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アフター 椎名奏 


「千秋、年賀状来てるよ?」

姉貴の千早が俺の部屋に入ってくる


はい、年賀状?

久しぶりに聞いたわ、その単語

「どうせ、日本郵便からだろ?」

毎年、俺宛に届くのはその一枚だけだ

つーか頼んでもないのに送ってくるとか何なの?


「そんなの持ってくるとでも?」

姉貴はこたつの上にハガキを置く

差出人には記名がない


「何これ」

「私が聞きたいから持ってきたんだよ」


その年賀はがきは売られているままの

なんの変哲もないそれで

まるで素材の良さを活かしましたと言わんばかりだった


それを見て

俺は、何を感じればいいのだろうか?

新しい嫌がらせ?

それとも不幸の手紙?

あぶり出しの線も捨てきれない


俺はこたつの上にハガキを置く

今年の記録は二枚で、ギネス認定だった


こんな虚しいことを考えるくらい

正月早々、暇を持て余して仕方ないので

いつか暇なときに、考えようと思っていたことを


――ユウキが俺の前から、忽然と消えたクリスマスの事でも

思い返してみようと思う。



――鍵が閉まってた

日常生活におけるピンチな出来事のトップクラスが

今、俺に襲いかかっていた

「鍵忘れるとか、ホントに馬鹿かよ」

せっかくお揃いで作った鍵も、机の上に放り出したまま

スマホも財布も持たず身体一つで外に出てしまった


少し、頭を冷やそう

身体も否応なしに冷えるけれども

寒さに震えながら、パーカー1枚で考えようとして


昨晩のことが頭をよぎる

「…そりゃそうだよな」

当然の結果と言えた

彼女の想いに答えるどころか、情けなく逃げ出したのだ

会わせる顔なんてない


まぁそれでも恥の多い人生でしたなんて開き直って


美少女とベットで寝るのに慣れてしまった身体と

すぐタクシーを利用しようとする腐った性根を

叩き直すために


走って探しながら、考えるとしよう


――結構な時間、走り回り

行ったことのある場所を探し回ったが

ユウキの姿は無かった

せめて、ガラスの靴でも落としてくれればと思ったが

足のサイズは、そんなものが無くても分かる


かと言って23cmの靴を持って歩いて

そこらの女性に片っ端から履かせてまわるほど

脚しか見てなかった訳もなく


王子様は、とんだ脚フェチだと

そんなどうでもいい結論に辿り着いた


もっと考えなければならない事は沢山あるが

考えてしまえば、足を止めたくなって

そんなくだらないことばかり考えてしまう


最後に見て回ろうと思ったショッピングモールの近くで

見知った顔に出会った。

元好きな人こと椎名奏だ

声を掛けたくないランキングトップだったが

彼女ならユウキの顔を知っている


「椎名、ユウキ知らない?」

彼女は振り返り、俺をちらりと見て目線を戻す


俺、アクティブクローク標準装備だっけ?


「すいませーん、聞こえてますか?」

椎名は面倒くさそうに振り返り

「何?」

不機嫌そうに、そう言った

「俺と一緒に飯食ってた女の子知らない?」

彼女は少し考えて

「知ってるけど?」

……マジすか?

「何処にいた?」


彼女はセイレーンのマークの喫茶店を指で指して

「あそこでお茶しながらでいい?」

俺は愛想笑いを浮かべて

「あそこってMacBook持ってないと入れないんだろ?」

「ちょっと家に置いてきたから、また今度で」

無いのは財布なんだけどね?

椎名は苦笑いして

「相変わらず、適当な事言ってるね」

「今度なんて無いくせに」


手厳しい指摘だった、俺はため息をついて

「時間も割と無いしなんだったら財布も無い」

正直に話す


「時間は闇雲に探すより早いだろうし」

「お金は……」

「小暮くんの優勝のお祝いってことで奢るよ」


……何年越しだよ、それ

もうそんな設定忘れかけてたわ


「ベンティバニラアドショットチョコレートソースアドチョコレートチップアドホイップマンゴーパッションフラペチーノひとつ」


……何、その呪文?唱えたら世界滅びそう

ついでにMP(マネーポイント)も吹き飛びそうだったから


「アイスティー、真ん中くらいの大きさで」


「注文の仕方ダサっ…」

椎名は笑う


「うるさいな、伝わりゃいいんだよこんなん」

相手だって日本人なんだからリスニングできんだろ?

「まぁ、確かにねー」

世界の破滅飲料とアイスティーを受け取り、席に座る

椎名はストローをカップに刺して呟く

「…だったら、ちゃんと伝えれば良かったのに」


主語が無さ過ぎて、どれの事だかサッパリ分からん

「何の話?」

「全部だよ、ぜんぶ」

「私の事も、あの子のことも」

「結城ちゃん?だっけ、その子の事もだよ」


前半、後半はまぁわかる

真ん中は誰だ?

「あの子って誰だよ?」

彼女は呆れ顔で

「分かんなくなるくらい、付き合ってんの?」


……いや、お付き合いした事、皆無ですけど?


「とぼけてる訳じゃない、マジで誰だ?」

「小暮くんが分かんないなら知らないよ」

椎名はストローで飲み物をかき混ぜる


「まぁ、それが誰かは知らないけどさ」

「ちゃんと伝えなさいな」


「何をだよ?」

「決まってるでしょ、好きな事だよ」

元好きな人にそんなこと言われると心苦しい

ついでに伝えたところで、結果は変わらなかったのも

「待ってるかも知んないじゃん」


「でも、伝わったんだろ?」

自嘲気味に笑う

彼女は誰かから聞いた、とそう言っていた

そんな風に俺を笑った

「言ってないことは、思って無かったのと一緒」

「そう思わない?」

彼女は咎めるように、そんな事を言う

「口にした事が全部本当だとでも?」

「そうは言ってないでしょ?」

だから人はわかり合えない

言葉に裏があるから

思いの全ては伝わらないから

「転ぶ痛さを知っていたとしても、走るんだったら」

「目的地くらい決めなさいって話よ」

「強くなったら好きになるなんて」

「そうしたら伝わるなんて、ただの自己満足」

彼女はそう言い切り、笑う

それを合図にしたように

俺はアイスティーを一気に飲み干して

「そういや、言ってなかったわ」

「俺は椎名が好きだった」

過去にするように、そう告げる


彼女はつまらなさそうにストローを触りながら

「……ショッピングモールの二階、ウロウロしてた」


「ありがとな」 


俺は席を立つ

目的地は定まったのだ

あとは、転ばないように走るだけだ


彼女はパーカー1枚の俺を見かねたように、マフラーを差し出す

「寒いから付けてけば?」


「気持ちだけ、ありがたく受け取っとくわ」


そう言って店を出た



――俺はこたつの中で考える

つーか、あの子って……


姉貴が部屋に入ってきた

「千秋、買い物行くよ?」


……まさかね?

でも、姉貴しか思い当たらなかった

…もしそうだとしたら、やっぱり勘違いだらけで


あのとき彼女の隣にいた彼も

そんな関係ですら、無かったのかもしれないと

そんな事実にいまさら気がついた




独り残された私はストローに、口をつける


――また適当な事言って


気持ちだけなんてそんなもの

今更渡したって、返品されるのが関の山だ


それでも、思ってもないことを言うのはお互い様で


「…ちゃんと好きって伝えろね」

どの口がそんなことを言ったんだろう



また今度なんて、言葉を待ち続けた私の

そんな色あせた恋は

―誰も知ることなく終わるのだ


だからこれは結末に関わりのない

そんなくだらない話

こぼれ話です


新しく書いたペンギンの夢の話も

毎日更新出来るように頑張ります。

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