27.癒やしを求めて集落へ
「お、ハルカさんにモルエさん。こんちはです」
集落へ入ると、すぐの大通りで泣沢女ちゃんに出会った。
相変わらず、その目元からは滝のような涙を放出している。
「こんにちは。ちょうど良かったです泣沢女さん。今日も少し、いいですか?」
「涙ですね? もちろんなのです。じゃあ、一緒に手水舎へ行くのですよ」
モルエは最近、定期的に集落へ行っては、泣沢女ちゃんに涙を分けてもらっている。
それはもちろん、毎日淹れてくれるお茶の材料に使うためだ。
涙でできたそのお茶は集落内でも評判で、材料提供者の泣沢女ちゃんも気に入ってくれている。
今ではモルエの良い取引相手だ。
モルエもなかなかやるね。
泣沢女ちゃんの頭の上では、相変わらず白蛇ちゃんが丸くなっていた。
今は起きているので、頭を上げて、たまに舌をチロチロと動かしている。
……私が今日、モルエについて集落に来た目的。
それは何を隠そう、白蛇ちゃんの様子を伺いに、というものだ。
ふいに寂しい気持ちになってないか。
……は、ぶっちゃけ建前。
泣沢女ちゃんはお世話を約束してくれたし、実際いつも、それこそ常に一緒にいるようだしね。
「白蛇ちゃーん、元気してたかなあ?」
声をかけると、つぶらな瞳でもって反応してくれる。
うん……癒やしだ!
「相変わらず、ゆるゆるだね~」
「可愛いですね」
本音はというと……白蛇ちゃんを愛でに!
そして、こちらも癒やさるために!
私は今日、この集落へと降り立ったのだ!
モルエのおいしいお茶を飲みつつ惰眠を貪る……それももちろん、とても癒やしタイムなんだけど、こちらもそれに匹敵する癒やしタイムなのだ。
「よしよし、いい子だねぇ」
「きゅるるー」
「あっ、鳴きましたね!」
普段はわりとクールなモルエも、この時ばかりは年相応にはしゃいでいる。
白蛇ちゃんも孤独を覚えず、私たちも和む……。一石二鳥じゃない?
唯一の心配は、白蛇ちゃんにウザがられていないかってところだ。
ここに来るたびに可愛い可愛い言ってるんだもんね。
「ハルカさん、モルエさん。こんにちは~」
手水舎前に着くと、そこにはまかみさんが立っていた。
…………何やら、茶色い毛玉を引き連れて。
モフモフだ。
モフモフの塊。
「モフモフですね……」
「うん。あれはモフモフだわ」
もう「モフモフ」がゲシュタルト崩壊を起こしてる。
五、六個あるその毛玉は、よく見れば目と鼻、そして小さな手足、しっぽまである。
「あの、まかみさん? そのモフモフたちはいったい……」
「ああ、この子たちは、わたくしの使役する精霊たちです。ほら、ご挨拶して」
まかみさんの声と同時に、その毛玉たちのしっぽがふるふると動いた。
精霊というけど……見た目はそのまんまイヌだね。
……現世でも、ポメラニアンとかでこんな感じの子がいそうだ。
「最近よく、白蛇ちゃんの遊び相手になってもらってるのですよ」
そう言うそばから、精霊たちの方へ白蛇ちゃんが近寄っていき、そのままじゃれ合いはじめた。
どうやっても、ぬいぐるみたちがコロコロしているようにしか見えないんですが……。
本日。
癒やしを求めてやってきた集落には、予想だにせぬ極上の癒やし空間がありました。
これはまさに、モフモフゆるふわの楽園だわ!
「この子たちは、普段は狩りの時だけ呼び出すんですけどね~」
「今後は集落でも出ていてもらうべきですよっ!」
私はクワッと目を見開いた。
「長い人生……生きていくうえで、どこかで一息つく時間って必要だと思うんです。それが今この時だと、まかみさんは思いませんか?」
「は、はぁ……。まあ、白蛇ちゃんも嬉しそうですし、今後はそうしてもらうつもりですけどね?」
それを聞いて安心した。
つい力を入れてしまったけど、まかみさんも今の状況が良いのだと判断してくれていたらしい。
さすがまかみさん。集落の窓口ともいえる元神さまだ。
……ところで、そのまかみさんなんだけど……私は少し違和感を覚えていた。
「まかみさん……いつもより反応が薄めですね」
「あ、モルエも思った?」
そうだ。
今日はなんだか、いつも以上にまかみさんのリアクションが小さかったのだ。
「あの……まかみさん? もしかして、何か悩み事があったりします?」
「え? そんな風に見えましたか?」
「はい……。ちょっと、何か考えてるように見えたので。あの、違ったらごめんなさい」
「いいえ、実はその通りなんですよ。ハルカさんの洞察力はオオカミ並みですね」
……それは褒められてる解釈でいいのか?
だって、普段はリアクション王みたいな人だもの。周りと比較して普通だとしても、普段の彼女と比較すればギャップが目立つのだ。
「それで、どうしたんです? 悩みがあるなら、私たちでもよければ聞くくらいなら……」
力になれるかは別だけどさ。
特に、恋愛ごとだとか言われると完全にお手上げだ。
だけど、その言葉がいけなかったのか……。
「本当ですかっっ!!?」
「ひっ!?」
「ハルカさんたちの力があれば、そりゃもう! 非常に心強いですよ!!」
勢いよく両手を握られ、思いっきり期待の目を向けられた。
……あ。
これはもう退けなさそうな感じだぞ?




