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前世のペットを召喚できる俺、どの子もこの世界では規格外でした ~レベル解放で家族が増える召喚士~  作者: いたちのこてつ


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第7話 カケルの決意

ギルドを出ると、王都の空は深い群青色に染まっていた。街灯には魔石を用いた淡い光が灯り始め、昼間とはまた違う、幻想的で活気のある夜の顔を見せている。


カケルは、懐にある銀貨二十七枚の重みを何度も確かめた。


入街税を差し引いても、今の彼には大金だ。これだけあれば、この街でも相応の宿に泊まり、腹一杯の飯を食べることができる。


「……よし、まずは宿だな。茶渋、お前も美味いもん食べような」


「ニャアオ!」


足元で茶渋が嬉しくそうに応える。大型犬ほどのサイズだった茶渋は、ギルドを出る際に「目立たないように」と言い聞かせたところ、なんとか元の猫サイズ……少しふっくらとした「大きめの飼い猫」程度まで縮んでくれていた。


カケルは大通りから少し入った、落ち着いた佇まいの宿屋の門を叩いた。


「いらっしゃい。一泊かい?」


恰幅のいい女将が、カウンター越しに愛想よく笑う。


「はい。……一泊、お願いできますか?」


「ああ、空いてるよ。一泊二食付き、個室で銀貨五枚だ。食事は今ちょうど出来立てだね」


カケルは袋から銀貨を取り出し、差し出した。


「お部屋に運んでもらうことはできますか? 静かに食べたくて」


「いいよ、すぐに持って行かせるから二階の突き当たりの部屋で待ってな。……おや、その猫ちゃんも一緒かい? 粗相だけはさせないでおくれよ」


案内された二階の個室は、簡素ながらも手入れの行き届いた清潔な部屋だった。木製のベッドが一つと、小さな机。一人と二匹で過ごすには十分な広さだ。


部屋に入り、扉に鍵をかけると、カケルはようやく肩の力を抜いた。


まもなくして、女将が湯気の立つトレイを運んできた。


「はいよ、お待ちどおさま。今日のメインは猪肉のシチューだよ」


机に並べられたのは、具沢山のシチューと、香ばしい匂いのする焼きたてのパン。それに、食べやすく切られた厚切りのロースト肉だった。


「茶渋、おいで。メシだぞ」


カケルが呼ぶと、茶渋が期待に目を輝かせて椅子に飛び乗った。カケルはロースト肉を小皿に取り分けようとして、ふと手を止めた。


(……待てよ。茶渋は召喚獣になったけど、元は猫だ。味付けされた人間の食べ物なんて、体に悪いんじゃないか?)


特に塩分や、シチューに使われているかもしれないタマネギなどは猫にとって猛毒だ。カケルが不安に思っていると、脳内にあの声が響いた。


『召喚獣は維持魔力によって存在を確立しているため、生命維持のための食事を必要としません。ただし、嗜好品として可能です。また、召喚獣の肉体は魔力で構成されているため、摂取した食物の成分による毒性や健康被害の影響は受けません』


「……そうか、大丈夫なのか。なら安心して食べられるな」


カケルがロースト肉を小皿に分けると、茶渋は匂いを嗅いで、そっと食べ始めた。カケル自身もシチューを一口啜ると、濃厚な旨味が空腹だった胃袋に染み渡った。


食後、食器を下げてもらい、カケルは再び扉に鍵をかけた。


(……さて、寝る前に一度、送還しておいた方がいいよな)


夜中に何かあってはいけないと、カケルは茶渋の頭を撫でながら心の中で二匹の「送還」を念じた。一度召喚スペースに戻し、また明日の朝に呼び出せばいい。そう思ったのだ。


「――っ!?」


直後、肩の上のワサビ君は、何の抵抗もなく静かに光の粒子となって消えていった。だが、同様に光りかけたはずの茶渋が、ふいに不安げな声を漏らしてその光を振り払うように身悶えし、カケルの足元にぎゅっと体を寄せたのだ。


「ナーゥ……」


それは、いつもの甘えとは少し違う、どこか心細そうな響きだった。

ようやく再会できたばかりで、見知らぬこの世界にまだ戸惑っているのかもしれない。


(……茶渋。お前、まだこの世界に来たばかりで不安なのか?)


茶渋はカケルのズボンをそっと掴み、離れようとしない。爬虫類は人に懐かないため、ワサビ君はあっさりと消えたが、今の茶渋にとってカケルの温もりこそが唯一の安心できる場所なのだろう。


「……わかったよ。今日は無理に送還しない。朝までと一緒にいよう」


カケルが微笑んで言うと、茶渋はパッと表情を明るくし、嬉しくそうにカケルの足に頬ずりをした。


「……うおっ」


その瞬間、茶渋が喜びのあまり本来の「ライオンサイズ」へと膨張した。狭い個室が、一気にサビ柄の毛並みで埋め尽くされる。茶渋はそのまま、巨大な毛玉のような体でカケルをベッドごと押し包むようにして横たわった。


「ふふ、あったかいな……」


茶渋の毛並みに顔を埋めながら、カケルは安堵の溜息をついた。


だが、しばらく休んでいると、彼は妙な感覚に襲われた。激しい運動をしたわけでもないのに、意識の奥からじわりとした倦怠感が滲み出してきたのだ。まるで、体の中から何かが少しずつ吸い出されているような。


「……なんだ、この疲れ。……なあ、教えてくれ。俺、どこか悪いのか?」


『それは召喚獣の【維持コスト】による魔力の消費です』


「維持コスト……? そんなのあるのか?」


『はい。召喚獣を現界させ続けるには、あなたの魔力を一定量消費し続ける必要があります。維持コストは、召喚している個体のランクに準じた固定値として発生します。現在、レベル2のあなたの魔力総量に対して、召喚獣茶渋を維持し続けることは緩やかな負担となっています』


「なるほど……。出しっぱなしだと、俺が力尽きるってことか。でも、ワサビ君だけの時は全然気にならなかったぞ?」


『召喚獣ワサビの消費魔力量は微量です。あなたの自然回復量で十分に賄えていたため、負担を感じることはありませんでした。今のあなたの魔力回復量では茶渋を維持する魔力消費を完全には相殺できず、時間経過と共に疲労が蓄積するでしょう』


「一晩くらいならなんとかなりそうだが、ずっと出しっぱなしにするのは今の俺じゃキツいのか……」


カケルは苦笑いしながら、巨大なサビ猫の腹に頭を預けた。誰の目も気にせず、魔力コストの心配もなく、茶渋が巨大なままで甘えられて、ワサビ君がのびのびと歩き回れる場所。


(……俺自身の力、そして家が、必要だな)


カケルは天井を見つめ、目標を刻みつけた。一時的な宿ではなく、この子たちが本当の意味で安心して「帰れる」場所。そんな、自分たちの「聖域」となるような拠点が。


閉鎖的な宿屋ではなく、自分たちだけの場所を。そして、これから再会するであろう家族を全員まとめて召喚できるだけの大きな魔力を手に入れるため、召喚士としてのレベルをもっと上げなければならない。


「……明日も、頑張ろうな」


カケルの呟きに、茶渋は幸せそうな寝息で応えた。

執筆の励みになりますので、続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークよろしくお願いします!評価もいただけると嬉しいです。


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