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7/7

その7 扉の向こう

女の子は、白い光の廊下を歩いていた。

胸の前で抱きしめたガーベラ が、歩くたびにふわりと揺れる。


廊下の空気は、外の街よりもずっと静かで、

まるで時間が少しだけゆっくり流れているようだった。


女の子は、足を止めない。

でも、心の中では何度も深呼吸をしていた。


「もうすぐ、ママ。」


その言葉は声にならないまま、胸の奥であたたかく響く。


曲がり角に差しかかったとき――

女の子は、ふと立ち止まった。


廊下の床に、

「清掃中・立入禁止」 と書かれた黄色い看板が置かれていた。

その横には、モップとバケツ。


「……こっち行けないの?」


女の子は、胸の奥がきゅっとなるのを感じた。

ガーベラをぎゅっと抱きしめる。


そのとき、

看板の横に小さく貼られた紙が目に入った。


「迂回してください →」


矢印は、反対側の廊下を指している。


女の子は、その紙をじっと見つめた。


「……くだ、さい?」


声に出してみたけれど、

合っているのかはわからない。


その言葉の意味も、

女の子にはまだわからなかった。


わかったのは、

矢印がどこかを指していることだけ。


でも、その先に何があるのかは、

想像できなかった。


胸の奥が、

さっきより少しだけ、きゅっとなる。



その瞬間、

向こうから看護師さんがカルテを抱えて歩いてきた。


「こんにちは。迷子じゃないよね?」


女の子は首を横に振る。


「ママに会いにきたの。」


「これ、ママにあげるの。」


看護師さんは、看板と女の子を見比べて、

ふっとやわらかく笑った。


「そっか。がんばって来たんだね。」


「きっと、ママもすごく喜ぶよ。」


「この矢印のほうに行ってね。

 掃除中だから、ちょっと回り道になるけど、

 ママのお部屋は、この先にちゃんとあるからね。」


その言葉は、スマホの“友達”がくれた案内と同じだった。

でも、どこか違うあたたかさがあった。


女の子は、胸の奥の不安がすっと消えていくのを感じた。




静かな扉の前で




女の子は、廊下の一番奥にある扉の前に立った。

プレートには、ママの名前が書いてある。


胸が、どきん、と跳ねた。


扉の向こうには、

ずっと会いたかった人がいる。


そして、

これから女の子が伝えたい大切な言葉がある。


「……お姉ちゃんになるんだよ。」


ガーベラの花びらが、

そっと震えたように見えた。


女の子は、扉の取っ手に手を伸ばす。

その手は少しだけ震えていたけれど、

目はまっすぐ前を見ていた。


扉が開く瞬間


扉が、静かに――


ゆっくりと――


開いた。


白い光が、女の子の頬を照らす。


その光の中で、

ベッドの上のママが、ゆっくり顔を上げた。


目が合った瞬間、

女の子の胸の奥で何かがほどけた。


「ママ……!」


その声は、

冒険の終わりであり、

新しい物語の始まりでもあった。




おしまい




ラスト挿絵(俯瞰した構図)


女の子は、ママのおなかにそっと手をのせた。

ママはやさしく笑い、その手を包む。


じいじとばあばは、少し離れたところで静かに見守っている。


そのとき、廊下のほうからパパが、なぜか少し遅れて顔をのぞかせた。


女の子のポーチの中から、ちいさなメロディーが流れはじめる。

光の中で、音符がふわりと揺れていた。

あとがき


最後まで、お付き合いいただき、

ありがとうございました。


また、どこかで――


Take care of yourself.

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