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第62話『新体制の船出』


社長就任から、一ヶ月が経過した。


この一ヶ月間、私は毎日のように経営会議を開き、各部門の状況を詳しく把握してきた。


そして、五月一日、私は新たな経営方針を発表することにした。


午前十時、全社員を集めた説明会が開催された。


大会議室には、二百名以上の社員が集まっていた。


私は、壇上に立ち、深呼吸をする。


「皆さん、おはようございます」


「おはようございます!」


社員たちの元気な声が響く。


「本日は、新体制における経営方針を発表します」


私は、スクリーンに資料を映し出す。


水瀬コーポレーション 新経営方針


三本柱:


1. 持続可能な成長


2. 働きがいのある職場


3. 社会貢献


「私たちは、この三本柱を軸に、会社を成長させていきます」


「まず、第一の柱、『持続可能な成長』について説明します」


私は、次のスライドを表示する。


「国際事業のさらなる拡大を進めます。現在、アジア市場での展開を進めていますが、今後は欧米市場への進出も視野に入れます」


「また、新製品の開発にも力を入れます。環境配慮型製品のラインナップを増やし、顧客のニーズに応えていきます」


社員たちは、真剣な表情で聞いている。


「第二の柱、『働きがいのある職場』について」


私は、次のスライドを表示する。


「従業員持株制度を拡充し、皆さんが経営に参画できる環境を整えます」


「また、働き方改革をさらに深化させます。リモートワークの拡大、フレックスタイム制度の導入、育児休暇の充実など、皆さんが働きやすい環境を作っていきます」


若い社員たちが、嬉しそうに頷く。


「第三の柱、『社会貢献』について」


私は、最後のスライドを表示する。


「地域社会との連携を強化します。地元の学校への寄付、ボランティア活動の支援、環境保護活動への参加など、社会に貢献する企業を目指します」


「私たちは、利益を追求するだけではなく、社会に貢献する企業でありたいと思います」


社員たちから、大きな拍手が起こる。


説明会が終わると、多くの社員が私に声をかけてきた。


「社長、素晴らしい方針です!」


「ありがとう」


「特に、働き方改革、嬉しいです」


若い女性社員が、笑顔で言う。


「育児休暇の充実、本当に助かります」


「良かった。皆さんが働きやすい環境を作りたいの」


本間常務が、満足そうに言う。


「社長、素晴らしい経営方針です。社員も、皆喜んでいます」


「ありがとうございます、本間常務」


「ただし、実行が重要です。絵に描いた餅にならないよう、しっかりと進めていきましょう」


「はい、承知しています」


午後、私は佐藤部長と共に、国際事業の拡大計画について協議した。


「社長、欧米市場への進出ですが、まずはヨーロッパから始めることを提案します」


佐藤部長が、資料を広げる。


「具体的には、ドイツとフランスをターゲットにします。両国は環境意識が高く、私たちの製品へのニーズがあると考えられます」


「なるほど。初期投資は、どれくらい必要ですか?」


「約二億円です。現地パートナーの選定、物流網の構築、マーケティング費用などが含まれます」


私は、資料を読み、少し考える。


「わかりました。この計画、承認します。ただし、慎重に進めてください」


「承知しました」


佐藤部長が、力強く答える。


「それから、もう一つ提案があります」


「何でしょうか?」


「アメリカ市場への進出も、検討すべきだと思います」


「アメリカ……」


「はい。アメリカは世界最大の市場です。成功すれば、大きな成長が見込めます」


佐藤部長の説明に、私は頷く。


「それは魅力的ですね。ただし、アメリカ市場は競争が激しい。慎重に調査してから、決断しましょう」


「承知しました。詳細な市場調査を行います」


翌週、株主総会が開催された。


会場には、約百五十名の株主が集まっていた。


私は、壇上に立ち、経営報告を行った。


「株主の皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」


「前期の業績は、売上高が前年比一〇八パーセント、営業利益が一一二パーセントと、順調に成長しました」


株主たちから、拍手が起こる。


「今期は、さらなる成長を目指します。国際事業の拡大、新製品の開発、そして働き方改革を通じて、企業価値を向上させていきます」


私の説明に、株主たちは満足そうに頷く。


質疑応答の時間になると、一人の株主が手を挙げた。


「水瀬社長、国際事業への投資は、リスクが高いのではないですか?」


「はい、ご指摘の通り、リスクはあります。しかし、慎重に市場調査を行い、現地パートナーと協力することで、リスクを最小限に抑えます」


別の株主が質問する。


「働き方改革は、コストが増加しませんか?」


「短期的には、コストが増加する可能性があります。しかし、従業員満足度が向上すれば、生産性が上がり、長期的には利益につながると考えています」


私の答えに、株主たちは納得した様子で頷く。


株主総会が終わった後、本間常務が言った。


「社長、素晴らしい報告でした。株主の皆さんも、満足されていました」


「ありがとうございます。でも、まだ始まったばかりです」


「その通りです。これからが本当のスタートです」


本間常務の言葉に、私は深く頷く。


その日の夕方、私は社長室で、最新の株価をチェックしていた。


株価は、就任前と比べて、約十五パーセント上昇していた。


市場は、私の経営方針を評価してくれている。


しかし、私は浮かれない。


これからが本当の勝負だ。


その時、柊から電話があった。


「莉央さん、お疲れ様。今日の株主総会、見事でしたね」


「ありがとう、柊さん。でも、まだ始まったばかりよ」


「そうですね。でも、莉央さんなら、必ず成功させます」


柊の言葉に、私は微笑む。


「週末、時間ある?」


「はい、大丈夫です」


「良かった。ドライブに行きませんか?」


「ドライブ……いいですね」


「それでは、土曜日に迎えに行きます」


「楽しみにしています」


翌週、田中部長から新製品の開発状況について報告があった。


「社長、新製品の試作品が完成しました」


田中部長が、サンプルを持ってくる。


「これが、次世代の環境配慮型製品です」


私は、サンプルを手に取る。


デザインは洗練されており、手触りも良い。


「素晴らしいですね。環境性能は?」


「従来品と比べて、CO2排出量を四十パーセント削減しています。また、リサイクル可能な素材を九十パーセント使用しています」


「それは素晴らしい。価格は?」


「従来品と同等です。製造プロセスの改善により、コストを抑えることができました」


田中部長の説明に、私は満足する。


「いつから量産できますか?」


「三ヶ月後には、量産体制が整います」


「わかりました。マーケティング戦略を、佐藤部長と協議してください」


「承知しました」


五月末、私は地元の小学校を訪問した。


社会貢献活動の一環として、図書室に本を寄贈することになったのだ。


小学校の校長先生が、温かく迎えてくれた。


「水瀬社長、本日はありがとうございます」


「こちらこそ、ありがとうございます。子どもたちの教育に、少しでも貢献できれば嬉しいです」


図書室に案内されると、子どもたちが待っていてくれた。


「社長さん、こんにちは!」


「こんにちは、皆さん」


私は、子どもたちと一緒に、本を図書室の棚に並べた。


「社長さん、会社って何ですか?」


一人の男の子が、質問してくる。


「会社っていうのは、みんなで力を合わせて、良いものを作ったり、サービスを提供したりする場所よ」


「へー、すごい!」


子どもたちの純粋な反応に、私は微笑む。


帰り際、校長先生が感謝の言葉を述べてくれた。


「水瀬社長、本当にありがとうございました。子どもたちも、とても喜んでいます」


「こちらこそ、ありがとうございます。これからも、地域社会に貢献していきたいと思います」


その夜、私は母と夕食を取った。


「莉央、今日、小学校に行ったんですってね」


「うん。子どもたちに本を寄贈してきたの」


母が、嬉しそうに微笑む。


「それは素晴らしいわね。お祖母様も、きっと喜んでいるわよ」


「お母さん……」


「莉央、あなたは本当に立派になったわ。社長として、社会に貢献している」


母の言葉に、私は胸が熱くなる。


「でも、まだまだよ。これからが本番なの」


「そうね。でも、無理はしないでね」


「わかってる。ありがとう、お母さん」


ベッドに横になり、天井を見つめる。


社長就任から一ヶ月。


新しい経営方針を発表し、様々な取り組みを始めた。


株価も上昇し、社内外から高い評価を得ている。


しかし、私は気を引き締める。


これからが、本当のスタートだ。


私は、祖母のペンダントを握りしめる。


「おばあちゃん、新しい体制が船出したよ」


ペンダントが、優しく輝く。


明日も、前を向いて進む。


社長として、会社を成長させていく。


従業員と共に、株主と共に、社会と共に。


それが、私の使命だ。


スマートフォンが振動する。


柊からのメッセージだ。


『莉央さん、今日も本当にお疲れ様でした。小学校訪問、素晴らしい活動ですね。週末のドライブ、楽しみにしています。愛しています』


私は微笑み、返信する。


『ありがとう、柊さん。週末、私も楽しみにしています。愛しています』


メッセージを送信し、私は静かに目を閉じる。


新体制は、順調に船出した。


これからも、一歩ずつ、前に進んでいく。


未来へ。



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