9−4 テスト
「うええええん! あんなレベルで褒められたら、逆に恥ずかしいよおっ!」
「いい成績だったのならば、良かったじゃないか」
「良くない! しかも勘でやってるから、次のテストが同じレベルとは限らないじゃない。教科書読めないのは逆チートだよ!」
「何を言っているかわからんが、教科書が真っ白というのは問題だな」
「だよ。だよ。だよ!」
「わかったから、尻尾に顔をうずめるな!」
青藍の尻尾を抱きしめて顔をうずめていると、青藍が頭を押さえて離そうとする。
あまりに尻尾がぴこぴこ動いていて、我慢しきれずモフってしまった。このふわふわが動いているのがいけないのだ。誘惑に抗えず、花奏は尻尾を抱きしめたまま、青藍を見上げた。
「教科書真っ白問題、どうにかならないかなあ」
「どうしてそんな現象が起きるのか、わからんな。原因を調べるにしても、そんな魔法聞いたことがない」
「魔法なのかな? 嫌がらせの魔法?」
「どうかな。お前自体がどうも問題な気もするし」
それは同感だ。本来ここにいるべきではないと言われれば、大きく頷きたい。だったらここから早く出してほしい。夢なら覚めてほしい。
だが、何度ベッドで眠って起きても、この状況は変わらなかった。
目覚めるたび、少女趣味な部屋が目に入って、朝からがっかりする。
「ところで、テスト問題にモンスターが出てきたんだけれど、この世界ってモンスターがいる感じ?」
「いるに決まってるんだろう」
「決まってるの……」
「モンスターと戦う授業があるだろう。そのうち行うのではないか?」
「戦う!? まだ何も教えてもらってないのに? やっぱり、危険あるじゃん!」
誰だ、死ぬことはないとか言っていたのは。
主人公ポジションだと仮定して、強いモンスターは出てこないという解釈でいいだろうか。
いいや、乙女ゲー、危機に瀕して、攻略対象の助けを得るに千点!
「魔法を習ってからに決まっているだろう?」
「その授業がままならないのに! 化学式書く前に、指パッチンで炎出す方法教えて!」
「そんなにすぐにモンスターと戦うことはないと思うが」
青藍の言葉に、そうかなあ、と疑り深く返事をしながら、尻尾に顔を埋めて、再び青藍に怒られる。
「乙女ゲーで、しかも学園もので、モンスターと戦うって、魔法系の学園乙女ゲーだからあるあるなのかな」
「知らん」
青藍は冷たくあしらってくる。もふもふに巻かれて寝転がる花奏から、その尻尾を奪おうとする。奪わないでほしい。花奏はがっしり掴んで、離さない。
「乙女ゲーの1にもモンスターが出てきたのかなあ」
「その、1とか2とか、繋がりがあるのか?」
「どうだろう。1って古いんだよね。私が……」
「私が?」
「多分、十歳くらい? お母さんが好きだったっぽい」
「……よくわからないのだが、お母さんが好きとは?」
「そのままだよ。お母さんが好きで、ゲームしてたの。まるまるきゅんかっこいい! とか言ってたかは知らないけど」
青藍は、焦点が合わないほど混乱してくる。
「そんなところで、制服のまま寝転がるな」
反応できずに、青藍が話を変えた。
このまま眠って、朝になったら自分の家のベッドにいないだろうか。
そう思いながら、瞼を閉じる。
「すごく気持ちよくて」
青藍の声は心地がいい。聞き慣れた音楽のように内耳に届く。
邪魔そうに頭をなでられたが、それが安堵できて、居心地が良かった。
声を聞いているだけで、心が落ち着くのだ。
眠りそうな花奏の耳元で、ちりりと音が鳴った。チャームが擦れた音だ。
「青藍、なんでかけ着けたままなの?」
「モンスターが出たら、すぐに弓を引けるように」
「えっ、この神社に出るの!?」
「出ないが」
「なんだ」
ガバリと一度起き上がるが、再びごろりと尻尾を枕にして転がる。青藍は正座のまま、身動き一つしない。正座に慣れているのだろう。足が痺れたりしないのだ。
「神社にいる間くらい、かけはとっておけばいいのに。邪魔じゃない?」
キャラのビジュアルに文句を言うわけではないが、お茶を出してくれるのにかけを着けているのが気になって仕方がない。濡れたら困らないのだろうか。
「これは……」
「これは?」
「着けておいた方がいい気がするんだ」
そう言って、青藍は右手のかけをなでる。大切な思い出の品とか? かけとしてまともに使えるかどうかはわからないが、デザイン性のあるものだし、キャラのビジュアル的に必要かもしれないので、外すことができないのかもしれない。
「キャラ設定か」
そういえばと思い出したのは、ローザのチャームだ。やはり彼女はヒロインなのか、ハートのチャームを付けていた。他の人たちはみんな、得意なものや好きなものなのに。
「白は違うか。時計だもんね。じゃあ、いいのか」
もう一つ、気になったのはローザの態度だ。攻略対象と話していて、花奏を笑う必要とは?
やはりあれは、注目されるのは私なのよ? 的なやつだったのだろうか。
別に構わないのだが、ローザの立ち位置が気になる。
「なんだ?」
「んーん。このチャーム、みんなしてるなあって思って。青藍は弓矢だもんね」
青藍が微妙な顔をする。キャラ設定に突っ込みはまずかっただろうか。
袴の帯についているチャーム。弓矢と的がセットで、神社のお守りとして売っていそうだ。矢は魔を払う。あの神社の売店は閉まっていたが、お正月にならば破魔矢なども売っているかもしれない。
青藍がチャームを手にして、じっと見ている。汚れているのだろうか。
「青藍、どうかした?」
「え、いや。なんでもない。ほら、そろそろ帰れ。日が暮れる」
「はあい」
空はまだ明るく、日が暮れるという時間ではなさそうだが、追い出されたので仕方なく寮に戻ることにした。
青藍は本殿から、花奏が見えなくなるまでそこに立っている。森に入る前に花奏がもう一度手を振ると、青藍もそれに返した。
「青藍、かわいいなあ」
守護神らしく花奏の相談に乗ってくれるが、あの耳と尻尾でもふもふである。癒しだ。
カバンについた、青藍のぱぺをなでて、つい微笑む。青藍がいてくれて良かった。そうでなければ、一人で不安に駆られていただろう。相談できる人がいることほど、心強いものはない。
ぱぺを持っていると、青藍が守ってくれるような気さえしてくる。
帰りたくないが、ぱぺで今日は諦めることにした。まるで刷り込みみたいだ。会えないと急激に寂しくなる。ただ、この気持ちがなんなのか、深く考えないようにした。
「勉強どうしようかな」
今度また図書室に行って、文字が書いてある本でも探そうか。
授業があっても一限だけ。テストやイベントなどがあればそれで終わり。そんな時間を使っていないような気がするのに、一日が過ぎるのが早い。
乙女ゲーらしく、時間の進みがイベントごとで、次の日に変わってしまうのだろうか。
そんな気がして、ブルリと震えた。




