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黒き神と、願いの星  作者: 相田 依人


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第七十七章

「その部屋に、案内してもらえますか」


 冨田が尋ねる。


「構いませんけよ…。けど…異能隊……それも……銃を持っている人を入れるとは、思えませんが…」


 上野が、あからさまな嫌悪感を表して平井を見る。


「任せてください!昔から、交渉は得意なんです」


 平井が自信ありげに宣言する。


「……わかりました……。案内するだけですよ…」


 上野はそう言うと、きびすを返して、廊下を歩き始めた。


 伊藤も、上野の後を付いて歩いている。


「伊藤さん!あなたは、結構です……。もう、仕事に戻ってください」 


 鈴木が伊藤を置いて行こうとする。


「いやぁ、研究者として…一度見て見たかったんですよ…。前田班長の研究室…」


「遊びに行くわけじゃないんだ…。この装備を見れば、わかるでしょ…。帰ってください」 


 鈴木は、冷たく言い放つ。



 万が一、伊藤が妖魔だったら……。



 万が一、妖魔が待ち構えていたら……。


 

 どちらに転んでも、部外者はいない方が、戦いやすい。


「わかりました……」


 伊藤は、廊下を戻り始める。




 両側のドアから、研究員がドアを開けて平井達を見ている。


 完全武装した隊員が、ライフルを構えて歩いているためだ。


 そのドアは、一番奥にあった。


 

 ビー!


 インターホンを押して、上野がマイクに話しかける。


「上野だが…、前田班長はいるかな」 


 ……。


 沈黙。


 応答がない。


 上野は、もう一度、インターホンを押して、マイクに話しかける。


「上野だ。前田班長はいるかな?」



 沈黙。



「おかしいな……。誰もいないなんてことはないと、思うんだが…」


「下がっててくれ…」


 平井が前に出て、銃口をドアノブに近づける。


「止めろ!平井隊長…」


 ーータン!タン!タン!


 上野の言葉の最後は、銃声で、かき消された。



 ーーバン!

 


 平井がドアを蹴り飛ばす。


 異臭が一気に鼻を襲う。



 目の前には、妖魔化した研究員が5人おり、全員が入り口に向けて歩いていた。


 平井の視線が一瞬だけ周囲に走る。


 廊下、


 扉、


 敵の数。


「誰でもいい、火災報知器を鳴らして、研究員を避難させろ!」


 平井の言葉に、最後尾のライフルマンが火災報知器を探しに走る。


 銃口が火を吹き、一番近くにいたカニ型妖魔の足を吹き飛ばす。


「構わん!吹き飛ばした傷口を狙え!」 


「了解!」


 ーータン!


 ーータン!


 セミオート(単発射撃)で、吹き飛ばした脚の傷口に血液を付着させた弾丸を叩き込む!


「いやぁ……!」


 それは――人間の女の声だった。

 

 銃弾が命中した傷口が、黒く変色して、カニ妖魔が逃げるような動きに変わる。


 その時、建物に火災発生のアナウンスが流れた。


「平井!火災報知器が反応しているが、何かしたか?」


 インカムに、別働隊の渕の声が響く。


「ああ…。妖魔と交戦状態に入った。だから、妖魔化していない研究員を逃がそうと思ってな……」


「わかった……、助けて欲し時は、素直に言いなよ」


 平井の応答に、渕は冗談混じりで返す。


「ふざけんなよぉ!!」


 平井が怒声を上げながら、ライフルを撃つ。


「そっちも気をつけろよ…。半妖の巣だぞ、ここは」


「了解!」



 後方にいた鈴木が、ドアの開く音に気がついた。


 火災報知器のアナウンスで、退避しようとする研究員だろう。


 振り返ると、ほとんどのドアが開かれ、研究員がこちらを見ている。


「ここは、危険です!直ぐに退避してください!」


 ライフルの銃声と、妖魔の悲鳴がする中、鈴木が叫ぶ。



 誰も逃げない。



「研究員が妖魔化されて、危険です!退避……」 


 鈴木は、言葉を止めた。



 誰も退避しない。


 声も出さない。


 ドアを開けて、ゆっくりとこちらに近づいてくる。


 その数が次第に増えてくる。


 虚ろな目をして。


「なんだよ…。そういうことかよ…」


 鈴木の目が鋭い光を放ち、唇の端が、ゆっくりと吊り上がる。


「なら――遠慮はいらねぇな」

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