表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
園に来た男の子が配信者だと知ってから、帰り道が長い  作者: ユキ@異世界転生と俺TUEEEはもう辞めて現実的に生きよう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/20

恋人じゃなく、主任代行

 三島(みしま)主任がメンタル不調で休職に入り、私が主任代行を引き受けることになった。その初日の朝。出勤すると、三島主任のデスクに私の名札が置いてあった。「柊奈月(ひいらぎなつき) 主任代行」。白石園長の字だった。


 シフト管理、保護者対応の窓口、園長との連絡係。引き継ぎメモを読みながら、三島主任がどれだけの業務を一人で回していたか、初めて知った。


「おはようございます、柊」


 蒼の声が止まった。私を見て、一瞬だけ口元が揺れた。


「おはようございます、柊主任代行」


 正しい敬語だった。正しい距離だった。昨日まで電話で「なつきさん」と呼んでいた人が私を肩書きで呼んでいる。


 正しさが、寂しかった。でもそれは自分が望んだ線引きだ。職場では上司と部下。それ以外の選択肢は、最初からなかった。


 昼休み。給湯室に入ったら、蒼がいた。棚からコップを取ろうとしていた。私も同じ棚に手を伸ばした。


 指が触れた。


 蒼の手の甲に、私の指先が重なった。温かさが指先に残る。蒼の手が止まった。私も止まった。給湯室の蛍光灯が静かに唸っている。


「すみません」


 蒼が手を引いた。私は「いいよ」と言いかけた。でも口から出たのは別の言葉だった。


「大丈夫です」


 敬語。なぜ敬語が出たのか、自分でもわからなかった。蒼は黙ってコップを一つ取り、出ていった。


 夜、布団の中で蒼に電話をかけた。


「ごめん、今日ちょっと冷たかった?」


「いえ。なつきさんが決めたことですから」


 蒼の声は穏やかだった。怒っていない。でも電話越しで顔が見えない分、声だけがまっすぐに届いてくる。


 電話を切ってから、こえつきのアプリを開いた。今夜の二十二時まであと少し。でも画面を閉じた。夜凪(よなぎ)の声を聴いたら、泣きそうだった。


 翌朝、昨夜の配信のアーカイブが残っていた。聴かなかったのは、初めてだった。


 正しいことが、こんなに寂しいなんて知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ