第三十六話 金沢の朝
寝台列車の終着は目覚めて間もない北陸の中心駅『金沢』。新幹線の建設でブルシートが目立つ高架駅に停車した列車の扉を降りたクリスカさんに続いて、私と薫さんもプラットホームの黒に色を付けます。
まだ目的地というわけではなく、けれど次の電車までは時間があるというので小休止を挟むことになりました。
駅前に出ると、一際巨大な鳥居のような門が現れます。
「よくテレビで見るアレですね!」
名前が出てきません。
二本の大木に絡んだ幾本の柱に均一な升目が掘られた天井。まずその荘厳な門構えに圧倒されて、どこまで行けば私のファインダーに収まるか、想像もできませんでした。
しかしこの門、その姿形には既視感があるのですが、多分ほとんどの日本人はよくテレビに出てくる門としか認識していないのではないかと心で秘かに抱いています。
「鼓門ね。能楽で使われる鼓をイメージして建設された現代アートで、恐らく駅前であるモニュメントとしては東京駅の次くらいに大きい建造物よ」
「やはり、日本の駅というのはとてもユニークな物が多いな」
「薫にしては意外な反応ね。てっきりこういう建築物とかは創作の種にするから見慣れているかと思ってたけど」
私は走って天井に目を凝らしてはしゃいでました。
「どちらかと言えば西洋風の館とかを参考にするんだ。こういう、あまりにスケールが大きすぎる建物は内部が複雑で迷うわ、外観のイメージとは掛け離れた近未来的な内装であまり参考にならないんだ。人にもよるが私はね」
「作家も複雑ね」
難義な境遇に腕を組んで同情の言葉を掛けるクリスカさん。
「まぁ、クリスカほどじゃないさ」
私から少し離れたところで内容は聞き取れませんが二人は談笑に盛り上がっているようでした。
すると遠雷のように低く野太い鐘が鳴りました。その音源を探すように眼を走査すると、大通りの手前に聳える大時計を見つけます。
「あっそうです。クリスカさん、太陽が出るまであと一時間程しかありません! ホテルに急がないと」
午前五時を指す針に私は慌てふためきました。けれど当の本人はとても冷静で、むしろ太陽なんてクソ喰らえと言うような余裕の表情です。
「心配ないわよ。多分、そろそろだから」
「そろそろ?」
含み笑いでロータリーに目をやると、一台の大型バスが交差点を曲がってきます。夜行の長距離バスにしては派手な銀のエングレーブと豪奢で荘厳な巨体が徐に止まり、片開きの自動ドアが開きました。
「あー、あー居た居た。もうこんな朝早くから呼び付けるなんて老人には酷だと思わないのかしらクリスカったらーもぉー」




