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第50話 私の勝ち!


 二年ぶりの手合わせ。シェラード領の屋敷や王都の屋敷ではなく、ハワード領の別荘……しかも浜辺という少し変わった場所での手合わせ。二年ぶりの手合わせが他領の浜辺なんて一体誰が予想できる。しかも何故か見学者がいるし……

 少しは緊張するかと思ったが全くそんなことはなく。訓練用の木剣を構えてルクスと向き合えば周りのことなんて何も気にならなくなった。だって二年ぶりの手合わせだもの、凄く楽しみだ。

 審判はさっきまでルクスと手合わせをしていたグレオ殿下に任せた。流石にティアやクライ嬢に任せるのは危ない。二人に剣が飛んで行ったら怪我をしてしまう。木剣とはいえ、当たれば痛い。


「はじめ!」


 殿下の声に反応して瞬時に踏み出す。けれどそれはルクスも同じ。速さは私の方が上だけど、力では圧倒的にルクスの方が強い。単純な力比べだと敵わない。ならどうするかって? 受け流せば良いだけ!

 ルクスが打ち込んできた剣を流れに沿って角度を変えて受け流した。ルクスも予想はしていたのか、体が持っていかれる程の力は込めていなかった。それでも私より力が強いって……ちょっとズルく感じる。


 私もルクスに打ち込むが、あっさり受け止められてしまった。このまま押していっても負けるのは目に見えている。後ろに飛んで距離をとってから、再びルクスに向かって走り出した。

 ルクスの剣術は大まかだが理解している。けれどそれはルクスも同じ。二年前の手合わせから、ほぼ一緒に鍛錬してきた。お互いの剣術を知っていて当然だ。


 もちろん勝ちたい。けれどそれ以上に、私は楽しみたい。既に楽しくなってきているのだから、これからもっと楽しくなる。勝てれば良いが、負けても良い。これは手合わせであって、試験でも戦場でもない。手合わせは、今の自分の実力を知ること、対人戦を学ぶこと……けれど何より、私にとっては楽しむものだ。

 押して斬ろうとする剣はシェラード家の剣術ではなく、学院で教えられたものだろうが、この方がルクスには合っているのかもしれない。対して私は引いて斬る剣。力のない私が対等に剣を交わすためには速さと技術でカバーするしかない。


「二年前とは随分違うわね!」

「嫌かい?」

「いいえ、今の方が楽しいわ!」


 二年前とは大違い。自信なさげで私に勝ったことを必死に謝っていたルクスはもういない。きっと心のどこかには残っているけれど、それでも今のルクスは堂々と自信を持っている。一時期少し変わったかとも思ったけど、やっぱりルクスはルクス。何も変わってなんかいない。成長しただけだった。

 だってこんなに楽しいんだもの。前よりもっと楽しい。お互い本気でぶつかるというのはこういう事だと肌で感じる。


「さっきとは全然違いますわね……」

「見えませんわ」

「私との手合わせは準備運動程度……いや、準備運動になっていれば良い方か……」


 三人の声が聞こえた気がしたけど、私は気にせず続けた。周りの声に一瞬でも気を取られれば負けてしまうから。けれど着実にルクスは疲れてきている。当然だ、さっきまで殿下と打ち合っていたのだから。休みもなくすぐに私と試合をすれば疲れるのは当然だ。

 そろそろ終わらせた方が良いだろう。ルクスの体力だけじゃない。私も限界が来てしまう。それはルクスも同じ考えのようで、私に向かって一直線に剣を振り下ろす。さっきまでとは明らかに込められている力が違う。まともに受けようとしたら私の木剣が折れかねない。


 私はルクスの剣を受け止める振りをして木剣を構えた。重い一撃が入る前、ルクスの剣と私の剣が触れたその瞬間。私はくるりと剣を回し、ルクスの木剣を地面に逸らす。

 勝敗は決した。私はルクスの木剣が地面に刺さった瞬間に木剣を首の横スレスレで止めていた。


「勝者、セシリア!」


 殿下の声と共に試合が終わる。お互い息も切れてクタクタ。興奮しすぎて周りが見えていなかったこともそうだが、自分の体力も度外視して楽しんでいた。もうそろそろ限界というところでようやく気が付いた。

 こちらに向かってくるティア達を横目に、服が砂で汚れるのも気にせず地面に仰向けに倒れ込んだ。ザッと砂に重みが掛かった音がした。近くから同じような音がもうひとつ聞こえたから、多分ルクスも私と同じ状態だ。


「せ、セシリア様!? ルクス卿まで……大丈夫ですの!?」

「ど、どこか怪我をなさったのですか?」

「うふふ……あはははは!!」


 倒れ込んだ私たちの心配をする二人。そんな中声を出して笑う私は空気を読んでいないと言われてもおかしくはない。けれど楽しかったのだ。二年越しでようやく勝つことができた歓喜と高揚感。


「楽しかったわ。ルクス、今回は私の勝ちよ」

「あぁ、僕の負けだ。けど……うん、楽しかった」


 地面に寝転がりながら笑う私達に、不思議そうに見ているティアとクライ嬢。それに、何か考え込むような殿下。こういう時、この状況はなんというのだろうか。


「とりあえず、お二人とも一度シャワーを浴びてきた方が良いのでは……」

「殿下、もう少し空気を読みましょう」


 全て殿下が持っていった。

 

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