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副賞

こうなる事は分かっていた

誰しもが、俺の相手である高坂の勝利を疑って無かった。

それなのに優勝のカップは、俺の手の中にある


俺の名前が呼ばれると、会場からブーイングが響く

そんなにギャーギャー騒ぎたいなら渋谷でサッカーでも見てろよ?

そう怒鳴ってしまいそうな心を押し殺し壇上へ上がる。


どんなに周りが野次を飛ばそうと、俺が認めていなかろうと

もう、俺の優勝は決まってしまったのだ。


優勝カップを手に控室に戻る

そこには、応援に来ていた部員たちと顧問

それに彼女が立っていた。

皆、控えめな拍手で俺を迎える

まばらな拍手はすぐに収まり

顧問が大会の総括を話し始める。

「今回の大会、千秋を筆頭に皆良く頑張った」

「まずはそれを称えたいと思う」

「千秋、全国優勝おめでとう」


「どうも、有難うございます」

「そして、三年生達の試合を見て後輩のお前たちも、多く得るものがあったはずだ」

後輩たちの皆がうなずく

「正直、千秋の優勝は、運によるところも大きかったと俺は思ってる」

「もし、反対ブロックに居たのなら決勝まで勝ち進めたかは怪しい、そうだろ?」

俺に同意を求める顧問

頷くことも、言葉を返すこともせず沈黙する。

何が言いたいんだろう、この顧問は


顧問は話し続ける。

「何回も相対すれば、千秋は勝てなかったかもしれない」

「それでも、その一回を千秋は勝った」

「それは紛れもない事実だ」

「だから、今日勝てなかった皆も、諦めなければチャンスはある」

「皆、その一回を掴めるだけの実力を付けるように練習に励め」


……何なんだろう本当に、まるで俺が強くないみたいな

マグレで勝ったようなそんな言い方。

確かに、納得できるような、皆に称賛されるような勝ち方をしてはいない。


それでも決勝の舞台まで辿り着いた。

才能に見放されてなお、戦った


それをこの顧問はまるで幸運のような言い方をする

俺に負けた敗者と同じく、俺を認めはしないのだ。


俺が欲しかった勝利ってものは、行き着くとこまで行き着いたその先が、こんなにも空虚なものだったのなら俺は勝利を渇望したのだろうか?

もう、よく分からない

誰に勝てば認められるのだろう?

何をすれば理解されるのだろう?

なにか一言をと顧問が俺に言う

「誰が認めなくても、たとえ理解されなくても」

()()()()()()()()

「それだけが揺るがない事実だ」

俺はそう吠えるしかなかった。


激昂し、俺を呼び止める顧問を無視し、俺は控室を出た。




トイレの個室で俺は息を潜める。

頭に血が上っていたとしか言いようがない

猛烈な吐き気に襲われた俺は、トイレに駆け込んだ

そこまでは良かった。


胃の中身を全てぶち撒けた俺は、そこで見るはずのないものを見たのだ



様式便座の横にある三角コーナー


いくら冷静でなかったとはいえ

本当に、頭に血が上っていたとしか言いようがない。


会場のトイレはひっきりなしに誰かの出入りがある。

俺は気づかれないように息を潜め続ける。

間違えましたなんてダッシュで逃げれば良かったが

ずっと籠もっていた手前、もはやそんな言い訳は通用しないだろう。

誰もいなくなるその時を待つ。

そうで無ければ、ただでさえ白い目を向けられる俺の居場所なんていとも簡単に無くなってしまう。


しばらくすると、聞き慣れた声がトイレに入ってきた。

ウチの剣道部の女子連中と彼女

椎名奏の声がする

「ていうか、まじ可哀想だったね、直人くん」

「ホントマジあり得ないでしょ、小暮のヤツ」

女子部員が俺のモノマネをする

「俺が勝ったんだよ」

爆笑が聞こえる

「マジうけんね」


「つーか結果がどうであれ」

()()()()()()()()()()()()って話だよね」

「それなのにさ、あんなみっともなく喚いてさ」

「本当に負けちゃえば良かったのにね」

ここから飛び出して、感情のままに怒り狂えればどれほど楽だったろう。

本来なら聞くはずのない

聞かなくて済んだはずの会話


そんな終わりのない話を聞き続けてるうちに

女子部員の一人が椎名さんに話を振る

「てか椎名さんて、仲いい人居たっけ?」

「なんで見に来たの?」


もう、聞きたくない


「んーと優勝するとこ見ててくれって言われたから?」

「誰に言われたの、そんな事?」

「まさか、小暮?」


「うーん…どうかなぁ」

苦笑いしているのだろう

そのまま出ていく音が聞こえた。


誰もいなくなったトイレから俺は逃げるように飛び出した。

俺は何処へ向ってるのだろうか?

行く宛なんて無いのに


怒りはもうとっくに無くて

途中からもう消えてしまいたいと思っていた。


そう、俺はたしかに勝ったのだ。

全てを犠牲にして、誰にも認められず

その勝利の先には何があると思って居たのだろう?

羨望?

称賛?

自分で言ったでは無いか


勝利だけが俺の全てだと


文字通り

それ以外、何もないのだと


称賛や尊敬なんて物は、決して優勝の副賞なんかじゃないのだ。



だから、俺は何も無くても間違いなく勝者で


(高坂)は全てを持ち合わせていても敗者なのだ。



いっそ負けてしまえば良かった。

嘲笑されても、馬鹿にされても

勝てなかったからなんて言いながら

まだ先があると目指せたのに


彼女のことをちゃんと諦められたのに


俺の行き着いた先は行き止まりで、その道を引き返すだけの気力は、もう残ってはいない


だから俺は、何時までもその行き止まりで立ち止まり続けるのだ


昔すら捨てられず、今すら信じられず


灰色の世界で、死ぬこともなく生き続けるのだ

チアキの回想はここで終わりになります。

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