9−2 テスト
間が開くと、グルナディーヌが出てきた。
「二人とも、早かったですわね。特に、あなた」
「えーと、ヤマが当たった感じ?」
「それなら良かったですわ。勉強会をした甲斐がありましたわね」
「グルナちゃんのおかげだよ!」
「よく言いますわ」
先に出てきたせいでか、グルナディーヌはおかんむりだ。テスト問題が花奏向きだったのが悪いのだから、機嫌を直してほしい。
そしてその後、ノワールが出てきた。ノワールもまた、花奏が早く出てきたことを言ってくる。
「ヤマが当たったそうですわ」
「へー、俺もそのヤマ教えてほしかったな」
「偶然。偶然なのですよ!」
「偶然でもすごいんじゃない? あんたに教えてもらえば良かった」
笑っている割にノワールがギラリと目を光らせる。冷や汗をかきそうになると、扉が開けられた。
「静かになさい! まだテストを受けている生徒がいるのですよ!」
「申し訳ありません! すぐ失礼します。皆さん、行きましょう!」
ローザが出てくるかと思ったが、先生が鬼の形相で出てきた。グルナディーヌの声で、その場からみんなで逃げ出した。
「先生に怒られるなんて、前代未聞ですわ」
「大きな声でしゃべりすぎちゃったね」
「あんなところで溜まってるから悪いんだろう」
「溜まってたの、あんたらじゃないの?」
ノワールがヴェールに突っ込んで、ヴェールはメガネを上げてごまかした。
なんだか妙な四人組になってしまったが、四人で同じ方向に逃げて、庭園までやってくる。ノワールがベンチに座ろうと言うので、その四人で庭園のベンチに座ることになってしまった。
円卓に向かい合うように座ったが、四人は無言になる。
その間が長い。黙っていられなくなるのは花奏だけだろうか。
「この後って、どうするの?」
「赤点を取った者は補習で、それ以外の者は自習でしてよ」
それではほとんど授業がないではないか。そういうシステムなのか、乙女ゲーの欠陥なのか、後者だろうか。開発者に文句を言いたくなる。
「そういえば、先生が役目どうこう言ってたけど、みんなは何を目標にしてるの?」
テストが始まる前に、そんなことを言っていた。テストに集中しようとして右から左へ聞いていたが、またも役目という話が出てきて気になったのだ。
青藍は、花奏は聖女という役目を得るために学園に通うと言っていたが、前にブランドロワは、花奏に役目が与えられていない、と語ったのだ。それを思い出した。
そんな花奏にグルナディーヌは首を傾げて、ヴェールは半目を見せてきた。その顔は完全に呆れているやつだ。
「ブランドロワ殿下がなぜそのようなことをおっしゃったのかわかりませんけれど、役目を持たぬ者など、この学園には入れませんわ」
「役目を持って学園に通っているんだ。役目が与えられていないのならば、何もない人間になってしまう」
ヴェールは半ば怒るように言ってくる。
「何もない人間……」
役目とは、目的なのだろうが、目的を持っていなければ何もない人間になってしまう。この世界で、なんの目的も持たないのならば、何にもならないという意味なのだろうか。
花奏には、聖女になるという目的はあるのに、ブランドロワは何を見て花奏にそんなことを言ったのだろう。
そんなにやる気が無さそうに見えただろうか。それは一理あるので、反論できない。
それとも、花奏が異物だと感じた?
青藍のように、異物だと認識することが、攻略対象にも起こるのだろうか。
今度はノワールが頬杖を突いたまま、ヴェールに、「じゃあ、あんたの役目は?」と問うた。
「俺は、……治療士だ」
「まあ、素敵なお役目ですわね」
グルナディーヌは褒めるが、ヴェールは不機嫌に言い放つ。治療士って、なんだろうか。医者とか、そういったカテゴリーだろうか。魔法で治療ができるならば、そんな役職があるかもしれない。
ノワールは王子なので、役目はそのままだろうか。聞いた本人なのに、興味なさそうに、よそを見ている。
「グルナちゃんは?」
「わたくしは……、殿下の婚約者候補として恥じぬよう、首席で卒業し、完璧な淑女となるのですわ」
それは、目標で、目的ではないと思うのだが。いや、ブランドロワと結婚予定というなら、それでいいのか。未来の王様のお妃様となれば、規模が違う。首席でなければ、ブランドロワと結婚できないのかもしれない。
けれどグルナディーヌは、やけに暗い顔をした。ブランドロワが好きで婚約者候補でも、まだ候補だからか、わだかまりがあるような顔をする。
「グルナちゃんは、好きなことあるの?」
「好きなこと、ですの?」
「そう。勉強以外で。勉強に打ち込むのもいいけど、ちょっと好きなことやって気持ち切り替えると、気分変わるんでしょ?」
「なんで人から聞いたみたいな言い方するの?」
ノワールに突っ込まれるが、グルナディーヌが目を泳がせてから、ほんのり頬を赤くしてつぶやいた。
「わたくしは、剣が好きですわ。その、もちろん、結果を出さなければならないというのはわかっておりますけれども」
「剣の結果? すっごい達人になったりすること?」
「ええ、まあ」
「そういうの目指すのもいいけど、ただ単純に、楽しー、ってやつ。ときどきその楽しーで、気分変えればいいんじゃない?」
グルナディーヌの表情を見ていると、完璧を求めすぎているような、自らを律しすぎて無理しているように見えるのだ。
それが気のせいではないように、グルナディーヌは、「結果を出さなければいけないから」と囁くように言う。
グルナディーヌは責任感が強いのだろう。そこまで無理しないでいいのに。そう思うけれども、グルナディーヌには事情があり、思うこともあるのだろう。
「たまには息抜きするのもいいと思うよ。結果とか考えないでね。でもわかる、結果出なかったらどうしようって。眠れないくらい、もう失敗できないーってなるの。困るよね」
花奏にとっての高校受験がそうだった。苦しんで、苦しんで、合格できた時は、ああ、とりあえずなんとかなった。と気が楽になったものだ。あれで結果が出ていなかったら、立ち直れなかっただろう。
「そう、そうね。少しは、気を楽に」
そうつぶやいた時、グルナディーヌが急に立ち上がった。視線の先から歩いてくるのは、そのブランドロワだ。雨の日の授業以来である。
相変わらずにこやかに微笑んで、こちらに近付いてきた。
「もうテストは終わったのかい?」
「先ほど終わったところです。ブランドロワ殿下も早めに終えられたのですか?」
「今回はさほど難しくなかったんだよ。それにしても、珍しい集まりだね」
ブランドロワはぐるりと座っている面々を確認して、ノワールを見てから、花奏に視線を止めた。
「久し振りだね。学園には慣れたかい?」
「はい、まあ、そこそこ」
「そこそこ?」
「いきなりテストがあって面食らったところです」
「そう? ……グルナディーヌ嬢、ここは学園だ。立つ必要はないよ。座るといい。僕も座っていいかな?」
「どうぞ、こちらへ!」
ブランドロワがやってきてずっと立っていたグルナディーヌが、ブランドロワを促し、彼が座ってから着席した。この辺りが頑張りすぎている証拠だろう。ブランドロワに会えてうれしそうなので、口にはしないが。
花奏も王子の前なのだから立った方が良かったのか、座ったままでいた。目の前にノワールもいるので、王子への接し方が良くわからない。こういったことも青藍に聞いておいた方が良さそうだ。
またも青藍の顔が浮かんでしまう。ヘルプ役。もう完全に依存している。




