溢れていて、いつも比べられるらしい。彼は学園で、婚約者が私であることでクラスから孤立していた。
私は誰からも望まれていないので、お望み通りいなくなることにした。
学園の卒業パーティーに向かう馬車のなか。
一つ深呼吸をした私は、扉を開ける。
宵闇が迫る森が崖下に広がっていた。
私の人生に、私の意思が介入することはなかった。
なので、天命に委ねることにした。
「えいっ」
馬車から飛び出した私の体は、ふわりと宙に浮いたのちに地面へ吸い込まれる。
背後で風にあおられた扉がばたんと閉まった。




