第63話『柊との約束』
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社長就任から1か月が経った。
就任直後は連日のように会議が続き、国内外の取引先との挨拶回りもあって、息つく暇もない日々だった。
けれど、ようやく新体制も落ち着き始め、週末には少しだけ余裕が生まれていた。
「莉央さん、今週末、時間ありますか?」
金曜の夕方、副社長室を訪れた柊がそう尋ねてきた。
「週末? ええ、特に予定は入れていないけど……」
「よかった。じゃあ、どこか遠くへ行きませんか?」
柊の表情は真剣で、どこかいつもと違う雰囲気があった。
「遠く?」
「はい。ドライブがてら、海でも見に行きましょう。莉央さん、最近ずっと忙しそうだったから、少しリフレッシュした方がいいと思って」
確かに、社長就任後は毎日が慌ただしく、自分の時間を持つことすらできていなかった。
「……そうね。じゃあ、お願いしようかな」
私は笑顔で頷いた。
柊もほっとした表情で微笑んだ。
「じゃあ、土曜日の朝、迎えに行きますね」
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土曜日の朝9時。
柊が自宅まで車で迎えに来てくれた。
「おはようございます、莉央さん」
「おはよう、柊さん。今日はどこへ行くの?」
「それは着いてからのお楽しみです」
柊は少しいたずらっぽく笑って、車を発進させた。
都心を抜け、高速道路に入る。
窓の外に広がる景色が次第に緑豊かになり、空気も澄んでいくのを感じた。
約2時間ほど走ったところで、柊は海沿いの小さな町へと車を進めた。
「ここ、素敵なところね」
「ええ。僕が学生時代によく来ていた場所なんです。海が綺麗で、静かで……考え事をするのにちょうどいいんですよ」
車を停めて、二人で海岸沿いの遊歩道を歩いた。
波の音が心地よく、潮の香りが鼻をくすぐる。
「莉央さん、社長就任おめでとうございます。改めて、お疲れさまでした」
「ありがとう。柊さんがいてくれたから、ここまで来られたんだと思う」
「いえ、全部莉央さんの努力の賜物ですよ」
柊はそう言って、優しく微笑んだ。
しばらく歩いていると、柊が立ち止まった。
「莉央さん、あそこに見える岬、行ってみませんか?」
柊が指さす先には、小高い丘のような岬があった。
「いいわね。行きましょう」
岬へと続く小道を登る。
少し息が切れたけれど、頂上に着いた時の景色は息を呑むほど美しかった。
広がる青い海と、水平線の向こうに沈みかけている夕日。
「綺麗……」
思わず声が漏れた。
「ええ。この景色を、莉央さんに見せたかったんです」
柊がそう言って、私の隣に立った。
しばらく無言で夕日を眺めていた。
風が髪を揺らし、波の音だけが静かに響いている。
「莉央さん」
柊が突然、私の名前を呼んだ。
振り向くと、柊は真剣な表情で私を見つめていた。
「はい?」
「僕、ずっと考えていたんです。莉央さんとの未来のこと」
心臓が高鳴る。
「柊さん……?」
「莉央さんは、今、社長として大きな責任を背負っています。でも、僕はその隣で、ずっと支えていきたいと思っています」
柊が一歩近づいてきた。
「僕と……結婚してください」
その瞬間、時が止まったような気がした。
夕日が二人を優しく照らしている。
「柊さん……」
涙が溢れそうになった。
「私、こんなに幸せでいいのかな……」
「いいんですよ。莉央さんは、誰よりも幸せになる資格がある」
柊がそっと手を差し出してきた。
私はその手を握り締めた。
「はい。私、柊さんと結婚します」
涙が頬を伝った。
柊も目を潤ませながら、私を抱きしめてくれた。
「ありがとうございます、莉央さん」
「こちらこそ、ありがとう……」
二人で抱き合ったまま、夕日が水平線に沈んでいくのを見つめた。
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岬を降り、近くのカフェでお茶をしながら、二人で将来の話をした。
「結婚式は、いつ頃がいいですか?」
「そうね……できれば来年の春がいいな。桜の季節に」
「いいですね。桜の季節、莉央さんに似合います」
「ありがとう」
「新居はどうしましょう? 僕のマンションでもいいですし、新しく探してもいいですし」
「二人で探しましょう。ゆっくりでいいから、気に入った場所を見つけたいわ」
「ええ、そうしましょう」
柊が優しく微笑む。
「でも、社長の仕事も忙しいでしょう? 大丈夫ですか?」
「大丈夫。仕事も大事だけど、柊さんとの時間も大事にしたいから」
「僕も、莉央さんを全力でサポートします。仕事も、家庭も、一緒にバランスを取っていきましょう」
「ありがとう。本当に、柊さんがいてくれて良かった」
私は心からそう思った。
一周目の人生では、柊との関係を修復できなかった。
でも、二周目のこの人生では、彼と出会い直し、信頼関係を築き、そして今、こうして未来を約束することができた。
「一緒に未来を作りましょう、莉央さん」
柊がそう言って、私の手を握った。
「ええ。一緒に、未来を作りましょう」
私も強く頷いた。
夕暮れ時のカフェで、二人で笑い合った。
もう、何も怖くない。
柊がいる。家族がいる。仲間がいる。
そして、私には二周目の人生で得た知識と経験がある。
これからどんな困難が待っていても、きっと乗り越えられる。
そう信じて、私は新しい未来へと歩き出した。




