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シャッスです。

浩明が去った後の生徒会室です。


「いやはや、なんとも凄い物を見せてもらったよ」

 浩明が去った後、沈黙を破ったのは橘だった。

「すいません、俺達のせいで」

「かまわんさ、しかし……、よくもまぁ、あそこまで罵れたものだ」

「明美ちゃん」

 思わず感嘆する橘を慶が窘めた。

「会長、いいんです。悪いのは私達なんですから」

 雅が呟くようにぽつりと言った。

「まぁ、そんなに自分を攻めるな。会長、お茶のおかわりを、四人分も追加してな」

 荷物を持ったまま立ちっぱなしだった四人に座るように促した。

「しかし、あいつの性格があそこまで歪んだ理由がよく分かったわ」

「ちょっと明美ちゃん!?」

 腕を組んでしみじみと漏らすと、四人の表情が動揺した。雅とこのみの瞳には涙が浮かび始めている。

 感想が四人への非難にしか聞こえない。浩明の言葉が事実ならば、どう取り繕っても批判にしかならない。橘はあえて続けた。

「彼が…その……今の家に引き取られたのが五年前だっけ?」

「はい……」

「もしかして、五年前の天統家で起きたあの不祥事の原因って……」

「はい、俺達のせいなんです」

 総一郎はぽつりぽつりと語り始めた。

 星野英二が浩明を引き取った直後、天統家の使用人達が一斉に暇乞いを申し出たのだ。原因は色々あったそうだが、浩明を追い出した事が大半を占めた。当主吉秀が浩明をゴミ扱いして追い出した話が広まり、身内ですら殺しかけて素知らぬ顔、あまつさえ「落ちこぼれた浩明が悪い」と言い切った当主にはついていけないと言ったのだ。

 吉秀は当然のように激怒し、弟子と共に使用人に半死半生の暴行を加えて着の身着のままで放り出す暴挙に出たのだ。

 この事件は当然のようにマスコミに取り上げられ、名門魔術師一族の一大スキャンダルとして世間からの非難を浴びる事となったのだ。

 結果、吉秀と弟子達は実刑判決を受けて、今なお服役中、残っていた弟子もひとりふたりといなくなり天統家は孤立した。皮肉にも自分達が浩明に行っていた事がそのまま自分達に返ってくる事となったのだ。

「クラスメートからはぶられ、石ぶつけられるし、私物はズタズタにされたし、助けを求めたくても味方がいなくて雅はずっと泣いていましたよ」

「まさに因果応報というか、情報としては知っていたが、実際に聞いてみるとリアルさが違うな」

「明美ちゃん!」

 橘の言葉を慶が遮る。

「会長、いいんです。俺達も許されるなんて思ってないですから」

 自嘲の言葉を総一郎が諦めの口調で漏らした。

「みんな、諦めちゃ駄目だよ! ちゃんと話し合えば星野君も分かってくれるよ」

 慶が立ち上がって四人を見渡した。

「会長、浩明は分かってくれますかね?」

「もちろん分かってくれるよ」

 慶の言葉に、僅かながら希望の湧いた表情を浮かべた。

「……」

 このやり取りをずっと見ていた小早川の瞳に悪意が籠もっていたのに気付く者は誰もいなかった。




 胸のすくような食べっぷりとは見てても爽快なものである。

「あんた、よく食べるわね」

 凪が思わず感心する。

 グリーンサラダにミートソースにミネストローネ、ペペロンチーノにマルガリータピザ、シーフードミックスにベーコンピザ、山盛りに取ってきて味わうように口に運んでいる。一度に纏めて持ってくるのではなく、二品ずつ持ってきて食べているのが不快感を与えないのでいいが、この男の胃袋は底無しかと疑ってしまう。

「何言ってるんだ、せっかくのバイキングだぞ。灯明寺こそ食べないのか?」

「あんたの見てるだけで胸やけしそうなんですけど」

 食べかけのスープスパにフォークを泳がせながらぼやいた。

 浩明と二人、レストランで夕食……、状況だけならこれは何のデートかと疑うが、実際は

デートなどではなく、浩明のヤケ食いに凪がつき合わされているのだ。なぜ、浩明と凪の二人だけかというと、英二と夕が二人で出かけたとのことだ。

 英二とその彼女である夕は月に何度か「飲みに行く」と言って二人で出かけて朝まで帰ってこない。そのため、一人で夕食をとっているそうだ。そこで凪が夕食に誘ったのであるが、「愚痴に付き合ってくれ」と言ってきたのだ。そこで、ご飯をご馳走する事を条件に引き受けたのだが……

 ―これは想定外だったわ

 まさかバイキングをやってる店でヤケ食い込みとは思わなかった。120分食べ放題のコースの店に来てすでに60分を超えているが、浩明の食べるペースは未だに落ちることがない。

「で、なんかあったの?」

 本当は落ち着いてからのつもりだったのだが、埒が明かないと判断して切り出した。

「あぁ、天統家の連中に声かけられた」

「ふぅーん……ってえぇ!?」

 思わず声をあげてしまった。

 それは愚痴も言いたくなるわ、と納得してしまう。

「生徒会長に呼ばれたんだけど、その時に鉢合わせしてな。

あの連中、昔の事を忘れたように接してきたんだぜ。ふざけてるにも程があるだろ」

「ふざけてるって、話くらい聞いてあげなかったの?」

「何で?」

 意外な質問に浩明が聞き返した。

「いや、昔はどうだったか知らないけどさ、今なら話せば少しは通じるんじゃないの?」

「そりゃ、面白い冗談だな」

 残っていたパスタを口に放り込んだ。

「冗談って、今の天統家の事を知らないの?」

 凋落の一途を辿っていた天統家だが、当主吉秀が逮捕された後、次期当主である総一郎が成人するまでの当主代理として天統家の再建を任されたのが、結城康秀とこのみの父である結城元信ゆうきもとのぶである。彼の尽力により、一度は「天統家もこれで終わりか」と言われた評価を僅か三年で盛り返す事に成功したのだ。

 その一環として、次世代の魔術師のための教育も見直し、総一郎達に施したのだ。その結果、スキャンダル以前、魔術師としての力で従えて出来ていた取り巻きは、今では総一郎達の心に惹かれて出来た一団となったのだ。つまり、猫をかぶっているのではなく、本当に総一郎達を慕って出来ているのだ。凪はそう説明すると

「今がそうかも知れんが、そんな事、別に知りたくもないし、今更仲良くしたいとも思わんよ」

 紙ナフキンで口元を拭うと席から立った。

「思い出したくもない連中を思い出して、気分が悪くなった。口直しに何か取ってくる」

「はぁ! あんたまだ食べんの!?」

「勿論、時間もまだまだあるし、デザートまだ食べてないからね」

 「愚痴を聞いてくれ」と言っておきながらそれはないだろう、レジ前の時計を指差してから、料理を取りに行く浩明を呆れて見ていた。


最近なかなか感想の返信できずすみません。

近いうちにまとめて返信します。

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