表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男子Aの日常と復讐譚  作者: 魚妻恭志郎
9/28

放課後デートのお誘い

昼休み。

実はこの学校、屋上や非常階段などが昼食時に開放されるため、そこで食事をする生徒が多かったりする。

が、やはりそういうところは人気スポットらしく、上級生を中心に飯食ってる人がわんさかいるとの事だ。

調べたのはぼくではない、ぼくが休んでいる間につるんでいた武と円治だ。

そんなわけでぼくはいま、その武と円治と飯を食っている最中である。

とりあえず今日はコンビニで握り飯などを買ってきたのでそれをもぐもぐと口へと運ぶ。


「最近はツナマヨネーズも値段上がったよな。好きなんだがなー」

「いやそんなことはいい。幹に武、お前たちさっき姫川さんと話してただろ」


でかい土方弁当をガツガツ頬張りながら円治が恨めしそうに言ってくる。

はて。

なんか円治を怒らせるようなことをしただろうか。


「なぜおれを呼ばなかった、んん!?」

「なんだ話に混ざりたかったのか。寄ってくればよかったのに」


イケメンらしくサンドイッチなんて食べながら武が円治へ何の気なしに言うと、たちまちこの野球部は怒り出すわけだ。


「簡単に言うな!おれみたいな暑苦しいのが近づいたら・・・セクハラだろ!」

「考えすぎネガティブー」

「じゃあ呼ばない方が良かったんじゃないのか?」

「それはそれで腹立つ」

「どうすりゃいいんだよ・・・」


なんだか面倒くさい絡み方をしてくる円治だ。

こういう時はひたすら喋らせて適当に相槌を打ってるのが吉だな。


「つまりだ、お前らが女の子と喋ってるところにおれを呼ぶ。おれは持ち前のやれやれ系オーラを出しながら輪に入っていくわけだ。するとどうだ、おれの熱い心に触れた女子は胸をキュンとさせて恋に落ちて―――」

「武、後でプリン買いに行こうぜ」

「なんだデザート買い忘れたのか?」

「聞けよお前ら!!」


ガバガバで気持ち悪い話を聞いているのが苦痛で無視していたら怒られた。

おまえネガティブなのかポジティブなのかどっちなんだよ。

見た目熱血系運動部なのに陰キャムーブすんな。


「とにかく!この一週間で武が女の子に興味が無いのは分かった。しかも幹も同じく女の子に興味がない。そうだな?」

「だから生物的に最低限の興味は―――」

「いいって幹。こうなると円治は長いぞ、生返事だけしてればいい」

「あっそう」


こそこそとやりとりするぼくと武。

なんかアレな奴を友達にしてしまったなって感じだ。


「お前ら二人ともイケメンだというのに女に興味がない、だがその顔につられて女の子は寄ってくる!さながら電信柱の電球に群がる羽虫のように!」

「俺たちがイケメンというよりはおまえのそういうところがモテないだけだと思うぞ」

「え、どういうところ?気になる」

「武・・・」

「しまった、つい」


自分で言っといていらんツッコミを入れてしまった武。

気持ちが分からなくもないが。

まぁそれはそれとして話を戻させて。


「つまり!武と幹に寄ってくる女子をおれが口説いていけば、いつかはマイプリンセスに出会えるという寸法よ!」


あー数撃ちゃ当たる的な。

ぼくがイケメンかどうかはどうでもいいけど、確かに武はイケメンだから女子も寄ってくるかもね。

話だけ聞いてれば完璧なんじゃないですかね、無理だということに目をつむれば。

だってさ。


「円治、女子と話せるの?」

「むり。女の子が近くにいるとおれ、キュンキュンしちゃって話せない」


いちいち擬音が気持ち悪い奴だなぁ。

そんな風に思いながらペットボトルのお茶を飲みながら円治を眺めていると、奴はでかいメンチカツをおかずに白米を勢いよくかきこみ、ぼくらへ向けてニヤリと笑った。


「だからお前らが間を取り持ってだな?」

「「ご馳走様でした」」


ぼくと武は同時に両手を叩いてぺこりとお辞儀をする。

お断りの意味を込めて、だ。

面倒くさいことこの上ない。女と話したいならそれなりに練習でもしろ。

いきなりホームラン打とうとするな、まずは塁を埋めろ。

などとしょうもない会話を終えて後片付けをしていると。


「ちょっといいかしら?」


と、話しかけてきたのは隣の席の姫川 撫子さんだ。

さっきまではいなかったから、どこか別のところで食事していま帰ってきたのだろう。

その隣にはもうひとり女子がいて、なんだかもじもじと居づらそうにしている。


「ひゃああ!」


これは女子ではなく円治の悲鳴だ。

心の準備なしに女の子ふたりも目の前に現れたもんで、曰くキュンキュンしちゃっているのだろう、武の背中にでかい図体を隠そうと必死だ。


「なんか用かい、いいんちょ」

「だからその呼び方はやめてってば・・・いっそのこと呼び捨てのほうがマシだわ」

「いや、撫子って呼ぶほど親しくないし・・・」

「名字でいいでしょう!喧嘩売ってるわけ!?」


額に青筋一つ、突っかかってくるいいんちょ。

からかうと面白いんだよなこの人・・・などとぼんやり思っていると、その隣に控えていた女子がいいんちょを鎮めにかかった。


「お、おちついて撫子!どうどう」

「誰が馬か!」


なんだかいいんちょと仲良さげな雰囲気のその女子。

あれ、そういえばこの人、どっかで会ったような・・・。

んん?と訝し気に見ていたのに気づいたのだろう、襟足が肩にかかるくらいの髪の長さで、頭の横にリボンをつけたその女子はぼく向き合うと、


「こ、こんにちは愛葉君。渡部 真夏です。お、覚えていますでしょうか」


と、名乗られてようやく思い出した。

あーあー、入学式の日にぶつかってきた女子か。わたべさん。

いや薄情と言われても仕方ないけどすっかり忘れてた。

美奈子の事ばかり考えてたし、その後の出会い―――武とか保険医の熊田教諭とかピアノの柊先輩とか、和弥と美奈子の・・・いや思い出すまい。

とりあえず入学式はインパクトが多すぎて、薄味だった渡部さんのことは完全にぼくの中から抜けてた。


「や、やっぱり忘れてるよね。私のことなんか・・・」

「いやいや今思い出した。ごめんわたべさん、すみませんでした覚えてます」

「え、ほ、ほんと?よかったぁ!実はあの後、撫子から愛葉くんが倒れたって聞いて、心配してたんだぁ」


うぐ、こんなところまでぼくの身を案じてくれてる人がいたとは。

忘れてて本当にもうしわけない。何か埋め合わせでも出来れば。

いや、そんなところまで埋め合わせを考えてたら武やいいんちょには何を払えばいいんだって感じだが。


「ご心配痛み入るけど、もう大丈夫。ありがとう」

「うんっ!」


ぱあっと明るい笑顔が胸にチクリと刺さる。

そんなに派手な娘じゃないけど普通にいい子だな。誰だ忘れてたやつ。ぼくだ。

いたたまれなさに頭をかいていると、背後からなんか凄い威圧感が。

武?いや、違う。あの正義超人はこんな気配出さない。

じゃあもう円治しかいないじゃん。

ちら、背中越しに振り返ると、血涙流してぼくに凄んでた。

おいおい。

目が怖いよ。その女紹介しろって文字が浮かんでいるようだよ。

まぁ折角の良い子を売りに出すようで気が引けるが、すまないわたべさん。


「と、ところでわたべさ・・・ん!?」

「?」


い、威圧感、背後だけじゃない!

このプレッシャー、どこだ!?横!?つまり。


「・・・・・・・・・」


いいんちょだ。

変な男にわたべさんを紹介したら許さんと、椅子に腰かけて足組んで片手で頬杖突きながらオーラで文字を書いている!

えええ噓だろなんだこの状況。

背後から暑苦しい男が、横からは物理的スーパービンタが待ち構える。

唯一の味方であるはずの武は傍観の構え・・・っていうかお前笑ってるだろ!

わたべさんは何も気づかずに首を傾げているし、それ天然じゃなかったらコロコロするぞ。


「あの、えっと、そのだね」

「?うん?」


どうする、どうする、どうすんの。

選択肢は三つ。


1.円治を無視。いいんちょとわたべさんの好感度を上げる。やっぱり女の子って良い☆

2.わたべさんを円治に紹介する。男の友情って最高だネ!

3.チャイムが鳴るまで無言。どっちからも責められる。


ははは、おいおい。

3はねぇよなんだその選択。マゾか。

そもそもいいんちょと円治の好感度なんて考えてどうすんだって話だよ。

だったら1も2も却下だ、馬鹿馬鹿しい。

先生曰く、人生における選択肢は無視しろ。


「・・・放課後、みんなでどこか遊びに行かないか?」


いいんちょが、円治が、武が、わたべさんが驚きの表情を作る。

どうだ見ろこの見事な折衷案。

武にしろいいんちょにしろ、他人事でいられると思うなよ。

ぼくは全てを巻き込んでいくぞ。守るべきは美奈子のみ、いつだってそうだった。

今更生き方は変えられんなァ!


「うんっ、いいよ!ね、撫子!」

「ぅえっ!?」


まさか自分も輪の中に入れられると思っていなかったらしいいいんちょが目をギョロギョロと泳がす。

ふん、何のつもりか知らないけど、友達の友達増やそうってんなら自分も腹を切れって話さ。

この場においてダメージが無いのは、特にヒマだから全然構わないぼくと、


「よし、じゃあ放課後までにプラン練るか!な、円治!」


などと爽やかスマイルを作ってる武の二人だ。あ、わたべさんもダメージ無いか。

親友と思われるわたべさんの頼みを断り切れずに頭をかかえてるのはいいんちょだ。

ざまぁ味噌漬け。

女子がガン飛ばしだけで天下取れるのは中学までだぜ。

で、肝心の円治と言えば。


「お、おれ、今日、部活が」

「サボれ」


この流れで敵前逃亡は許されないからな。

部活が本当だろうと嘘だろうと来てもらうぞ。

おまえと対等に話すにはおまえの女慣れが急務だということが判明したからな。

気持ち悪い妄想を垂れ流す悪癖はここでカットだ。

ああ楽しくなってきたぞ。


「軽くハンバーガーやスタバでも良いけど、ボウリングやカラオケもいいな。駅前ならゲーセンもあるし、バッティングセンターってのもありか?」


ノリノリでスマホをいじくる武。

わかるわかる、こういう時親友ポジって気楽で楽しいよね。

ぼくは元来男子Aだから共感しちゃうね。


「ちょ、ちょっと待ちなさいっ!私はまだ行くなんて一言も・・・!」

「え、撫子こないの?」

「んぐ・・・」

「親友の女の子を一人にするつもりかいいんちょ」

「・・・あああもう!分かったわよ!行けばいいんでしょ!!」


はい、ヒロインポジション二枠確保。

あとは主人公ポジを宥めすかすだけだ。


「じゃ、きっちりサボる口実作っとけよ円治。プランニングは俺と幹に任せとけ!」」

「まかせろー」

「ちょちょちょおいおいおい!お、おれ、こここ心の準備が!」

「そんなもん放課後までに整えとけー」

「とけー」


さぁ大変なことになってまいりました。

幹くんを責めようとするとどうなるかわからせる会の発足だ。

楽しい楽しい放課後が待ちきれないね!


何も知らずに笑顔を浮かべているわたべさん。

苦虫を嚙み潰したような顔で虚空を見つめるいいんちょ。

とにかく落ち着きなく鼻息だけは荒い円治。

今時の女子高生みたいに放課後の予定でキャピキャピ言ってる武。

さて。

この五人での初めてのデート、どうなることやら。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ