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GWにおはシャッスです
かなりの難産、ファンタジーにミステリー要素を入れるのは難しいです
予想外の展開に襲撃犯三人は思考が追い付かなかった。
学校内での行動を考えれば、反撃に出てくるのは当然だろうと構えて術式構築に入っていたのに、炎が消えると、そこにいた筈の浩明と一緒にいた女はこつ然と消えていたのだ。
助けを求めに行った?
反撃の為にいったん下がった?
それとも……
意図の読めない浩明達の行動は、肩透かしと同時に疑心暗鬼に陥らせた。
「お…おい、どうする!?」
「俺達、顔を見られてるぞ!」
「馬鹿野郎、落ち着け!!」
パニックを起こしかけている仲間を、リーダー格の男は一喝してなだめた。
「まだ、遠くには行っていない筈だ。手分けして探して捕まえるぞ」
「おう!」
「その必要はない、君達の役目は終わりだ」
「誰だ!」
三人が声のする方を振り向いた瞬間、彼等の意識はそこで途絶えた。
―概ね上手くいった
浩明達を襲った三人の襲撃犯が横たわる光景を見ながら、その人物は歪んだ笑みを浮かべた。
星野浩明の事だから返り討ちにするかと思っていたが、まさか逃げ出すとは思わなかった。
おそらくは、一緒にいた女性を巻き込まないつもりだったのだろう。
まぁ、それも誤差の範囲内だ。自ら手を下せば問題ない。
しかし、これほど上手くいくとは思わなかった。新聞部に情報を流させただけでこの結果だ。
あの星野浩明が天統家の一族だと分かれば、彼等の取り巻きのなかには過激な行動を取る人間がいるはずだと思っていたが、その通りだった。取り巻き達は、天統兄妹を心酔するほどの熱烈な信者である。
そんな彼等にとって、星野浩明は許し難い存在であった。
食堂では騒動を止めようと来た雅に対して「アホな犬の飼い主」と言って非難し、生徒会に対して「円卓の騎士団ごっこ」と揶揄したのだ。そして、周りで見ていたみんなを「道徳知らず」と罵ったのだ。
本当ならその場で謝罪を要求するつもりだったが、雅自身にそれを厳しく止められ、理由も聞かされず浩明の処分は不問となったのだ。 しかし、それは彼等の怒りを溜め込む結果となり、その怒りに、部員勧誘の騒動も加わり、次に何かあればという寸前まで来ていた。
そのタイミングで、「星野浩明が元天統家の一族だ」という情報を流せば、その後の行動など容易に想像出来る。
「さて、第二段階に移るか」
作戦の成功に一時の余韻に浸ったいた人物は闇夜に消えていった。
浩明が学校に登校する時間は朝早いか、遅刻ギリギリの両極端である。
理由は「人通りの多い時間を避けるため」という単純な理由であるが、早く行くか、遅く行くかに法則はなく、気分によって登校時間を決めている。今まで、早く行こうが、遅く行こうが気にしていなかったが、今日初めて「遅く登校した事」を後悔した。
校門の前で天統総一郎と結城康秀が立っていたからだ。
天統総一郎と結城康秀は目立つ存在だ。二人がツーショットで立っていると、当然の如く目立つ。彼等のファンや「康×総……ハァハァ」と呟いている一部の女子生徒(後で救急車を呼ぼう)には、朝から目の保養が出来てよかったかもしれないが、浩明にとっては朝から最悪であった。
朝から校門の前で立つ理由など「誰かを待っている」以外ありえない。その待ち人が自分でない事を祈りつつ、無視を決め込んで、無言でその二人の横を通り過ぎようとすると、総一郎に肩を掴まれた。
「おい、浩明」
無言で振り返った。分かってはいたが、祈るだけ無駄だったようだ。
総一郎は切羽詰まったような真剣な顔で浩明を見据えてきた。
周りにいた彼等の取り巻きが興味津々に見守っている。
「どうも、御当主殿に結城の御嫡男」
肩を掴んでいた手を払い、肩書きで応えると、二人の表情がわずかにくもった。
「落ちこぼれの私に何の用ですか?」
「聞きたい事がある」
用件を切り出すと平静を装って口を開いた。
「昨日の夜、どこにいた?」
「どこ……って、なんで御当主殿にそんな事を言わなくてはならないんですか?」
「いいから答えろ」
康秀が冷静にだが、高圧的に聞いてきた。
「何かあったんですか? アリバイ聞くなんて刑事じゃあるまいし」
「雅が襲われた」
総一郎の一言に周囲からざわめきが起こった。「雅様が!?」、「嘘でしょ」と言う声がちらほらと聞こえてくる。
「へぇ……それはご愁傷様。で、どうしてそれを私に聞いてくるんですか?
まるで『私が襲った』って言われてる気がするんですがね」
口角を僅かにあげて聞き返すと、二人の顔に動揺が走った。
「御令嬢殿には食堂での一件で感謝してる位ですよ。それとも、私に襲われるような理由でもおありで? 例えばWebニュースのガセネタに勘違いした取り巻きに襲われた報復とか?」
その隙を見逃さずに、間髪入れずに追い込みを掛ける。
こうなれば浩明の独断場だ。
昨日配信されたを二人に見せるように空間ディスプレイを立ち上げて表示する。
「こっちも迷惑してるんですよ。『お前が天統家の一族だなんて認めない』って勘違いして……」
Webニュースの掲載されたディスプレイを閉じると携帯端末をポケットに片付けた。
「残念ながら昨日は友人と食事をしてましてね、お宅のお嬢ちゃんとは会ってもいませんよ。では失礼」
「待て!」
質問にだけ答えると、その場から立ち去ろうとしてとして康秀に呼び止められた。
「目撃者がいるんだ。犯行現場からお前が走り去るのを見たってな」
「へぇ……ならそいつの目をくり抜いて、銀紙でも張っとけ」
浩明にも凪という証人がいる(襲撃犯もいるが証言を求めた所で応じないだろう)。聞くだけムダと肩をすくめた。
「それは勘弁してほしいな。目撃者は俺達なんだよ」
「何?」
総一郎の言葉に続けて康秀が事件の事を話し始めた。
事件は昨夜、学校からの帰宅時間に起こった。浩明が生徒会室を出た後、いつものように事務作業に取りかかったのであるが、いかんせんあのような騒ぎの後であった事もあり、作業効率は最悪で、普段なら起こさないミスも連発、やむを得ず副会長である小早川秀俊の提案で九時過ぎに作業を切り上げたそうだ。
青海高校には食堂はあっても寮はなく、泊まるわけにもいかず、遅い下校となったのだ。
その帰り道、会長の慶と小早川と別れた四人だったが、その途中、雅の鞄に間違えて慶の音楽プレイヤーが入っていたそうで、まだ近くにいるはずだと渡しに行ったのだが、そこから総一郎達の所に戻る最中に襲われたらしく、戻ってくるのが遅いのを怪訝に思い、総一郎達三人が駆けつけると、頭から血を流し横たわる雅とそこから走り去る浩明の姿があったそうだ。
「成程……」
康秀の説明を聞き終えた浩明は顎に手を当て頷く事、数回「分かってくれたか」
「つまり、お二方は冤罪事件をでっち上げて、『もみ消してやる』って私に恩を売りつけに来たって事ですね」
「なんでそうなる!?」、ここにいた全員が心の中で突っ込んだ。
犯人側視点は犯人が誰かばれないようにするのが難しいです