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守護獣様のお気に入り  作者: へけけ
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6-2

王都アモーラの街は3層に分かれている。

円を描くように張り巡らされている高く、白と灰色の石をモザイク模様にみえるように積まれている外郭。外郭を一歩入ると賑やかな南市場や商店、また一般市民の居住区となっている。

1層目の中心部に隔壁と、常時開放されているのでもはや見張りすらいない門が現れる。

その門をくぐると貴族達のタウンハウスや、王宮御用達の1流の仕立て屋、宝石や貴金属などを扱う宝飾店など。主に貴族の生活に不便のない店が並ぶ。

2層目は東西と南に門が作られた五角形のような形にとなっており、2層目の奥に進むと王城や双頭の大亀が祀られている神殿など、国の主要機関が集まる3層目の門が現れる。

見上げる程に大きな黒い鉄製の大きな門扉。

流石に一番最奥の3層目までくると身の丈以上もある長槍を携えた門衛が常時見張っている。

最奥の3層目は王祖ルフェウスが初めて国土と定めた歴史のある土地として、3層目に入る為の門の周りの一部は当時の土台をそのまま残している。デコボコとした大きな岩を土と石灰と混ぜた物で固められたひどく粗末な土台。上に乗る城壁が外郭と同じく、美しいモザイク模様を描いているのもまたその歪さを強調している。


見慣れた門衛に挨拶をして、門扉を開けてもらいナディは門をくぐる。

背後に大きく聳える王宮には簡単に辿り着けないように、門衛が控える詰所や、公爵家などの屋敷が現れる。そこを抜けると友好国の大使や、国賓達が過す大使館が正面に現れ、道はぐるりと大使館を大きく囲むように繋がっている。

その道を大使館を背にするように歩けば小高い丘へと登っていく大階段と、王宮へと続く大通りが現れる。

普段は王宮へと足を進めるが、今日は丘の方へと続く大階段を上がっていく。

階段を登り切ると急に目の前に白い、白亜の神殿が現れる。

開けた敷地にはこれまた白い小石が敷き詰められ、丸く葉をつける広葉樹が道の脇に植えられていた。落ち葉の季節だというのに葉一つ落ちていない。

正面の扉、両脇にある大きなステンドグラスを正面から見上げると、その美しさに目を奪われる。

双頭の大亀が王祖ルフェウスと共に、国を作った建国史が描かれている。

この神殿には子供の時に洗礼を受ける為にだけ来たことがある。王都アモーラを一番後ろから、一番高い場所から見守るようにして建てられた神殿。

神官や、祭事の巫女等が住まうと聞いていたが、まさかそこにトールも暮らしていたなんて。




「ト、トーリュシア様!」

バタバタと小走りに部屋へと駆け込んでくる。いつも冷静だが時にトールを思って暴走する従者が、こんなにも慌てているのは久しぶりに見た気がする。

読みかけの本に緑のリボンを挟み机に置く。

「火急の件にて礼を失し申し訳ございません、ですが…」

言いかけている言葉を遮るように部屋の外が騒がしくなってくる。止まりなさいとか、無礼な!等。普段葉の落ちる音さえしないような静謐な場所のはずなのに。

立ち上がり、ドアを開く。

「おはよう」

神官達に取り押さえられながら、和かに笑うナディにトールは不意に、目に涙が溢れてくるのを堪えた。

「おはようございます。ナディ」


トールが声を掛ければ神官達はナディを離し、不躾な視線でジロジロと眺めている。ナディはそんな視線にも頓着することなく、上質な近衛兵のジャケットに付いた皺を叩きながら伸ばしている。

部屋に通せば、ハーグがお茶を準備していた。

1人掛けのソファーに座ったナディはキョロキョロと部屋を見渡している。



ナディの部屋が三つも四つも入りそうな程の広い部屋。部屋の隅にある大きな天蓋付きのベッドは黒い木枠が艶をだして光っている。

大きな机、革張りの椅子と書棚。客用のテーブルセット。それだけ。

白い大理石であろう床は、覗き込めば顔が映りそうな程に磨き上げられていて、部屋の天井は半円型で、天井に埋め込まれた照明も目立たず、とても開放的なのに。生活感のないその部屋。豪華で質のいい家具であることは間違いないのに、とても寂しい。

従者のいれてくれたお茶を飲み、トールを見る。

なんだか元気がなさそうだ。ギル兄さんにコテンパンにされたとレーネが教えてくれた。

「すいません、病み上がりなのにご足労いただいて。」

眉を下げて笑うトールを見つめる。

「熱が出てしまったとか」

細い大きな手が音もせずに紅茶のカップを置く。音のない部屋。

大きく切り取られた窓には木の一つもみえない。

トールは話続ける。

「そうだ!あとで、神殿を案内しましょう」

明るく、響く声が空元気に聴こえてしまって。

「トール。」

ナディが声を掛ければ、酷く。

痛そうな、辛そうな瞳とぶつかる。目に溜まる涙は今にも溢れてしまう。見られたくないのか下を向いてしまった。

「顔を上げてください」

ハッと開かれた瞳。

「カシュイン家が次女、ナディエールと申します。王宮にて、第一王子テオドール様の剣術指南という大役を仰せつかり、近衛兵として勤務しております。」

ぺこりと頭を下げ、トールに向き直る。

「え…」

「趣味は読書と日課は剣の稽古です。」

戸惑うトールにナディは続ける。

「似合わない言われますが、甘いものが好きで。レースやドレスを見るのも好きです。自分で刺繍は出来ないんですけど」

「あとは…」

腕を組み、考えてみる。ちゃんと伝わるだろうか。

「姉と、兄が2人いて。とても過保護なんです」

照れ臭いのを肩を竦めて両手をあげてごまかす。

「貴方は?」

戸惑い、揺れる瞳。

形のいい丸い紫の瞳が右へ、左へと動き最後にナディを捕まえる。

何度もお茶をして、話をしてきたはずなのに。

お互いのことを知らなかった。少なくともナディは、トールを知らない。知らないことが多すぎて。


どこに住み、誰と住み、何を読み、何が好きなのか。

どんな風にして時を過ごしてきたのか。



「貴方の事を、教えてください。」

テーブルの上に置かれていたトールの手を、意を決したように上からそっと重ねて握る。

強く。

強く気高い瞳。緑の瞳の奥にはキラキラと黄金が飛ぶ。

嫌われ、逃げられ、もう会えないのかと思ってしまう程恐れていた。

でも、扉を開けて彼女がそこに居た。居たのを見て嬉しさが込み上げた。こんなにも会いたいと思っていたのかと、そんな自分に驚いた。

こんなにも真っ直ぐに生きる。眩しい程に光る、その姿。あぁこれが。守護獣としての本能。気づかず惹かれていた。


「僕は、トーリュシア・テスタ・デルバルク。

古の乙女アモーラ・ユシア・デルバルクの跡を継ぐ者です。」

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