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前世のペットを召喚できる俺、どの子もこの世界では規格外でした ~レベル解放で家族が増える召喚士~  作者: いたちのこてつ


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第18話 穏やかな時間と秘密の共有

「……ふぅ。やはり、ここに来ると不思議と落ち着くよ」


夕暮れ時、非番の軽装でカケルの拠点を訪れたエアリスは、差し出されたお茶を啜りながら、ゆったりと息を吐いた。最近では、エアリスがこうして私用で立ち寄ることも珍しくなくなっていた。


当初は何もなかった居間にも、市場で少しずつ買い揃えたのであろう小さな木製の棚や、座り心地の良さそうな椅子が置かれるようになっている。完璧に整っているわけではないが、カケルの手によって少しずつ生活の跡が刻まれたその家は、穏やかな「家」としての温かみを増していた。


「そう言ってもらえると嬉しいです。少しずつ整えてはいますが、まだ十分なおもてなしもできませんけど」


カケルは苦笑いしながら、エアリスに新調した椅子を勧め、自分はその脇の板間に直接腰を下ろした。天井の蔦ではキンカチョウたちが「ペー、ペー」と静かに囀り、梁の上ではほっぺが眠そうに羽に顔をうずめている。


騎士隊という規律の世界に身を置くエアリスにとって、この家を流れる「目的のない時間」は、何よりの贅沢だった。


だが、その平穏は突如として破られた。


「……ッ!?」


カケルの肩に乗っていたワサビ君が、音もなく身を乗り出した。次の瞬間、その模様が威嚇を示すような黒い暗色へと一気に沈み、体色を変えた。


「警戒色……ワサビ君、何かいるのか!?」


カケルが身構え、開け放たれた入口から庭先へと視線を走らせたのと同時、茂みが不自然に大きく揺れた。


現れたのは、赤く充血した目と、異様に発達した鋭い牙を持つネズミのような姿をした魔獣——レイジ・ラットだ。


「魔獣か! 下がって、カケルくん!」


エアリスが瞬時に立ち上がり、庭先へ飛び出しながら腰の剣に手をかけた。


だが、彼が刃を抜くよりも早く――いつの間にかカケルの肩から降り、音もなく庭の地面へと進み出ていたワサビ君の体が膨れ上がった。


空気を重く押し出すような質量感を伴って、一・五メートルを超える巨体へと一瞬で膨れ上がったワサビ君は、驚愕で動きを止めたレイジ・ラットに向かって、その長大な舌を放った。


——シュルッ!


目にも留らぬ速さで獲物を絡め取ると、ワサビ君はそのまま巨口を開け、五十センチはあろう獲物を一飲みにしてしまった。


「な……っ!?」


エアリスの動きが止まる。


魔獣を仕留めたのではない。文字通り「捕食」したのだ。


さらに驚くべきことに、元の大きさに戻りながらカケルの足元へ降り立ったワサビ君は、喉を一度だけ大きく鳴らすと、その口から「ポロリ」と小さな輝きを吐き出した。


それは、まるで精製されたような透明感を持つ魔石だった。


「……この魔石は、どこから……? 解体もせずに、一瞬で……?」


剣を抜くのも忘れ、エアリスは呆然とワサビ君を見つめた。


「……すみません、驚かせちゃって。これが、ワサビ君の個性なんです。食べた魔獣を、こうして魔石に変えてくれるんですよ」


カケルは少し困ったように笑いながら、魔石を拾い上げた。

エアリスは、その魔石と、何食わぬ顔でカケルの肩に戻ろうとする小さなカメレオンを交互に見て、ようやく深く息を吐き出した。


「……驚いたどころではないよ。君の『家族』たちは、一体どれだけの秘密を隠しているんだい?」


その問いに、カケルは少しの間、沈黙した。エアリスの目が、疑念ではなく、純粋な驚きと関心に満ちていた。


(……この人なら、隠し事をしなくてもいいかもしれないな)


家族がそばにいてくれるとはいえ、この世界の人間ではないという違和感と、真実を誰にも打ち明けられない孤独。信頼できるミラにも、まだ全てを話したわけではない。


だが、自分の家族を認め、友人として接してくれるこの騎士隊長になら——。


「隊長さん…….少し、俺の話を聞いてもらえますか?」


カケルは意を決して、語り始めた。


「……実は、俺、この世界の人間じゃないんです」


ポツリと、カケルは言葉を落とした。


エアリスは一瞬、何を言われたのか理解できないといった様子で眉を寄せたが、冗談を言っているようには見えないカケルの真剣な眼差しに気圧されるようにして、静かに続きを待った。


カケルは、自らの身に起きたすべてを、一滴ずつ零すように話し始めた。


かつていた世界では、今いるこの子たちだけでなく、もっとたくさんの種類の動物たちと家族として賑やかに暮らしていたこと。事故で死んだ直後、気づけばこの見知らぬ場所に一人で放り出されていたこと。


そして、この世界に来てから、なぜか向こうで共に過ごした家族たちを「召喚獣」として呼び出せるようになったこと。


だが、最初から全員を呼べるわけではない。召喚士としての自分の力が強まり、レベルが上がるにつれて、新たな「枠」が解放され、一匹、また一匹と家族をこちらの世界に呼び戻すことができるようになる。


ただ、まだ呼び戻せていない残りの家族を、一人残らずこの世界に招き入れたい。召喚の力を磨くのは、かつてのように全員で静かに暮らすため。それが、この異世界で彼が生きる唯一にして最大の理由なのだと。


一通りの話を終えた頃、室内はすっかり夜の帳に包れていた。エアリスは遮ることなく最後まで聞き終えると、窓の外を眺めて静かに呟いた。


「異世界、か。信じがたい話だが……君のそのひたむきな献身を見れば、納得がいく」


エアリスは振り返り、カケルの目を真っ直ぐに見つめた。


「カケル。隠す必要はない。少なくとも、私の前ではね。君が望む『平穏』を、私は友として、そしてこの街を守る騎士として支持しよう」


その言葉に、カケルの胸を覆っていた重い霧が、晴れていくような感覚があった。隠し事のない二人の間には、先ほどまでの「興味」を超えた、確かな信頼の絆が結ばれようとしていた。


「ありがとうございます、隊長さん」


「……エアリスでいい。友人なら、その方が嬉しいな」


エアリスはそう言って穏やかに微笑むと、ふと思い出したように、少し茶目っ気のある笑みを浮かべてワサビ君を指差した。


「ところで、そのワサビ君の『精製』だが、もしかして……。騎士隊で回収した未精製の魔石を彼に食べてもらえたら、精製の手間が省けて予算繰りが非常に助かるのだが、どうだろうか?」


「あはは、あの子がお腹を壊さない程度なら、いつでも協力しますよ」


二人の笑い声が、ようやく取り戻された穏やかな時間の中に、静かに溶けていった。

執筆の励みになりますので、続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークよろしくお願いします!評価もいただけると嬉しいです。


本作の他にも、完結済みの作品を公開中です。


■魔王軍、おもてなしの極致 〜聖女の笑顔のために軍予算を「観光」へ全振りしたら、魔界が爆益を上げ始めた件〜

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