歪む空間、始まる攻防
イザヤが拡声器を口元に持ち上げた瞬間、空気が変わった。
視界が揺らぎ、足元がふわりと浮き上がるような感覚に襲われる。マヒロは咄嗟に膝を曲げ、重心を低くしてバランスを取った。だが、生徒たちはその異常に対応できず、あちこちでよろめき声を上げる。
「さて――そろそろ楽しませてもらおうか?」
イザヤが拡声器を掲げた瞬間、異様な緊張感が走った。
次の瞬間、地面全体が揺れるように歪んだ。床と壁の境界が曖昧になり、上から差し込む光が滲む。生徒たちは、その異常さに次々と悲鳴を上げた。
「ひっ、何これ!?」
「足が、浮いて……!」
先程マヒロに詰め寄っていた生徒の一人が、不自然な角度で宙に浮き上がった。顔は恐怖に引き攣り、力なく宙を泳ぐ手足が必死にもがいている。
「おい、助け――!」
その叫びは、途中で掠れて消えた。空間にねじ込まれたような不気味な音とともに、生徒の体がイザヤの方向に引き寄せられていく。
「っくそ!」
マヒロは咄嗟に駆け出し、生徒の進路に立ちはだかった。
宙に浮いていた体が、次の瞬間、重力を取り戻したように急激に落下する。
それを見たマヒロは迷わず両腕を広げ、勢いよく突っ込んできた体を抱き留めた。
「ぐっ……!」
思わず呻き声が漏れる。信じられないほどの重さ――まるで彼の体重が数倍になったかのようだ。
「淡海……君……」
震える声が聞こえた。抱き留めた男子生徒は恐怖で顔が蒼白になり、全身が小刻みに震えている。
「怪我してねえか!」
マヒロが短く問いかけると、男子生徒はぎこちなく首を振った。
「た、助けてくれ……!」
その声を皮切りに、周囲にいた生徒たちも次々と悲鳴を上げる。
「淡海君、私も……!」
「お願い、助けて!」
さっきまでマヒロを怖がっていた生徒たちが、一斉に彼に縋りつくような目で助けを求めてきた。その様子を見て、イザヤが薄ら笑いを浮かべる。
「ふーん、意外だね。君、普段は怖がられてるんじゃないの? でもこういう状況になると、やっぱり頼られちゃうんだねえ」
挑発めいた口調に、マヒロの眉間が僅かに寄る。
「……てめえ、ふざけるなよ」
イザヤが再び手を振ると、別の生徒たちが宙に浮かび上がる。今度はその動きが速く、真っ直ぐマヒロの方に飛んできた。
「くっ!」
マヒロは最初の生徒を地面に下ろすと、次に飛んでくる生徒の方に向かって飛び出した。
まるで投石機から放たれた弾のようなスピードだ。マヒロは全身に力を込め、飛び込んでくる体を両腕で受け止めた。
「ぐあっ……!」
衝撃が全身に伝わり、腕が軋む。だが、その生徒が無事であることを確認すると、すぐに次の生徒を追うために動き出した。
次々と降り注ぐ「人間の雨」。マヒロはその全てを受け止め、守り続ける。
「へえ、頑張るじゃん。でも――いつまで持つかな?」
イザヤが拡声器越しに軽口を叩く。その言葉通り、マヒロの体力は着実に削られていった。
「……薄ら笑いしやがって!こんなことして何が楽しいんだよ!」
マヒロが歯を食いしばりながら叫んだ。
イザヤはその問いに、肩をすくめながら応じる。
「楽しいかどうかなんて関係ねえよ。ただ――これが俺のやり方なんでね」
「……お前のせいで、関係ない奴らが巻き込まれてんだぞ!」
マヒロの声が一段と大きく響く。拳を強く握り締め、血管が浮かび上がるほどだ。
「ふふ、だったら助けてみせれば? それが君の“正義”ってやつだろ?」
イザヤは飄々とした態度を崩さない。その言葉に、マヒロの中で怒りがさらに燃え上がる。
「ふふ、そろそろ疲れてきたんじゃないの?」
イザヤの声が拡声器越しに響く。彼はその場から一歩も動かず、まるで観客席に座っているかのような気楽さだった。
「くっ……!」
マヒロは荒い息を吐きながら縦横無尽に走り回る。イザヤはわざと焦らすように指をゆっくり鳴らす。マヒロはとっくに力を解放していたが、無関係な生徒を傷付けまいと余計なエネルギーを使っていた。
「あー、暇やな。そろそろ飽きてきたわ。お前期待外れやわ」
イザヤはわざとらしく大きく欠伸する。
「やることないから、そろそろ終わりにするわ。俺の素晴らしき力、"アーカイブ"でね」
「…………なんだと」
イザヤは指を鳴らすように手を振り、周囲の歪みがさらに激しくなった。
マヒロの目の前で、また地面が波のように揺れる。そして突然、別の生徒たちがうねる霧に引き寄せられた。
「おっとっと、そっち行っちゃダメだろ?」
マヒロは歪んだ空間の中で足を踏みしめ、再び生徒たちを助けようと動き出す。
「いいねえ、その必死な顔。でもね、これだけじゃないんだよ」
イザヤが指を振ると、霧がどんどんと深くなり、白くふわふわしていた蛇のような霧は、よりその造形を深く細かくしていく。
「さあ、もっと見せてくれよ。君の限界ってやつをさ」
みなさん、こんにちは!いつも読んでいただきありがとうございます!
こうして皆さんに物語をお届けできるのは、本当に幸せなことだと感じています。感謝の気持ちでいっぱいです!
この物語は定期的に更新を目指しており、皆さんと一緒に成長していきたいと考えています。少しでも続きが気になるような展開をお届けできたら嬉しいです!
ちなみに、途中で「あれ?前に読んだ内容がちょっと変わってる?」と感じることがあるかもしれません。それは物語の本筋を変えない範囲で、文章や展開をブラッシュアップしているからです。より楽しんでいただけるよう、細かい部分をちょこちょこ改稿するのが作者の趣味なんです(笑)。
そして最後に……
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それでは、今日も物語の世界へどうぞ!
お楽しみいただけますように!




