激闘の果てに
──静寂が訪れた。
瓦礫が転がる学園の中庭。その中心に、二人の男が倒れている。
一人は、全身ズタズタになったアレク。
そしてもう一人は、彼を打倒した淡海マヒロ。
マヒロは息を荒くしながら、力なく地面に倒れ込んだ。全身が鉛のように重い。さっきまで動かせていた拳が、まるで自分のものではないかのように感じる。
だが──勝ったのだ。
イザヤが命を懸けて縛ったアレクを、最後の力を振り絞って打ち倒した。
「マヒロ!!」
仲間たちが駆け寄る。
キョウゴが倒れ込んだマヒロを支え、カイが肩を貸す。ルナも必死に手を伸ばし、マヒロの顔を覗き込んだ。
「おい、立てるか!? しっかりしろ!」
「……ああ、なんとか……」
声を出すだけで喉が焼けつくようだった。それでも、マヒロは弱々しく笑った。
しかし──
ザリ……
小さな音が、場の空気を一瞬にして凍らせた。
仲間たちが振り向く。
そこには──まだ立ち上がろうとするアレクの姿があった。
「なっ……!?」
キョウゴが驚愕する。
アレクの顔は血にまみれ、膝は震えていた。
それでも、彼は諦めていなかった。
「……まだだ……終わらせねぇ……」
ゆっくりと、一歩ずつ歩み寄るアレク。
そして、マヒロを見下ろし、最後の力を振り絞るように拳を握り込む。
「──これで終わりだ、淡海マヒロ」
誰もが息を呑んだ。
マヒロは今、動けない。
キョウゴもカイもルナも、もう限界を超えていた。
誰も、止められない──そう思われたその瞬間。
◇◆◇◆◇
「もう十分だろう」
──その声は、至極落ち着いていた。
スーツに身を包み、整った黒髪を撫でつけた男。
知的な眼鏡をかけた彼は、あくまで穏やかな笑みを浮かべていた。
「七神……さん!?」
マヒロが驚愕する。
アレクの足が止まる。
そのまま、膝から崩れ落ちた。
まるで糸が切れた操り人形のように、力なく倒れるアレク。
静寂。
学園に満ちていた圧倒的な殺気が、まるで嘘のように消え去った。
「よくやったね、君たち」
七神アキトは、にこやかに微笑んだ。
その言葉は、場の空気を決定的に変えた。
「まさか、こんな事態になっているとは思わなかったよ。最後まで戦ってくれて本当に助かった。ありがとう」
まるで親しい部下を労う上司のように、彼はマヒロたちを見渡した。
──そして。
黒いスーツに身を包んだ人間たちが、次々と学園へと入ってくる。
「っ……!?」
カイが驚きの声を上げた。
それは、国家機関の特殊部隊。
武装した兵士たちが、アレクの部下たちを次々と取り押さえていく。
七神は微笑を崩さず、淡々と答えた。
「遅くなって本当に申し訳なかった。だけど、君たちの能力の素晴らしさを再確認できた。結果は申し分ないよ」
その言葉に、マヒロの拳が震えた。
「……七神さん、すみません」
彼は口を開いた。
「俺たちは誰も犠牲にはなりませんでした。でも……無関係な生徒が山ほど犠牲になってしまったんです」
マヒロの顔に、痛ましい後悔が浮かぶ。
七神は、優しく微笑んだ。
「気にすることはない。君たちは最善を尽くした。それでいいんだよ」
七神は、崩れ落ちたアレクへと歩み寄る。
「残念だったね。どうやら、君達の目的は果たせないようだ」
七神の言葉に、アレクは苦しげに顔を上げた。
「……お前みたいな人間がいるから、俺たちは奮起したんだ……」
その瞳には、怒りと、悔しさと、そして──ほんの僅かな哀しみが滲んでいた。
「……あいつらをどうする気だ? 利用できなくなったら、また捨てるのか?」
七神は、アレクの顔にそっと顔を近づけた。
そして、マヒロたちには聞こえない声で、静かに囁いた。
「お前たちと彼らは違うんだ」
七神は冷酷に微笑んだ。
「彼らが僕についた時点で、僕の勝ちは決まったようなものだよ」
「……貴様ッ!!」
アレクが叫んだ、その瞬間だった。
◇◆◇◆◇
──時間が、巻き戻る。
学園の崩壊した校舎が元に戻り、破壊された瓦礫が空中で組み上がる。
傷ついた生徒たちが、次々と元の状態へと戻っていく。
──まるで、この戦いが最初から“なかった”かのように。
七神アキトのタイタニア能力──「クロノス」が発動した。
◇◆◇◆◇
「──ハッ!!」
マヒロは、息を切らしながら目を覚ました。
……そこは、いつもの学園だった。
教室には、何も知らない生徒たちが談笑している。隣の席は空席で、ルナはいなかった。
「おい、カイ!」
マヒロは食い気味に尋ねた。
「アレクは!? 戦いはどうなったんだ!?」
「……アレク? 誰だそりゃ?」
カイは訝しげに首を傾げる。
マヒロの心臓が、一気に冷えた。
「……サクラは!? どこにいる!?」
マヒロは教室を飛び出し、サクラのクラスへ向かう。
──だが、誰も彼女のことを覚えていなかった。
サクラの席すら、最初から存在しなかったかのように、誰の記憶にもなかった。
◇◆◇◆◇
マヒロは絶望し、校門へ向かう。
──そこで、彼女が立っていた。
月瀬ルナ。
「ルナ……?」
彼女は、マヒロをまっすぐに見つめた。
そして、静かに言った。
「淡海さん、サクラさんを私達で取り戻しに行きましょう」
マヒロは目を見開く。
そして、僅かに口元を歪め、静かに答えた。
「……ああ」
──そして二人は、サクラを救うために歩き出した。
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ここまでお読み頂きありがとうございました!
常に応援して頂けて、毎回のモチベーションとなり連載を続けてこれました。
とてもとても感謝しております。
この話は一旦ここで区切りを付けますが、これまでの話をもっと手直しを加えた上で、いつか続きを執筆再開したいと考えてます!
これからも色々なお話を書いていきたいと思っていますので、これからも宜しくお願いします!
ありがとうございました。 雨宮悠理




