第六十章
「ち…死に…ぞこないが…」
カマキリが中林を睨み、零への警戒が緩む。
今なら……
空間切断!
零が、まだ朦朧とする意識の中で異能を使う。
カマキリが、一瞬動きを止める。
だが。
――何も起きない。
カマキリは中林に近づく。
ーー何!?
いつもなら、意識を向けた瞬間に、空間は裂ける。
中林は、腕からの失血で、もはや動く力さえ残っていない。
「中林!逃げろ!」
零は、
カマキリを睨み、
もう一度、
『空間切断』を発動する。
だが、
カマキリは、先ほど断ち切られた脚を庇うように身体を捻り、
そのまま、
ゆっくりと――
中林へ近づいていく。
切断の感触が、
空間に触れている“手応え”が、どこにもない。
頭の中に…
甘い痺れが残っている。
ーー麻薬!
まだ……
カマキリの羽根から撒かれた麻薬の効果が……
零は、ふらつく身体で立ち上がろうとする。
しかし…
発動されていないにも関わらず…
零の身体は、
異能を発動した後のように…
重い…
零は、身体を立ち上げるのが、精一杯だった。
「逃げろ!中林!」
叫ぶ声にも、力がない。
カマキリが、ゆっくりと近づく。
4メートル……
3メートル……
2メートル……
カマキリが、床を紙のようにきり裂く鎌を振り上げる。
凍芯!
失血で体力を失い、意識も朦朧としている中林が、力を振り絞って出した異能!
しかし…
カマキリの脚の一部を、凍てつかせるのが限界だった。
「これで…勝てると…思ったの…ですか…」
カマキリは、殺戮を確信し、嘲笑う。
「中林!」
零の力ない声が、地下フロアに飲み込まれていく。
ーータタタタタタタタタ!!
ライフルの、フルオートの銃声と閃光が、闇を切り裂く。
中林は、倒れ込んだ宮本のライフルを手にしていた。
「イアアアアア……!!」
カマキリの悲鳴がフロアを震わせる。
だが――
中林の視界は、もう半分以上、暗い。
ライフルを持つ腕が震えて、照準がぶれる。
それでも、
引き金だけは、離さない。
細長いカマキリの身体に、無数の弾痕が刻まれ、黒く変色し壊死していく。
逃げようとしているが、脚は異能で凍てついて動かない。
ぶれる視界の中で、
中林は、最後の力で銃口を持ち上げる。
引き金を、引く。
一発が――
カマキリの頭を撃ち抜いた。
紫色の液体と、
ピンク色のゼリー状の物体が、弾ける。
カマキリが、
脚を固められたまま、
後に倒れた。
「な…中林…」
中林は、全弾撃ち尽くしたライフルをフロアに落とす。
そして…
そのまま…
後に倒れてしまった。
零は…
中林に手を伸ばす。
届かない。
視界が、暗く沈む。
そのまま――意識が闇に飲まれていった。




