表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

その1

 僕の朝は、父さんのぜんまいを巻くことから始まる。母さんも僕もとっくに電池式に換装済みだし、妹に至っては生まれたときから電池世代。未だにきりきりと巻かなくては動かないなんてのは、父や父以上の古い世代、いわゆるおもちゃの団塊の世代ぐらいなもんだ。大量生産されたぜんまいおもちゃたち、父さんの世代は、大人になったかつての子供たちに飽きられ、忘れられ、ゴミの山となって遠い場所へ連れて行かれてしまった。父さんのような旧型がこうして現役で動いていることは珍しいそうで、他の例外といえば、マニアックなコレクターがショーケースに展示している飾り物のおもちゃたちだ。父さんは遊ばれてこそのおもちゃ、といった古い考えの持ち主だったから、これまでも数回あったコレクション入りの打診をすべて断っている。父さんは現役にこだわるのだ。そういう頑固さは、いつまでもぜんまい式でキリキリと動いてる姿にもよく表れている。

 僕はぜんまいだった頃の記憶がほとんどない。持ち主のタカシ君が幼少のみぎりに手にしてる写真に、わずかに面影が残っている。背中に刺さっているぜんまい巻きのネジだ。父さんはタカシ君の父の代にこの家にやってきて、タカシ君に受け継がれた。二代に渡って遊んでもらうなんておもちゃ冥利に尽きる、と父さんはよく言うし、僕もそう思う。タカシ君の親はぜんまいの巻きが乱暴でやんちゃだった、とうれしそうに懐かしむ父さんを見ていると、僕も少しぜんまいがうらやましくなったりする。

 タカシ君が生まれて間もない頃(それは僕の方も生まれて間もなかった頃だけれど)、むずかったタカシ君はかんしゃくを起こして、僕を放り投げてしまった。背中のぜんまいネジはその時折れてしまい、母さんが電池式に換装してくれたのだった。大手術だったと思うけれども、当時はいわゆるバブル期で、技術も時間もお金も、有り余っていた。流行にあわせて母さんも僕と同じように電池式にして、父さんにも勧めていた。けれども父さんは頑なだった。ぜんまいの技術は、その時から既に、失われていく技術であることはわかっていたし、母も流行だけではなく健康を気遣って電池式を勧めていたのだけれども、けして応とはうなづかなかった。首が横にしか回らない旋回型おもちゃだからかもしれない。


(つづく)


【引退】

 2007年は、引退の年といわれている。そう、まさに今年、団塊の世代と呼ばれた人々が定年を迎え、日本の労働人口と隠居の人数比が激変すると予想されている。日本経済、各会社の重要な知識人口が失われるというが、実際は引継ぎも済み、穏やかな移行が行われているように感じる。

 新人類、親父狩り。何か、事あるごとに対立図式を築いてきた団塊と我々。ふと思い出すのは、父を最強だと思っていた幼かった日々。思春期を経て、社会にでて、自分が大人になって、実はあらためて、親たちのすごさに、気づかされている。


【告知】

ネットショップ「らすた」にて作品連載中。

この作品は、「らすた」より配信されているメルマガにて連載された作品です。

最新作、及び日々のコラムをご覧になりたい方は、ぜひ「らすた」を訪れてください!


↓検索キーワード「ビッダーズ らすた」

http://www.bidders.co.jp/user/2573628

↓ブログ書いてます。

http://blogs.yahoo.co.jp/kato_in_the_sky



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ