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ローゼンクランツ王国再興記 〜前王朝の最高傑作が僕の内に宿る事を知る者は誰もいない〜  作者: 神崎水花
2章、聖なる花冠(ローゼンクランツ)へ向けて

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46話、我が旗に集いし者

「シュターフェン殿を連れて来てくれ」

 ワンベルク伯爵との戦後交渉を終えた私は、近くにいた兵士を呼びつけ、捕えた彼を連れてくるよう申し付ける。


 次々と討たれていく味方の兵を守るため、果敢にヴァイスへ一騎打ちを挑んだ男。その戦いっぷりもそうだが、挑む理由も、負けたあとの態度も共に気持ちの良い男であった。

 そうだ、いっそヴァイスの右腕として第一騎兵隊に編入するのはどうだ? さすがに勇み足が過ぎるか、まだ我が軍へ来ると決まった訳でもないのに。


 此度の勝利で、ワンズール砦の周辺とそこへ至るまでの道のりが、新たに我がローゼリアへ組み込まれる事に決まった。先の戦いで得たレーヴァンツェーン領もそうだ、我々は決して領土欲のために戦っている訳ではないが、現実として我が領土は拡大の一途を辿っている。優秀な人材はいくらいても足りない。


 我がローゼリアが他領と比べて勝っている点など、常備兵と人材面くらいなものだろう。父上があの世へと旅立たれた際に、多くの古くからの側近達も連れて行ってしまわれた。家を継いだ当初は苦労したものだが、気が付けば私の周りには若くて優秀な者が多く集っていた。

 我が領は、血筋や身分など関係なく、実力さえあれば自由に仕事が出来る理想的な環境になりつつある。シュターフェンのように元敵であっても何ら問題はない。


 ローゼリアやローゼンヌには、旧ローゼンクランツ王家の血が脈々と受け継がれている事はわかっているさ。だから私は血筋を否定はせん。否定はせぬが、何よりも尊ばれるべきは才能と努力であるべきだ。先祖の偉業にあぐらをかいて何ら努力もしない、害悪でしかない貴族やそれに近しい者が多すぎる。

 

 私が少しばかり皆へ思いを馳せている間に、シュターフェンが兵士に連れられて大天幕へとやってきた。その表情や振舞に敗者としての悲壮感や絶望感は一切なく、逆に堂々としたものであった。

「シュターフェン殿、急にすまないな」

 私はシュターフェンにそう告げると、彼を椅子へと促す。すると彼は、礼儀正しく頭を下げ勧められた椅子にゆっくりと腰を下ろした。


 戦場で剛毅に槍を振るう、彼の逞しい両腕には手枷が嵌められていた。

 視線を彼の手元から、その頼もしき両の眼へと移して私は問う。

「率直に言おう、シュターフェン殿。我がローゼリアに来ぬか?」

 私の口から出た言葉は、何の飾り気もない実に率直な申し出だった。彼の様な男には、回りくどい言葉は不要だと判断したためだ。


 2人の間にしばしの長考と、沈黙の時が流れる。


「私のような者にそのような仰り様、ローゼリア伯爵閣下の器の大きさが知れるようで大変嬉しく思います」

 シュターフェンの言葉には、偽りのない感謝が込められていたように思う。だが、あとに続く言葉は、私の予想を覆すものだった。

「ですが、私は閣下の敵として戦った男です。戦いでは多くの兵士たちが命を失ったでしょう。私だけがのうのうと閣下のお世話になる訳には参りません。どうかこのままお切りください」


 私は、彼の言葉に驚きを隠せない。

 こんなに早く、そしてきっぱりと断られるとは思っていなかったのだ。そして改めて思う。彼の誠実さと下の者へ見せる配慮は、私がローゼリアに迎えたいと願った資質そのものではないか。私は、もう諦めるつもりはない。


「貴殿の言葉は受け止めよう。だが、戦とはそういうものだ。多くの兵士が命を落とすのは、敵も味方も同じこと。貴殿だけが責めを負う必要はない」

私は諭すように言葉を続けていく。

「シュターフェン殿、知っているかな? 実は、ワンベルク伯爵も我が陣内に捕らえられておることを」

 これを聞いた彼の表情は、一瞬にして驚愕と困惑に染まる。瞳は大きく見開き、口元はわずかに開いたまま、言葉が出てこない様子に見える。


「ワンベルク伯爵が、捕虜に……?」

 彼は、信じられないといった様子で、絞り出すように呟いた。

「そうだ。貴殿と同じく、捕虜として丁重に扱っている。問題はそこではない、近く彼の釈放が決まった事だ。ワンズール砦とそこへ至るまでの領地の割譲、そして令嬢を人質として差し出すことでな」

「……」

「私の代わりに兵を助けてやってくれ。などとは一言も言われ無かったぞ?」

 これにはシュターフェンも絶句する。

「伯爵は自らの保身のために、命を賭けて戦った兵を顧みる事無く、愛娘を差し出してまで命乞いをしたと?」

 彼は虚ろな瞳で呟く。

 その言葉には、変らぬワンベルク伯爵への()()が滲んでいた。


「残念だがそれが事実だな。そして申し訳ないが、我がローゼリアは人質を受け入れるつもりでいる。何の保証も無く彼を信ずる事は出来んよ。またいつ攻められるかわかったものではない」

 私はシュターフェンの心情を察しながらも、冷静に事実を告げた。


「閣下のお立場なら……そう、なさるべきでしょう」

「シュターフェン、其の方は何のために戦う? 伯爵のためか? それとも家族のためか、或いは民のためか? 私は誓ったぞ? 我が軍を決して欲の為には使わんとな。その力をもっと良き事の為に使え、悲しむ民の為に使え」


「──もし本当に閣下が私を必要としてくださるのなら、改めてお願いしたい事がございます」

「なんだ? 何でも言ってくれ」

「今すぐ私の拘束を解き、釈放してくださいませんか?  伯爵が捉えられたのが事実なら領都はいま混乱している事でしょう、妻を連れ、脱出するには良き頃合いかと……」

 

 私は問うように、シュターフェンの瞳を見つめてみるが、彼は視線を逸らすこと無く、堂々と見つめ返して来るではないか。彼の家族を想う熱い瞳に、私の腹は決まった。

「わかった。そこの君、彼の拘束を解いてやってくれ」

「宜しいのですか?」

 釈放を命ずる私の言葉に、兵士は驚きを隠せない様子を見せる。

「あぁ、構わない。そうだ彼の馬と食料に、少々の金貨も用意してやってくれ。無理を通すとなれば必要かもしれん」

 私はシュターフェンと奥方の旅路の安全を願い、さらに追加で指示を出す。

「では、それは私がご用意してきましょう」

 シュターフェンとの話中、邪魔はすまいと無言に徹していたユリシスが、『主様、貴方はそういう人ですね。知っています』とでも言いたげに、上機嫌な様子で足取り軽く天幕を出て行った。


 ◆◆


「いやあああああ」

 真夜中の静寂を破るように、静かな砦内へと響き渡る女性の悲鳴。

 それは、あの激戦の後から眠り続けているツェツィーリアが目覚めたことを告げるものだった。一体何が、穏やかな彼女をこんなにも取り乱させているのだろうか?


「ここは、どこ……?」

 夜中に目を覚ましたツェツィーリアは、見慣れない天井を見つめ、困惑の表情を浮かべていた。知らない部屋に知らないベッド。混乱する彼女の心に、不安がじわりと広がっていく。


 副官のラウラは、そんなツェツィーリアの様子に目を覚まし、そっと寄り添う。

「お目覚めになられたのですね! ここはワンズール砦というそうです」

「ラウラ? ワンズール砦……?」

 聞き覚えのない名前に、ツェツィーリアの美しい眉元にうっすらと皺が寄る。

「姫様が捕らえられた、敵伯爵のことをお覚えですか?」

 ラウラの言葉に、ツェツィーリアはゆっくりと頷いた。

「ええ、覚えています」

「伯爵の解放条件として、閣下がいくつか条件をご提示されたのですが、そのうちの一つがこの砦の譲渡だったのです。今日、敵から接収したばかりの砦ですよ」


 ラウラは、まだ状況を把握しきれていないツェツィーリアに、優しく丁寧に説明していく。しかし、ツェツィーリアの心は、まだどこか落ち着かないままだった。


「ラウラ、貴方がここへ運んでくれたの?」 

「いえ、姫様をここまで運んでくださったのは、閣下です」

 その言葉を聞いた瞬間、ツェツィーリアの顔が青ざめる。

 そして冒頭の、()()叫び声へと至るのである。


 突然に響き渡る悲鳴に、ラウラは驚きを隠せない。

 ツェツィーリアに長く仕えているラウラをして、初めての事であった。

「姫様、どうされましたか? どこかお具合でも?」

 ツェツィーリアは、心配するラウラの問いかけに答えず、ただ顔を両手で覆いながら、震える声で呟いた。

「私たちは必死に山を超えて、森を抜けたのよ?」

「は、はぁ」

 いつも明瞭なツェツィーリアの言葉が、今ひとつ要領を得ない。

 ラウラは、彼女の真意を掴めずに戸惑ってしまう。

「二人とも沢山汗をかいたでしょう……」

 敬愛する主人の、普段は凛々しい彼女のおかしな主張に、ラウラは思わず言葉に詰まってしまう。戦場では簡単に汗を落とすことなどできない。そんな当たり前のことをなぜ今更?


「そ、それに鎧を付けたままなんて、重いに決まっています」

 ラウラは、ツェツィーリアが重ねる言葉にハッとする。

 姫様が匂いや、重さを気にされている?

 月明かりと、仄かに灯る灯具だけが照らす中、ツェツィーリアが顔を赤く染めながら悔やむ表情を見て、ラウラはようやく理解した。


「姫様……、もしかして」


 コンコン

 ラウラの言葉を遮るように、突如扉が叩かれる。

「どちら様ですか?」

 ラウラは、ツェツィーリアをちらりと見てから、用心のため扉越しにノックの主へと問いかけた。こんな夜更けに、一体誰が訪ねてきたのだろうか。


「こんな夜中にすまないな。その、大きな声が聞こえたものだから……」

 聞き覚えのある声に、ラウラは目を見開いた。

「アレクシス様!?」

 扉を叩いた主は、なんとアレクシスだったのだ。

神崎水花です。

作品を読んでくださった皆様ありがとうございました。

少しでも面白い、頑張ってるなと感じていただけましたら、★やブックマークなど、足跡を残してくださると嬉しいです。私にとって、皆様が思うよりも大きな『励み』になっています。

どうか応援よろしくお願いいたします。

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