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第61話『社長、水瀬莉央』


社長就任式は、次期社長選任から一ヶ月後の、四月一日に行われることになった。


新年度の始まりと共に、新しい体制をスタートさせる。


それが、父の意向だった。


三月は、準備に追われた。


就任式の段取り、メディア対応、社内外への通知、そして引き継ぎ業務。


父と私は、毎日のように長時間にわたって協議を重ねた。


「莉央、社長になっても、焦る必要はない。まずは、現在の経営方針を継続し、会社を安定させることが大切だ」


父が、アドバイスしてくれる。


「はい、お父さん。まずは、足元を固めます」


「それから、重要な決断をする時は、必ず経営陣と協議してくれ。一人で抱え込まないこと」


「わかりました」


三月末、就任式の最終準備が整った。


会場は、本社の大会議室。


招待客は、全社員、取引先の経営者たち、そしてメディア関係者。


合計で三百名以上が出席する予定だった。


四月一日の朝、私は早めに会社に向かった。


スーツは、新調した紺色のパンツスーツ。


祖母のペンダントを胸元に着けて、鏡の前に立つ。


「おばあちゃん、今日、私は社長になります」


ペンダントが、朝日に照らされて輝く。


会社に着くと、既に多くのスタッフが準備をしていた。


「社長、おはようございます!」


若い社員が、嬉しそうに声をかけてくる。


「おはよう。……あ、まだ副社長よ。社長になるのは、午前十時からだから」


私の言葉に、彼女は笑顔で答える。


「もう、気持ちは社長ですよ!」


午前九時半、招待客が続々と到着し始めた。


取引先の経営者たちが、次々と祝福の言葉をかけてくれる。


「水瀬副社長、いや、もうすぐ社長ですね。おめでとうございます」


「ありがとうございます。これからも、よろしくお願いいたします」


メディア関係者も、多数訪れていた。


鏑木記者も来てくれていた。


「水瀬社長、おめでとうございます。今日は、大きく報道させていただきますよ」


「ありがとうございます、鏑木さん」


「三十歳での社長就任。しかも女性。これは、業界でも大きな話題になります」


鏑木記者の言葉に、私は少し照れる。


「プレッシャーですね」


「いえ、期待です。頑張ってください」


午前十時、就任式が始まった。


大会議室には、三百名以上の招待客が集まっていた。


壇上には、父と私が並んで座る。


司会者が、式の開始を告げる。


「ただいまより、水瀬コーポレーション社長就任式を執り行います」


まず、父が退任の挨拶を行った。


「皆様、本日はお忙しい中、お集まりいただき、誠にありがとうございます」


父の声は、穏やかで力強い。


「私、水瀬健太郎は、本日をもって、社長を退任いたします」


会場が、静まり返る。


「振り返れば、三十五年前、私はこの会社を創業しました。小さな町工場から始まり、多くの方々のご支援により、ここまで成長することができました」


父の目には、涙が浮かんでいる。


「しかし、時代は変わります。新しい時代には、新しいリーダーが必要です」


父が、私を見る。


「娘の水瀬莉央を、次期社長に指名しました。彼女は若いですが、実力があります。そして、何より、人を大切にする心を持っています」


「どうか、莉央を、皆様のお力で支えてください。よろしくお願いいたします」


父が、深く頭を下げる。


会場から、大きな拍手が起こる。


次に、私の番だった。


私は、深呼吸をして、壇上に立った。


三百名以上の視線が、私に集まる。


緊張で、心臓が激しく鳴る。


しかし、私は恐れない。


「皆様、本日はお忙しい中、お集まりいただき、誠にありがとうございます」


私の声が、会場に響く。


「私、水瀬莉央は、本日より、水瀬コーポレーションの社長に就任いたします」


会場から、拍手が起こる。


「まだ三十歳の若輩者ですが、全力を尽くす覚悟です」


私は、一呼吸置いて、続ける。


「私が目指すのは、従業員、株主、取引先、全ての人と共に成長する会社です」


「従業員が幸せに働ける環境を作り、株主の信頼に応え、取引先と共に発展していく。そして、社会に貢献する」


「そんな会社を、皆様と共に築いていきたいと思います」


私の言葉に、社員たちは深く頷く。


「この一年間、私は副社長として、多くのことを学びました」


「そして、何より学んだのは、一人では何もできないということです」


「父、母、本間常務、そして全ての社員の皆さん。皆さんの支えがあったからこそ、今の私があります」


私の声が、少し震える。


「これからも、皆さんと共に、前を向いて進んでいきます」


「どうか、お力をお貸しください。よろしくお願いいたします!」


私が深く頭を下げると、会場は大きな拍手に包まれた。


「おめでとうございます、社長!」


「頑張ってください!」


「私たち、全力でサポートします!」


社員たちの声が、会場に響き渡る。


私は、涙をこらえながら、顔を上げた。


客席を見ると、父が優しく微笑んでいる。


その隣には、母が涙を拭いている。


そして、後方の席には、柊が誇らしげに私を見つめている。


私は、心の中で感謝する。


皆さん、ありがとう。


式が終わると、多くの人が私に声をかけてきた。


「社長、おめでとうございます!」


「ありがとう」


「感動的なスピーチでした」


「ありがとうございます」


本間常務が、握手を求めてきた。


「社長、おめでとうございます。これからも、全力でサポートします」


「ありがとうございます、本間常務。本当に、頼りにしています」


取引先の経営者たちも、次々と祝福してくれた。


「水瀬社長、おめでとうございます。素晴らしいスピーチでした」


「ありがとうございます。これからも、よろしくお願いいたします」


「こちらこそ。若い力で、業界を盛り上げてください」


メディアの取材も殺到した。


鏑木記者が、マイクを向けてくる。


「水瀬社長、三十歳での社長就任、いかがですか?」


「プレッシャーは大きいですが、やりがいを感じています」


「女性社長として、どのような会社を目指しますか?」


「性別は関係ありません。従業員を大切にし、社会に貢献する会社を目指します」


私の答えに、鏑木記者は満足そうに頷いた。


午後、式典が終わると、私は両親と共に、父の……いや、今は前社長の部屋に向かった。


「お父さん、お母さん、今日は本当にありがとうございました」


父が微笑む。


「莉央、お前は立派だったぞ。あのスピーチ、素晴らしかった」


母も、涙を拭きながら言う。


「莉央、あなたは本当に成長したわね。お祖母様も、きっと喜んでいるわ」


「お母さん……」


父が、真剣な表情で言う。


「莉央、これからは、お前が社長だ。私は、もう口出ししない」


「でも、困った時は、いつでも相談してくれ。私は、いつでもお前を支える」


「ありがとう、お父さん」


私は、両親を抱きしめた。


「お父さん、お母さん、本当にありがとう。私、頑張ります」


夕方、柊が私の新しいオフィス……社長室を訪れた。


「莉央さん、おめでとう。本当におめでとう」


柊が、私を抱きしめてくれる。


「ありがとう、柊さん」


「今日のスピーチ、素晴らしかった。会場中が、あなたに魅了されていた」


「そんな……照れちゃう」


柊が、私の手を握る。


「莉央さん、これからも、一緒に歩んでいきましょう」


「はい」


「社長として、妻として」


柊の言葉に、私は顔を上げる。


「妻……?」


「ああ。近いうちに、正式にプロポーズするから」


柊が、いたずらっぽく微笑む。


私は、恥ずかしくて、柊の胸に顔を埋めた。


その夜、私は自宅で、一人で祖母のペンダントを見つめていた。


「おばあちゃん、今日、私は社長になりました」


ペンダントが、優しく輝く。


「これからも、見守っていてね」


翌朝、新聞各紙は、私の社長就任を大きく報じていた。


『水瀬コーポレーション、最年少女性社長誕生 三十歳・水瀬莉央氏が就任』


『新時代のリーダー 水瀬莉央社長が掲げる"共に成長する経営"』


記事は、私の就任スピーチと、経営方針について、詳しく報じていた。


会社に着くと、社員たちが祝福してくれた。


「社長、おはようございます!」


「おはよう」


「新聞、見ましたよ。すごいですね!」


「ありがとう。でも、これからが本番よ」


午前中、最初の経営会議が開かれた。


出席者は、私、本間常務、田中部長、佐藤部長、山田部長。


「それでは、第一回の経営会議を始めます」


私が議事を進行する。


「まず、今期の経営方針について、皆さんと協議したいと思います」


本間常務が、資料を配布する。


「社長、こちらが前期の業績報告です」


私は、資料に目を通す。


売上高は前年比一〇八パーセント、営業利益は一一二パーセント。


順調に成長している。


「素晴らしいですね。皆さんの努力のおかげです」


「ありがとうございます、社長」


「今期は、さらなる成長を目指します。具体的には、三つの柱を考えています」


私が説明する。


「第一に、従業員満足度のさらなる向上。第二に、国際事業の拡大。第三に、新製品の開発」


「これらを通じて、持続可能な成長を実現していきます」


経営陣は、真剣な表情で頷く。


会議が終わった後、本間常務が言った。


「社長、素晴らしい方針です。私たちも、全力でサポートします」


「ありがとうございます、本間常務」


「ただし、無理はしないでくださいね。社長の健康が、会社の宝ですから」


本間常務の言葉に、私は微笑む。


「わかっています。気をつけます」


その日の夕方、私は社長室で、窓の外を見つめていた。


東京の夕景が、眼下に広がっている。


社長になった。


三十歳で、この大きな会社のトップになった。


責任は重い。


しかし、私は恐れない。


なぜなら、私には仲間がいるから。


家族がいるから。


柊がいるから。


そして、祖母の想いが、私を支えているから。


私は、深呼吸をする。


明日も、前を向いて進む。


社長として、会社を成長させていく。


それが、私の使命だ。


スマートフォンが振動する。


柊からのメッセージだ。


『莉央さん、今日も本当にお疲れ様でした。社長としての第一日目、素晴らしかったです。これからも、一緒に歩んでいきましょう。いつも、あなたのそばにいます。愛しています』


私は微笑み、返信する。


『ありがとう、柊さん。あなたがいてくれるから、私は頑張れます。これからも、一緒にいてください。愛しています』


メッセージを送信し、私は静かに決意を新たにする。


社長、水瀬莉央。


これから、新しい時代を切り拓いていく。


従業員と共に、株主と共に、取引先と共に。


全ての人と共に、成長していく。


それが、私の約束だ。


私は、祖母のペンダントを握りしめる。


「おばあちゃん、見守っていてね。私、頑張るから」


ペンダントが、優しく輝く。


明日も、前を向いて進む。


未来へ。



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