01-12.元連隊長、状況を見守る
「貴様の狙いは何だ? 刈谷元自衛官」
「その呼び方はやめていただけるとありがたいですね、戸田元教官」
「あえて嫌がらせで言っているのだ。貴様が自衛隊を嫌っていたのは覚えている」
「入隊時の面接で、ぼくは余計なことを言ってしまったようですね」
「なんの理由があって自衛隊に対するテロをもくろむ? 私怨か?」
「ハハッ! まあ、それも一部にはあります。それはちょっとだけ認めてもいいかな」
「口を割るつもりはないかもしれんが、あえて聞こうか。貴様のバックはどの勢力だ?」
戸田冴子は正確に眉間をポイントしたまま、静かに尋ねた。
「東方通商連合か? あるいはカディール、イサ、バルゴサ」
「それはご想像にお任せしましょうか。案外、北の最果てのライフェルかもしれない」
「魔法の技術をどこで身に着けた? よもや、独学というわけでもないだろう」
「スマホで検索したら、すぐに解説ブログが見つかりましたよ」
「笑えない冗談だ」
と、戸田冴子は憮然として言った。
「それにしても刈谷元自衛官は、この世界の言語に詳しくなったようだな」
「かつての教え子の成長を喜んでいただけるなら光栄ですが、実際のところはまだまだです。せいぜいWEBページの機械翻訳程度の精度でしょう」
刈谷は自嘲気味に笑ってみせた。
「しかしまあ、それでも十分です。あなたの命を奪うくらいのことは、今の僕にはできる。
もうこの遊びも飽きてしまいましてね。なにしろこの駐屯地に自衛官は千人もいるんだから。
一日一膳平らげて三年、一日三食食べても食らいつくすまでに一年もかかってしまう。
到底、付き合ってはいられないですね」
「刈谷君、もう終わりにしよう。こんなことは」
「そうですね……。明日からは違う遊びをすることにするとして、だ」
焦点の定まらない目をして、刈谷は静かに続けた。
「せっかくだから、引退記念は美少女の死で締めくくってみることにしますよ」
「怪しげな魔法を使うというつもりなら、私は君に銃剣を突き立てる!」
「ハハッ! 僕の隙を伺うために二人で色々と話を長引かせていたのは分かっています」
刈谷は少しトーンを変えて、強い口調で嘲った。
「でも残念ですね。時間を稼いでいたのは、実は僕の方なんですよ。ほら!」
刈谷は嬉しそうに連隊長のほうを見た。
「呪毒を込めた短刀は、先ほど左の肩口をわずかに掠めました」
タモツは戸田2佐を見た。
今にも倒れそうに顔面を蒼白にして、戸田冴子は逆手に拳銃を持ち替えていた。
愛らしい唇が上下に開き、真珠のように粒ぞろいの歯がちらりと見えた。
そしてゆっくりと、彼女は愛銃の銃口をその口の中に飲み込んだ。




