天才と買い物1
連続投稿中。次は一時間後です。
良い散策日和だ。
朝の柔らかな日差しを浴びて目を覚ます。
フィーはまだ寝ていた。その隙に手早く着替える。
そして毎朝の習慣。
「……おはよう、アサシン」
姿の見えない友人に挨拶をする。
ここは最上階で、しかも高級宿。
隙間風など吹かないはずなのに、頬を柔らかな風がなでた。
――フィーにもこの優しい人を、紹介できるようになればいいな。
「んぅ……。む……うぅ? おはよぉ?」
「あら、起きたの。おはよう、フィー。今日は町でお買い物をするのでしょう? 時間はいくらあっても足りないわ。早く出かける準備をしましょ」
「むぅー……あとちょっと……もぅしゅこし………」
窓を開け、太陽光と外の空気を取り込んだというのに。フィーは布団の中にもぐり込んでしまった。
そこでちょっとした悪戯心が芽生えた。
布団の端を持ち上げ、そこから魔法で風を送る。しかも、とびっきり冷たい風を。
私は天才なので、これくらいの小細工は朝飯前なのだ。
フィーはしばらく中でもぞもぞとしていたが、耐えられなくなったのだろう。飛び出してきた。
「寒い! 今日はとっても寒いよ!!」
「あら、これのどこが寒いのかしら? とっても暖かいわよ」
フィーは布団の外に出て、その差に目をぱちくりとさせた。
そして布団の中に手を入れ、外に出し、また入れを繰り返し、部屋の温度との違いを確認して。
「クレア! 何かやったでしょ!!」
「あはは! 目は覚めたでしょ?」
怒った彼女に改めて、おはよう、と言った。
それからフィーの身支度を手伝って、オルザたちと合流する。
朝食も一緒に食べていいということだったので、ありがたくいただいた。それも食べ終わると、町に出る際の注意事項を聞かされる。
「いいですか、フィー様。必ず俺か、エーゲル様と一緒にいること。一人で勝手に行かないこと。何か見つけたり、したいことがあれば必ず相談すること。頭についているものは絶対に取らないこと。言うことを聞くこと。……以上を一つでも守らなければ、武闘大会には行かせません」
「はーい!」
うさ耳を揺らし、フィーが元気よくお返事をする。
彼女はとてもご機嫌だ。
「貴様も。元公爵令嬢だか何だか知らないが、不審な行動をとればその場で即斬られると思え」
「あら、物騒ね」
「俺は貴様を信用していないからな」
オルザとにらみ合う。心底嫌われたものだ。
「はっはっは。まあまあ、そのくらいにして。準備も整ったことだ。さあ、フィー様。参りましょう」
「行こう!」
彼女はピョコンと椅子から飛び降りて、真っ先に扉へと向かった。
オルザもフードを深くかぶり、その後に続く。
「さあ、クレアお嬢さん。お先にどうぞ」
紳士に扉を開けてくれるエーゲルにお礼を言って、私も外へと出た。
まだ朝早いというのに、外はすでににぎわっていた。
「すごーい! クレア、早く行こう!!」
フィーのテンションは、早くもマックスだ。キョロキョロしすぎて、うさ耳が大暴れしている。
彼女が手を引っ張ってきたので、それを取り、きちんと握り直す。
これで迷子にはならないだろう。
「エーゲルさん、まずどこへ行くの?」
「ダンジョン産のものが欲しいと言っていたね。それを専門に扱っている店に行こうか」
「嬉しいわ! ええ、行きましょう!!」
私のテンションも大いに上がった。……人のことを子ども扱いできないな。
案内されたお店には、多くの人が集まっていた。
これほど生産職がいるのかと驚いたが、会話を聞くにただの観光客みたいだ。なるほど、お土産ね。
私もその中に混ざろうと思ったが、エーゲルが止める。
「ああ、クレアお嬢さん。そっちもいいがね、店には話を通してある。すでに用意してもらっているものから見ないかい?」
さすが金持ち。たった十年ちょいしか令嬢をしていなかった私とは、考え方が大違いだ。
質の良いとっておきを用意されているだろう。そちらの方がありがたいので、素直に付いて行く。
どう考えてもVIPルームであろう部屋に案内され、まずお茶をいただいた。
それから商品を並べられる。どれも選りすぐりのものなのだろう。品質がとてつもなく良い。
店の主人の説明もそこそこに聞き流し、鑑定をする。
・・・・・そこで意図的に切っていたスイッチが入ってしまった。
「――あぁ! いい! いいわ!! とても良い素材たちね! 品質も錬金要素も十分よ!」
並べられた素材たちを一つ一つ手に取る。
なんて素晴らしい。
「ああ、あなたは杖に向いているわ。でも剣に成りたいのね。敵の腹を掻っ捌きたいだなんて、とてもクールだわ。こっちの子は大人しい子。まあ、優しいのね。人の役に立ちたいだなんて・・・・・。いいわ、私が叶えてあげる。うんうん、あなたも素晴らしいわ。どれにも秀でているなんて優秀なのね。けれどやりたいことが見つからないだなんて可哀そう。任せて、私があなたに役目を与えてあげるわ! 君は箒になりたいの? 珍しいわね、でも可能よ! 夢はあきらめないで!!」
どっぷりと自分の世界に入ってしまってからは、周りの完全に引いた目に気づくことなどできなかった。




