十二話 従魔
スライム、従魔契約をしたから今はスラか。
最初はカレンを襲うような凶暴性を持っていたのに、今ではそんな様子など欠片も感じない。
今も僕の足元に擦り寄って『キュイキュイ〜』と鳴いている。
ハッキリ言って、可愛い。可愛いのだが。
「うぐっ!!」
でもやっぱり、我慢しようとしても左腕の大火傷による激痛は堪えきれないものがある。
僕の左腕は肩から手まで皮膚がグジュグジュに溶けていた。真正面から見られないグロテスクな状態だ。
あまりの痛みに膝から崩れ落ちてしまう。
カレン達が僕に駆け寄り、僕の怪我を心配していた。ユーマなんか号泣しながら土下座してるし。異世界でもこういう謝罪方法があるんだな。
「……キトッ! ユキト! ボーッとしてないで早くあなたの家に行ってせいじょユキノ様に治してもらうのよ!!」
そうだ、聖女のユキノ様に……、今なんて言った?
「聖女?」
「え? あなた知らないの? あなたの両親、シュラ様とユキノ様はこの街の英雄なのよ!」
「何をしたの、うちの両親……」
僕ってそんなすごい人たちの子供だったんだ……。
「シュラ様は過去に大群でこの街に押し寄せてきた魔物達を、一騎当千のお力で退けた偉業を讃え『千騎の勇者』と国王様から栄誉ある称号を頂いたんだ」
土下座体勢のユーマが顔だけをあげて僕に教えてくれた。
「あのあのっ! ユキノ様は押し寄せる魔物と戦っていたシュラ様が、再起不能の重症を負っても魔力が尽きるまで瞬時に戦える状態に回復させたらしいです! その姿は魔物がうじゃうじゃと存在する戦場に舞い降りた聖女。お二人はこの街では誰もが羨む夫婦なのです!」
「な、なるほど……」
いつの間にか眼前にアイラが迫って、息荒く熱弁していた。アイラのオドオドした態度からの急変に僕は困惑した。
そっか、やっぱり僕の両親は凄かったのか。薄々そうじゃないかとは思ってたんだけどね。父さんのステータス、化物じみてるし。
『まぁ、お前の方が凄いやつになるんだけどな。俺様のおかげで!』
(はいはい……)
ステインってすぐ調子乗るんだよなぁ。でも、能力自体は数ある魔書の中では上位になるんじゃないかな。よく分からないけど。
「もう! そんなことよりも、はやくユキノ様に見せないと! いくよ!」
「う、うん」
すごい剣幕で迫ってくるカレンに言われたので、僕は大人しく従うことにした。
――――――
そして我が家に帰ってきました。
この時間なら多分母さんはいるね。父さんは毎日外でお仕事があるみたいで昼間は大体家にはいない。
「ただいまぁ~」
「「「お、お邪魔します……」」」
木製の扉を通る僕の後ろを、緊張の面持ちでカレン達三人が付いてきた。
アイラ等は周囲をキョロキョロと見回している。
「ほぇ〜!? 勇者様と聖女様のお家にこれるなんて光栄ですぅ〜!」
ねぇねぇ、僕も住んでるんだよ? ここ。
「あんまり、キョロキョロされるとちょっと照れるなぁ」
「はうっ! そんなつもりは……。ごめんなさい……」
「いやいやっ! 怒ってないから! 見たかったら見ていいよ!」
涙目になって謝るアイラに、あたふたしながら宥めにかかる僕。
すると、騒々しくなったのを聞きつけたのか、母さんが奥の部屋からやって来た。
「あら、ユキト帰ったのですか? 帰ったらちゃんと手を洗いなさ──」
僕の姿を見た途端に、母さんは驚愕の表情とともに手に持っていた木皿を落した。あぶね、陶器だったら割れてたね。
母さんはそのまま、僕の肩をガッと掴んできた。痛い痛い。
「そ、その傷! どうしたのですか!?」
「えっと……。川辺で遊んでたら、スライムに襲われてこうなりました?」
「抽象的すぎて訳がわかりません! それに街中に魔物だなんて、お父さんは何をしているんですか!! 何のための警備隊ですか!?」
「えへへ……」
父さんごめん、とばっちりに巻き込んで。
母さんは涙目で僕の左腕を掴みながら、状況を説明してほしいと言ってきた。
うーん、僕の説明じゃわからないらしいから、誰か代わりに母さんに伝えて欲しいんだけど……。
すると、後ろで母さんの錯乱ぶりに呆気に取られていたカレン達が我に返り、母さんに声を掛ける。
「あの、すみません。わたしはカレン=カタトロフというのですが、ユキト君がそうなったげんいんがわたし達にあって……」
カレンのその声で、やっとカレン達の存在を認識したのか、母さんがカレン達に目を向けたあと、ゆっくりと立ち上がりながらその場にいる全員に言った。
「ごめんなさい。取り乱してしまいました。とりあえず、話はユキトの大怪我を治しながらお伺いします」
といって、カレン達客間へと案内した。
その際に母さんがボソリと、
「……シュラさん、帰ってきたら問い詰めなきゃ」
と背中に寒気が走るような冷えた声音で呟いた。
父さんごめん、今日の母さんは怖いです。頑張ってください。
僕はこれから帰ってくるであろうお父さんに向けて、届くはずのない応援を送るのだった。
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