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園に来た男の子が配信者だと知ってから、帰り道が長い  作者: ユキ@異世界転生と俺TUEEEはもう辞めて現実的に生きよう


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22/22

あなたみたいに読んで

 午睡の時間。薄暗い保育室で、子どもたちが小さな布団に横になっている。


 ひなたちゃんだけが、目を開けていた。布団の上で体を丸めて、天井を見つめている。担当の保育士が背中をさすっているけれど、目が閉じる気配がない。


 蒼が私のところに来た。


「柊主任代行、提案があるんですが」


 仕事の顔だった。声のトーンも、立ち姿も。


「午睡前に五分だけ、読み聞かせの時間を作ってみてもいいですか。ひなたちゃんだけじゃなく、寝つきの悪い子が何人かいるので」


 五分の読み聞かせか。午睡の導入にちょうどいいし人員も足りてるからまあ大丈夫だ。


 でも、本当はそれだけじゃなかった。私は彼の声を知っているから、ひなたちゃんが眠れる確信がある。主任代行の判断と、夜にイヤホンでこの声を聴いている人としての判断が、混ざっていた。


 ひと呼吸置いた。


「やってみていいよ。五分だけ。効果がなければやめるからね」


 蒼はひなたちゃんの隣に座った。膝を折って、目線を合わせて。小さな絵本を開いた。


 蒼は、ページをめくるたびに少しだけ間を置いた。低くてゆっくりで、急がせない声だった。あの声だ。配信と同じ声。でもここでは、画面の向こうではなく、目の前の子どもたちに向けられている。


 ひなたちゃんの呼吸が変わった。体の力が抜けて、まぶたがゆっくり落ちていく。泣き声が止んで、寝息に変わった。


 私は廊下から見ていた。蒼の声が子どもを包んでいく。声の毛布みたいだ、と思った。


 お迎えの時間。桐谷(きりたに)さんが来た。ひなたちゃんが桐谷さんの手を引っ張って、嬉しそうに言った。


「ママ、おうちでも、せのせんせいみたいに、えほんよんで」


 桐谷さんの手がひなたちゃんの肩を強く握った。一瞬だけ。何も言わなかった。視線を絵本の表紙にぶつけたまま、「帰りましょう」と言い、ひなたちゃんの手を引いて出ていく。


 桐谷さんの背中は、いつもどおりまっすぐだった。けれど私は、ひなたちゃんの肩に、まだ桐谷さんの指の形が残っているように見えた。


 保育室を振り返ると、蒼が閉じた絵本を膝に置いたまま、眠っている子どもたちを見ていた。蒼の声は、夜だけのものじゃなかった。

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