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私は今日逃げると決めた〜え?逃げれない?実は愛されていたなんて知りませんでした。〜  作者: 漆原 凜


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1/6

前編

昨日急いで荷物を詰めたカバンを持ち、誰にも見つからない様にコソッと外へ出る。


「お嬢様がいないぞ!」

「探せ!」

「逃げたのか!!」

数人が私を探しバタバタっと走りまわっている。


想定より早い。私は庭の壁際に隠れ、隙を見て屋敷の外へと逃げる。逃げ切ってやる。あんな奴らに捕まってたまるか!


ハァハァ…私は息が切れながらも走り続ける。しばらく走りここまでくれば大丈夫だろうと物影に隠れ息を整える。


よし!行くかと荷物を持ち走り出した瞬間…ドンッと暖かい何かに当たった。え、と思った時には知っているシダーウッドの香りに包まれた。いつも近いようで遠い場所で漂っていたこの匂い。こんな近くで嗅ぐはずがない匂い。


ーーーーー


私は昔から婚約者がいた。両親からしたらいらない娘だったが、我が家より上の高位貴族から婚約の打診が私宛に舞い込んだ。相手方からは政略結婚的にはちょうど良かったらしく、お父様の打算もあり婚約が結ばれた。


家で冷遇されていた私には会うのが唯一の楽しみだった人。紺色の髪に金色の瞳。とても綺麗な顔をしていて王子様みたいだった。よろしくって優しく笑ってくれた顔がとても素敵で一目見て恋に落ちた。出会って数回目までは仲睦まじかったと思う。


ある日急に笑わなくなり、会話も少なくなった。話しかけても返事だけ。嫌いな家族に無視されるよりツラくて悲しくて…耐えられなかった私は恋心にそっと蓋をした。でも何故か2週間に1回行われていたお茶会が無くなる事なく開催され、彼は遅れる事も無く必ず現れる。何度か減らして欲しいとお願いしたが、聞いてもらえなくて回数が減ることは無かった。


無表情だったが、私を気遣う様子はずっとあった。時折隠すように小さなプレゼントをくれたり、見送り際にそっと頬を触る。その度に僅かだが期待をしてしまう。想いに蓋をしたのに、度々恋心が顔を出す。政略結婚だから婚約破棄出来ないのであろう彼に迷惑をかけるのが嫌だった。


そしてある日突然思ったのだ。逃げようって。


ーーーーー



「…アル様。」


抱きしめられている腕にグッと力が入る。私の首元に頭を寄せ無言だ。こんなに近づいたのは初めてだなーって思う。婚約して最初の頃は笑いながら手を繋いだ事もあった。あれが12歳の時だからもう4年近く前。あの時は同じくらいの身長だったのに、今はすっぽり抱きしめられるくらい背が大きい。胸が締め付けられる。


んー違う!思い出に浸ってる場合では無いな。逃げないと。


「アル様離してください。私早く行かないと。」


しかし離してくれない。どいてくださいとアル様の胸を押そうとするがビクともしない。


「…私を置いて何処に行くの?」


スリっと頭を私に寄せながら、やっと喋った。切なそうな声。柔らかい髪が頬に当たり、くすぐったいので辞めて欲しい。何故アル様がそんな捨てられた子犬の様なのだ。


「アル様には関係ないです。あ、安心してください。私は家を出たので婚約は破棄されると思いますよ。」


これで良い。アル様は嫌な婚約が無くなり、私は家族と離れ自由になれる。


「…吐く!吐くってば!アル様!」


力いっぱい抱き寄せられる。ドンドンと胸元を叩くがアル様がギューと抱き締めてる。苦しい。吐く…


「ミリィ婚約は破棄しないよ。絶対離さない。」


えなんで?と思った瞬間、抱き上げられ歩き出した。すぐ近くにアル様のお家の馬車が止まっていて、屋敷へと指示を出し乗り込んだ。アル様は私を抱えたまま座る。


私はアル様の膝の上に抱えられたまま馬車が発車した。またギュッと抱きしめられる。何これ?拷問かな?降ろして欲しいとお願いするが、アル様は何も聞いてくれない。もう諦め遠い目をする。


ーーーー


馬車が止まり扉が開く。アル様は私を抱えたまま降り、またスタスタと歩き出す。アル様が指示を出しながら進んでいく。さすが公爵家で働く方達。こんな意味のわからない状況でもテキパキと対応している。


ある部屋の前でピタッと止まった。従者の片が扉を開けアル様がそのまま中に入る。白い高そうな家具達に、可愛い色や花柄の小物たち。素敵なお部屋。


ソファーにそっと座らされ、やっと離された。私に移ったシダーウッドの香りが少し切ない。あんなに離して欲しかったのに、側に居ないのがすでに寂しい。


「湯浴みをして今日は寝て。明日話そう。」


私の頬に手を当て切なそうに言う。アル様は私の頭をそっと撫で部屋を出て行った。


放心していると侍女の方が来て案内される。湯浴みを終わらせ綺麗な寝間着を与えられた。ピッタリなサイズ。誰の服かしら?


お腹は空いていないか問われ、大丈夫というとお茶を出してくれた。お茶を飲み落ち着くと眠くなってきたので、侍女の方に眠るように促されベッドに入る。


私は今日の怒涛の流れを考えながら眠りについた。



ーーーーー

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