第二十七話 キエル
高校卒業を目前に迫った十八歳の冬。小説の新人賞で奨励賞という栄冠に輝いてから、壮絶な一年を過ごしたと聞き及んでいます。趣味ではなく、仕事として付き合うようになった創作は地獄の日々。社会へ投げ出され、右も左もわからない彼女はとにかく周りの大人達から指図されるとおりに動きました。
そして彼女は数多くの嫉妬と侮蔑を込めて、マリオネットと呼ばれるようになりました。しかしネットからデビューした作家の多くは必ずどこかで敵を作る——高度に情報化した社会でそれは沙我であり、ある意味での通過儀礼でもあります。
辛辣な意見や眼差しの矢面に立たされても悲憤なんか抱く暇も隙もなく、淡々と仕事をこなし、書き続けていたそうです。
事件が端を発したのは薫さんの作品の売れ行きに暗雲が立ち込め始めた、ちょうど半年くらい前の事。担当の編集者が変わったその日に告げられた一言でした。
「君の作品は次巻で完結させて、別の企画で書いてもらう」
電話口の言葉。いつも掛けられていることとはニュアンスが違っていたけれど、導の彼らに疑いも考えもそんな余地なんてなく、即答で了承しました。
方針転換から三か月後。デビュー作は無事に完結を迎え、新企画の立ち上げがスタートする、最終巻まで付き合ってくれた元担当さんや応援してくれたファンにもっと佐伯 薫という人間の思い描く物語に心酔してもらう機転になる——はずでした。
企画書を整えて送付しても返答がない。まして彼女に関わる全ての人間から音信が途絶えたのでした。不信に思って編集部を訪れると待っていたのは心ない仕打ちの連続だったのです。
「もううちのレーベルでは出せない」
「魅力的だけどうちじゃレーベルカラーにそぐわないから他を当たってくれ」
皆が口を揃えて投げ掛けてたらい回しに。そして極めつけが担当の言葉、
「売れない作家に構っている暇はない。趣味としての小説を出す余力はないから、さっさと消えてくれ」
薫さんは愕然としました。デビューの時の温かさや交わした決意なんかは蝋で固められた能書きに過ぎなかったのです。
ふとした時、彼女は自らを示す蔑称『マリオネット』を思い出します。
人形は主人の掌で、彼らが満足するように踊り笑う。物の善悪、道徳、倫理、まして意思なんて人形にありはしない。繋がれた糸を切ったり離したりしたら、それでもうおしまい。喋ることは愚か動くことすらままならない。
あぁと悟ってしまいます。誰が言い出したのかもわからないそんな渾名は私を表していたのだと。皮肉にもそれをパートナーだと信じて疑わなかった、猜疑心なんて欠片もなかった彼らに証明されてしまうとは、と。
そして薫さんは死に物狂いで喰い付いていた自分が途端に馬鹿馬鹿しく思え、五官が捉える世界に嫌悪感を抱くようになってしまったのです。存在意義もない、人生の意味がまるで不可解で、ただ無意味に痛みだけを伴うことが嫌になって、自死を選んだ。




