第51話 一週間の終わり
一度シャワーを浴びてから集まった私達。少し髪が濡れているのは大目に見てもらいたい。乾かすのに時間がかかる。
本気でやり過ぎて汗をかいたのもそうだけれど、一番は砂浜に横たわった事で髪の間まで砂まみれになってしまっていた。砂浜の砂はかなり細かかったからか、長い髪に絡まるように付いてなかなか落ちなかった。
(もう二度と砂浜に寝転んだりしない。これは決定事項)
既に席に着いている全員を見ながら私も座る。待たせたのは申し訳ないが、こればっかりは仕方がなかった。隣に座るルクスもまだ少し髪が濡れていた。私は水が滴らないよう肩にタオルを掛けていたが、ルクスも同じような格好をしていた。
貴族らしくないと言われればらしくないのかもしれないが、私たちはあまり気にしない性分なので気にしないでもらおう。さて、これから何を言われるかなんて大体想像はついている。先程の手合わせのことだろう。それ以外でわざわざ集められてまで話をする事なんてないはずだ。
けれど正直お腹が空いてしまった。だってあれだけ派手に動いて、倒れるまで打ち合ったのだから、お腹が空くに決まっている。加えて既に昼食の時間を少し過ぎている。せめて先に昼食を食べさせてもらいたい。
「さて……先程のお二人を見てよく分かりました。お二人とも、本当に仲がよろしいんですね」
「そう、ですわね……」
「この際少々はしたない行いは目を瞑りましょう。先程のお二人の剣術については今は言わないでおきます。既に昼食の時間を過ぎていますし、聞きたいことがあれば個別に。お二人には昼食の準備をお願いしたいと思います」
そわそわするクライ嬢と何か聞きたそうな殿下に、ティアがそう言った。ティアの提案はとても助かる。なんせ私もルクスも既にお腹ぺこぺこ。あれだけ動いたのだから当然だが、このまま質問責めに合えば間違いなく腹の虫が大きな音を立てて鳴るに決まっている。
クライ嬢とグレオ殿下は何か聞きたいというか、言いたそうだったが、今は昼食が先。少し昼食には遅くなってしまったので、簡単に市場で買った魚を焼いて食べた。
ちなみに、昼食後は私とルクスで髪を拭きあっている間にひたすら質問責めに合った。結局こうなってしまった。夕飯までの時間、私たちは手合わせよりもどっと疲れが溜まることになった。
〜
楽しい時間もあっという間。一週間もあれば色々な事ができそうだが、そうもいかない。私たちが動ける範囲は限られていた。なんせここは王都ではなくハワード公爵領。クライ嬢ならともかく、私とルクスは同じ四大公爵家で中立派。あまりハワード領を動く事はできない。
一週間ある中で、三日目からはほとんどやる事が決まってしまった。買い物に料理、談笑に手合わせと観戦。同じ事ばかりだが、毎日少しずつ違う刺激もあって楽しかった。
そんな一週間があっという間に過ぎ、私たちは王都に帰ることになった。さて、王都に行くにあたってひとつ問題がある。そう、私の馬車酔い。
慣れない一週間に知らぬ間に疲れは溜まっていたようで、すぐ眠りに落ちたところまでは良い。だが前日降った雨で道がぬかるんで止まっては動いてを繰り返していたせいか、行きより馬車が揺れた。
馬車が止まればガタンと揺れ、私は揺れによって起こされる。その度に馬車酔いが酷くなっていく。王都に着く頃には顔は真っ青になっていた。ちなみに道中朝ごはんが胃の中からなくなった。
「あの、よろしければこのままシェラード家のお屋敷まで送りましょうか?」
「いえいえ、そこまでしていただかなくても大丈夫です。何より、ハワード家の屋敷の近くに迎えの馬車が既に着いているはずですから、急に予定を変える訳にはいきません」
ティアの提案を断って私たちはハワード家の屋敷に到着した。ふらふらする私をやはりルクスが抱きかかえて運んでくれた。門の前に待機していた馬車に乗り換えてシェラード家の屋敷に帰った。
残念ながら馬車酔いでまともに挨拶もできずに別れることになってしまった。申し訳ないので後で手紙を送ろう。ちなみにシェラード家の屋敷に着いた私はベッド直行となりそのまま寝た。
〜
「あ〜よく寝た!」
眩しい朝日に目が覚めた。ハワード領から屋敷に帰ってきてすっかり酔いも覚めていた。どうやらメイドが着替えまでしてくれていたようだ。
……着替え? ふと気付いて外を見れば綺麗な朝日が部屋を照らしていた。ハワード領から帰ってきたのは夕方で、まだ日も落ちていない時間だったはず。まさか……
「寝過ごした!?」
屋敷中に響き渡った私の叫び声に、慌てた使用人と何かを悟ったようなルクスが部屋に入ってきたのは……当然の反応だったのだろう。




