第四十四話 夜遊び
裾をたくし上げて、クリスカさんが知っている裏口から静かに会場を脱出。大きなダンボールやらコインを駆使して旅館の正門から堂々と外へ躍り出ました。
「こういうの、一度やってみたかったのよ」
とクリスカさん。土地勘があってどちらかと言えば常習犯な気もするのですが、不粋なツッコミは喉元に留めます。
「でもせっかく用意してくれたのに、いいんですか?」
「いいの。悪い気はするけど、私の捜索もある種エンタメの一つみたいなものだから」
点々とした街灯に照らされる薄暗い笑み。屈託のない表情に私もなぜかしてやったりの感がありました。
「さぁて、今日は何時間で見つけられるかなぁ」
「あははは……」
苦笑い。クリスカさん本人も楽しんでいるようなので私に異論反論はありません。
「でも抜け出して夜景を見に行くとは言っても、当てがあるんですか?」
「夜景と言っても暗がりで星影を追うだけよ。ライトいる?」
「携帯電話のライトならありますけど」
携帯を取って足元を照らします。
「すこーし足元の悪いところを歩くから、気を付けてね」
「は、はい!」
北海道へ向かう夜行列車以来の二人きり。コツコツコツと足音と共に心音も競り上がって、モジモジと挙動不審になっていました。
「その前に御手洗い行っておく?」
「大丈夫です!」
「声裏返ってるし」
「ほんとに大丈夫ですから。ちょっと緊張して」
二人の歩幅が一歩一歩、刻まれていきます。コツコツ、コツコツコツと。
「はっ」
振り返りました。足音が一つ多い。本能的に背後を見回しますが、人影は暗闇に溶け込んでいてわかりません。
暗がりに華奢でか弱い少女が二人。飛んで火に居る夏の虫、弄ぼうとする輩にとったら格好の獲物です。主様を守ることも使用人の務めという教えを忠実に、クリスカさんに背を合わせて構えます。
「クリスカさん、一旦止まってください」
「お、おおおうどうしたんだい?」
「後を付けられてます。私が言ったら走って」
「ヒールで走るの!?」
「はい。最悪、私が囮になりますから。出てきなさい!」
声色を変え、威嚇するように闇の中の誰かに語り掛けます。当然ながら返事はなく、
「気のせいじゃない?」
「いえ、そんなはずありません。出てきなさい! 今なら骨一本で済ませてあげます」
「骨は折るんだ……」
「当然です」
意外そうに横顔を覗くクリスカさん、息巻いた私を止める術はないと鬱蒼な表情で観念していました。
すると小声で、
「まぁ、面白いからいいか」
「何か言いました?」
「何でもない。行きましょう!」
と、意味深な言葉を言って無理やり私の手を引いて走り出したのでした。




