第17話 廃屋調査と、意外な「主」
今回はエアリス視点です。
王都リスティアの外縁。討伐してもすぐにギガ・フライが住み着いてしまうため、長らく放置されるしかなかったあの廃屋に「正式に入居者が決まった」という報告が届いた。
騎士隊長として、居住者が増えたのであれば今後の巡回ルートも検討する必要がある。私はその様子を確認するため、定期巡回のついでにその場所へ様子を見に行くことにした。
(……ほう、これは驚いたな)
視界に現れたその建物は、以前のような荒れ果てた様子はなく、外壁の穴が丁寧に塞がれるなど、人が住めるよう適切に補修されていた。かつてはこの場所全体に淀んだ空気が漂っていたものだが、今は煙突から立ち上る細い煙が、そこに確かな「生活」があることを物語っていた。
私が馬を降り、扉を叩こうとしたその時だ。
「……あ、隊長さん? どうしてここに?」
扉が開くと同時に現れたのは、先日食事を共にしたばかりの青年、カケルくんだった。その手には雑巾と水桶が握られており、少し汗をかいた顔で驚いたように私を見上げている。
「カケルくん……。まさか、ここに住んでいるのは君だったのかい?」
「ええ。不動産ギルドでなかなか良い物件が見つからなくて困っていたところを、ギガ・フライ討伐の依頼主のガレンさんに格安で貸してもらったんです……。汚いですけど、中へどうぞ」
彼に促されるまま中へ足を踏み入れば、そこには外見以上に驚くべき光景が広がっていた。
「……ペー、ペー! ペー、ペー!」
真っ先に聞こえてきたのは、耳に心地よい小鳥たちの囀りだった。
見上げれば、天井付近に張り巡らされた丈夫そうな蔦の上を、小さな小鳥たちが忙しなく飛び交っている。梁の上では、赤い頬が特徴的な鳥が冠羽を揺らしながら、私の侵入を少し警戒するように眺めていた。
「すごいな……。この子たちが、君が熱く語っていた『家族』たちなのか」
「はい。ワサビ君の移動経路も作ったので、みんな自由に過ごしています」
視線を移せば、高い棚の影からワサビ君がゆっくりと顔を出し、私を確認すると安心したように穏やかな緑色へと変わった。足元では猫が、新しい敷物の上で丸くなって喉を鳴らしている。
(あの日買っていた敷物は、この子のためだったのか…)
家具はまだ揃っていないようだが、不思議と殺風景さは感じなかった。窓から差し込む午後の光と、小鳥たちの歌声。そして、飼い主であるカケルくんが纏う、穏やかなで満たされた空気。
「……そうか。君はここで、彼らがのびのび生活できるように環境を整えているんだね」
私の呟きに、カケルくんは少し照れくさそうに笑った。
「ええ。いつか理想の場所を見つけるまでの仮ぐらしですけど、それでも今は、ここをあの子たちが一番安らげる場所にしたいんです。誰にも邪魔されず、安心して美味しいものを食べて眠れるように。あ、よかったらお茶でも…」
彼は不便な生活を楽しんでいるように見えた。
騎士隊という組織の中にいると、どうしても「家」を単なる休息の場や、資産としての価値で判断しがちになる。だが、カケルくんが築こうとしているのは、もっと根源的な……愛するものたちの命を守るための「安らぎの地」だった。
「いや、もてなしは無用だよ。仕事中だからね」
私は微笑んで首を振った。だが、その胸の内には、先日よりも彼に対する興味が芽生えていた。入街時の鑑定で見えた『召喚士』という職業。その力を誇示することもなく、ただ愛する家族との静かな暮らしのために、自らの才能と労力を惜しみなく注ぎ込む男。
(……この男なら、魔物が何度も巣食っていたこの場所を、温かな場所へと変えてしまうのだろうな)
私は一人の友人として、彼の肩に手を置いた。
「カケルくん。ここはまだ人目に付く場所だ。何か困ったことや、周囲で不審な動きがあれば、すぐに私に知らせてほしい。……リスティアの騎士隊長としてではなく、君の友人として力になろう」
「……隊長さん。ありがとうございます。心強いです」
カケルくんは驚いたように目を瞬かせた後、深く頭を下げた。
帰り際、私はもう一度だけ振り返ってその家を眺めた。
オカメインコのほっぺくんが、窓枠に止まって、陽気な旋律を口笛のような鳴き声で奏でているのが聞こえてくる。
不遇な廃屋が、一人の過保護な召喚士によって、世界で一番温かな家へと生まれ変わる。
その過程をこれからも見守っていきたいと、私は心から願っていた。
執筆の励みになりますので、続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークよろしくお願いします!評価もいただけると嬉しいです。
本作の他にも、完結済みの作品を公開中です。
■魔王軍、おもてなしの極致 〜聖女の笑顔のために軍予算を「観光」へ全振りしたら、魔界が爆益を上げ始めた件〜
https://ncode.syosetu.com/n1299lr/
■人間嫌いの私は闇の精霊(上級)に転生しました。~見た目が「黒い毛玉」なので無能と罵られましたが、契約主の孤独な侯爵令嬢と共にレベルアップして毒親たちを断罪します~
https://ncode.syosetu.com/n5749lp/
■異世界コンサルはじめました。~元ワーホリマーケター、商売知識で成り上がる~
https://ncode.syosetu.com/n5582kv/
ぜひこちらもお願いいたします!




