幸せな夜
舞っていた雪が地面を隠し始めた。
お店を閉めて、外に出る。
いつもは、お店の2階で生活してるけど、クリスマス、大晦日から元旦、お盆は、実家に一泊して、家族と食事をする。
実家には、両親と弟夫婦。
子供はまだいない。
スーパーに寄って、ビールを一箱買う。
『ただいま~』
玄関のドアを開けると、母が出てきた。
『おかえり』そう言ってから、キッチンにいるらしい義妹に声をかけた。
『ミサコちゃん、モトコが来たわよ』
義妹がキッチンから顔を出した。
『おかえりなさい。お姉さん』
母とリビングに行くと、父と弟は既に呑んでいた。
『やっちゃってるね~。じゃあ、これ、要らないか』
と、ビールを見せると、母が
『何も買ってこなくてよかったのに。ねえ、ミサコちゃん』
『そうですよ~。敦さん(弟の名前)たら、昼から義父さんにお酒をすすめるんですよ。お姉さんからも何とか言って下さい』
いや…お酒をすすめたのは父だ。
そうして、きっと昼から盛り上がっていたに違いない。
『じゃ、これは年越し用にしましょう』
母がビールをキッチン奥の納戸に入れた。
男2人は、何かブーイングしていたが、また呑み始めた。
『ミサコちゃん、何か手伝う?』
キッチンに入ると、もう食べるばかりになっている。
『もう出来ましたから大丈夫です。あ、お鍋を持っていくのをお願いします』
大人だけの実家。
オシャレなクリスマスメニューより、両親に合わせたメニューになる。
クリスマスにお鍋か~
パエリアとか食べたいな~。なんて思いながら、お鍋をダイニングテーブルにセットした。
母と義妹が、テーブルセッティングし終わった頃に、飲んべえの男2人が椅子に座った。
『食べて酔いざましするか』
2人は訳のわからない事を言っている。
母と私も座る。
すると義妹が『初めて作ってみたんですけど…』と、パエリアを出してきた。
『パエリア‼』
思わず声が出た。
『お料理下手なので、義母さんに教わったり、ネットで勉強してるんです』
敦にはもったいない嫁だ。
私がもらいたい(笑)
男2人は呑み、女3人は、芸能界や世間の噂、ファッションからニュースまで、幅広くお喋り。
母と義妹が仲良しで良かった。
お喋りして、後片付けも終わる頃、父と弟は寝室に消えた。いや…寝室に強制送還された。
『お姉さん、お風呂に入って下さい』
義妹が声をかけてきた。
『じゃ、先に入らせてもらうね』
『バスタオル、ここにおいておきますね』
実家の浴室は暖かい。
両親の為に、弟が、暖かい浴室にリフォームしたのだ。
アロマオイルも良い香り。
本当に義妹はセンスも良い。
本気で弟から奪うか?なんて、バカな事を考えていたら、のぼせてしまった。
お風呂から出ると、母がビールをすすめてきた。
『今日は呑まなかったけど、止めたの?』
缶をプシューっと開けて、グラスに注ぐ。
『止めてないよ。呑む回数が減っただけ』
お風呂上がりのビールは美味しい。
義妹は、お風呂から、すぐに寝室に行った。
私と母を気遣ってるのかな?
クリスマスらしくない実家。
でも、家族の暖かさがある。
『あら、積もってきたわ』
母が窓を少し開けて言った。
『ホワイトクリスマス~』
ふざけながら、私も外を見る。
5センチくらい積もっている。
『明日の朝は気を付けて行くんだよ』
母が言う。
『うん』
舞っていた雪が、しんしんと降る雪に変わって積もっている。
ホワイトクリスマス。
世界中の誰もが幸せな日を過ごせますように。
世界中のワンちゃんも暖かく過ごせますように。